テクニシャン揃いのモロッコ、柔軟なチュニジア 身体能力だけのアフリカは過去のもの

柔軟な戦い見せるチュニジア photo/Getty Images

ロシア大会ではアフリカ勢の変化が顕著に

アフリカのチームといえば身体能力を活かしたサッカーを展開してくるイメージが強い。対戦する際は何よりもスピードを警戒することだろう。しかし、身体能力の強さを前面に押し出したサッカーをやってくるというアフリカ特有のイメージは古いものとなってきている。

今回ロシアワールドカップに出場しているアフリカ勢はナイジェリア代表、エジプト代表、チュニジア代表、モロッコ代表、そして日本代表と同組のセネガル代表の5チームだ。このうち最もアフリカらしいサッカーを展開しているのはナイジェリアだろう。前線にはパワーあるオディオン・イガロが構え、スピードのあるヴィクター・モーゼスやアレックス・イウォビがどんどん仕掛けていく形だ。

しかしその他のチームの中には全く異なるスタイルで戦っているところもあった。印象的だったのはモロッコだ。1998年大会以来となる出場を果たしたモロッコは、非常に細かく繋いでくるテクニシャンが揃った集団だった。中盤の選手たちが頻繁にポジションチェンジを繰り返し、僅かなスペースでもショートパスを繋いでいく。これはアフリカ勢に対して我々が抱いているイメージとは異なるものと言える。
モロッコには世代別代表ではオランダを選択していたアヤックス所属MFハキム・ツィエクや、フランスを選択していたシャルケ所属MFアミーヌ・アリ、ガラタサライ所属MFユネス・ベルアンダ、フランス出身のウォルバーハンプトン所属DFシモン・サイス、スペイン出身のレアル・マドリード所属DFアクラフ・ハキミなど、異なる国にルーツを持つ選手たちが多く揃っている。それもテクニシャンが揃っている理由で、彼らはアフリカのチームながら欧州で技術を磨いた選手たちが中心となっている。

チュニジア代表も興味深い。チュニジアはナイジェリアやセネガルに比べると世界的に名の知られたタレントは少ない。しかしアフリカ予選から複数のシステムを使い分けるなど柔軟性を武器に戦っており、その特長はワールドカップ初戦のイングランド代表戦から出ていた。イングランドの3バックに合わせたシステムに変更するなど、今のチュニジアは非常に理論的なチームになっている。複数の戦術に対応できるクレバーな選手が揃っていることが大きな特長だ。

そして何と言っても日本が対戦するセネガルだ。セネガルにはサディオ・マネなど欧州主要リーグでプレイする選手が数多く揃っており、顔ぶれはナイジェリアと並んでアフリカの中でトップレベルだ。こうしたチームは身体能力など個々の能力に頼りがちになってしまうものだが、セネガルは組織力も優れている。初戦のポーランド代表戦では同点を目指して攻撃的に出てきたポーランドに対応すべく試合途中からシステムを変更しており、試合中に戦い方を切り替えることができる。欧州でプレイしている選手が大半を占めているため、戦術理解の部分でも劣っているところはない。身体能力と知性を兼ね備えた恐ろしい集団だ。ポーランドを撃破したことからグループH最強はセネガルではないかとの意見も出ており、日本もかなり手を焼くことになるだろう。

以前サッカー界の神様である元ブラジル代表ペレ氏は、21世紀のサッカー界はアフリカ勢が支配するのではないかとの予想を立てていた。しかしこれまでその予想通りには進まず、アフリカ勢はワールドカップで目立った成績を残せていない。前回のブラジルワールドカップではカメルーン代表の選手たちが結果が出ないことの苛立ちから試合中にチームメイトと喧嘩になるなど、組織力の部分には大きすぎる課題があった。21世紀に入ってからも身体能力だけで欧州や南米の強豪に勝てるほど甘くないことが証明されるばかりで、ペレ氏の予想は完全に外れたと見る向きもあった。

しかし21世紀は始まったばかり。今大会ではカメルーンやコートジボワール代表、ガーナ代表など近年のワールドカップ常連国とも言えるチームが予選で姿を消したが、その代わりにモロッコやチュニジアなど新たなマインドを持つチームが躍進を遂げている。

残念ながらモロッコはイラン代表、ポルトガル代表に敗れてグループステージ敗退が決まり、チュニジアも善戦空しくイングランドとの初戦を落とした。エジプト代表も頼みのモハメド・サラーが本調子に戻らず、2連敗でグループ敗退。快調なスタートを切ったのはセネガルだけと、アフリカ全体で見れば今大会も結果は出ていない。しかしその戦いぶりには変わったところも多く見られ、アフリカのサッカーはより組織的なものへと変化を遂げている。まだ2018年、アフリカ勢が世界を本格的に支配する時は近づいているのかもしれない。

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