ポルトガルの名門スポルティングCPでゴールを量産し、今夏アーセナルの補強ターゲットになっているFWヴィクトル・ギェケレシュ。
ギェケレシュはスウェーデン代表のストライカーだが、近年印象的なのがスカンジナビアから出てくるセンターフォワードたちだ。
ここでいうスカンジナビアとは、一般的にノルウェー、スウェーデン、デンマークの3か国を指している。データサイト『Opta』もスカンジナビアの不思議として注目しているが、近年はこの3か国から次々と優秀なセンターフォワードが出てきているのだ。
ノルウェーの場合は何と言ってもマンチェスター・シティFWアーリング・ハーランドだ。194cmのサイズに加え、縦への爆発的なスピードも備える。そのフィジカルはまさに新時代の怪物と呼ぶにふさわしい。
しかもハーランドだけではなく、アトレティコ・マドリードFWアレクサンダル・セルロート、ウォルバーハンプトンFWヨルゲン・ストラン・ラーセンもいる。セルロートも194cm、ラーセンも193cmと、いずれも高さは強烈だ。
スウェーデンはギェケレシュに加え、ニューカッスルFWアレクサンデル・イサクがいる。この2トップは現スウェーデン代表の看板となっており、これだけ完成度の高いセンターフォワードが2枚揃う代表チームも珍しい。
デンマークではやや苦戦気味だが、マンチェスター・ユナイテッドFWラスムス・ホイルンドが期待のエース候補だ。ハーランドらと同じく高さと推進力を備えており、足下の技術やポジショニングなどを伸ばしていけばワールドクラスのストライカーへ育つポテンシャルはある。まだ22歳と若いだけに、焦りすぎる必要もないだろう。
そのデンマークでは、伸び悩むホイルンドを追い越す勢いでモナコFWミカ・ビエレスがブレイク。今冬にシュトゥルム・グラーツからモナコに加入し、後半戦だけでリーグ・アンで13ゴールとゴールを量産した。ホイルンドと同じ22歳と若く、デンマーク代表1番手FWの座を固めそうな勢いだ。
ヴォルフスブルクでプレイするFWヨナス・ウィンドも実力者であり、デンマークもノルウェーやスウェーデンと同じく実力あるセンターフォワードを複数枚揃えている。
なぜこの地域から次々と実力あるFWが出てくるのか。近年はモハメド・サラーなどを筆頭に得点を量産するウイングプレイヤーが1つのトレンドになっていたが、スカンジナビアでは大型のセンターフォワードがトレンドだ。
ノルウェーの人口は530万人、デンマークは550万人、スウェーデンは1045万人と、人口が多い国というわけでもない。そこからトップリーグで戦えるセンターフォワードが複数枚出てきているのは何とも興味深い。
アドバンテージがあるとすれば、高さだ。同サイトはデンマーク人の平均身長が世界第4位、スウェーデンとノルウェーもTOP13には入っていると紹介していて、環境的に190cm超えの人も珍しくない。そんな大柄なサッカー少年に高度なテクニックを仕込むことで、ワールドクラスのセンターフォワードが育ちやすくなっているのかもしれない。
デンマークのオーフスやドイツのデュッセルドルフ、スウェーデンのマルメなどで指揮官を務めてきたドイツ人監督ウーヴェ・ロスラーも、まず高さが印象的だと語る。
「デンマークの場合、4-3-3のシステムが非常に人気だ。国内リーグのほぼ全てのチームがこのシステムを採用していて、このシステムは常に1人のセンターフォワードと2枚のウイングがいることになる。全てのチームが9番の育成に動いているため、これもデンマークから9番タイプが輩出されやすい理由の1つだろう。それにデンマーク人は背が高いだろう?それがセンターフォワードのポジションにおいて有利に働いている。スカンジナビアの人々は遺伝的に背が高く、そこにテクニック、機動力を組み合わせることができれば、大きな進歩を遂げられる」
もっともセンターフォワードだけで勝ち抜けるわけではなく、ノルウェーやスウェーデンの場合はDFやMFも育てていく必要がある。EURO2020でベスト4に入ったデンマークは全体的にバランスの取れたチームとなっているが、ノルウェーやスウェーデンは最終ラインと中盤がやや心許ないか。
ロスラーは、ここにもスカンジナビアならではの事情があるのではないかと推察している。
「若いストライカーの育成は、センターバックに比べてリスクが低いんだ。もしストライカーが若いうちにゴールを決めれば、市場価値が高くなりやすい。一方でDFはそうした評価を獲得しづらいと言える。だからクラブは才能あるアタッカーの育成に強いこだわりを持っていると思う。イングランドのような国では、サッカーは結果が重視される。しかし財政的にそれほど強力ではない他リーグのクラブは、毎年選手を売却することに重点を置いているからだ」
センターフォワードの選手の方が売却する際に高値がつきやすいとなれば、各クラブがそこの育成に力を入れるのも仕方がないか。狙い通りに一流ストライカーを育てているのは見事だが、今後もこの地域のセンターフォワードは人気を集めていくことになりそうだ。