[特集/欧州クライマックス 03]興奮アップの神改変か、負担増の改悪か 欧州大会新フォーマットを問う

欧州はもちろん全世界を魅了するCL、EL、ECLは、今季から大きくフォーマットが変わった。これまでの4チーム×8組によるグループステージから、スイス方式のリーグフェーズに変更。大会序盤からメガクラブ同士の対戦が組まれ、話題性のある試合が続出した。各チームの試合数も6から8に増え、出場クラブにはこれまでよりも多くのお金が入るようになった。

一方で、試合数が増えたことで選手はケガのリスクが高まることに。また、疲労を考慮した選手起用が必要で、監督の采配も難しくなっている。さらには、リーグフェーズのあとにプレイオフがあることで強豪クラブがラウンド16に残りやすいと考えられていたが、今季はそうでもなかった。新たなフォーマットには、いったいどんなメリット&デメリットがあったのだろうか。

新方式導入で試合数増加 セルティックも10試合消化

新方式導入で試合数増加 セルティックも10試合消化

プレイオフでまさかのビッグマッチ。シティはレアルに敗れ、決勝ラウンド進出を逃した Photo/Getty Images

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欧州サッカー連盟(UEFA)が主催するCL、EL、ECLは、今季から大会方式が大きく変更された。CLを例にみると、昨季までは32チームが本戦に出場し、4チーム×8組によるグループステージが行われていた。グループ内でホーム&アウェイを行うので、各チームの最低試合数は6試合だった。

今季は出場チームが36に増加し、グループステージに変わってスイス方式のリーグフェーズが導入された。出場36チームをUEFAクラブランキングの順番に9チームずつ4つのポットに分け、各ポットから抽選で選ばれた2チーム×4ポット=8チームと対戦するというもの。すなわち、各チームが最低でも8試合を戦うことになったのである。

今季のCLの成績に応じた賞金は本戦出場で1862万ユーロ(約30億6110万円)、リーグフェーズでの勝利210万ユーロ(約3億4526万円)、引分け70万ユーロ(約1億1508万円)だった。勝ち上がることで賞金額は増えていくが、最低試合数が6→8に増えたことで各チームが成績による賞金を手にするチャンスが増えている。
これとは別に、UEFAが算出した係数をもとに各チームに支払われる分配金、TV放映権料などがある。分配金は最終順位が上位のほうが高くなるし、TV放映権料も試合数に応じて受け取れる金額が変わってくる。これまでより最低でもホームゲームが一試合多く、試合数の増加は間違いなく各チームの収益アップにつながっている。

試合数をなんとか増やしたいUEFAは、リーグフェーズのあとにラウンド16進出をかけたホーム&アウェイのプレイオフを設けることも忘れなかった。リーグフェーズの1位~8位はそのままラウンド16へ。9位~24位でプレイオフを行い、勝者がラウンド16進出というひと手間が加えられている。

すなわち、出場36チーム中、リーグフェーズで敗退するのは12チームだけ。残りの24チームは、少なくともCLを10試合は戦えるのである。

昨季までのレギュレーションだとラウンド16進出チームを決めるため、32チームによるグループステージで合計96試合が行われていた。新たなレギュレーションでは36チームがリーグフェーズで144試合+プレイオフ16試合=計160試合となっている。以前よりも64試合も多いのである。

前田大然、旗手怜央がプレイするセルティックはスコットランドでは強豪であり、CLに出場する常連クラブとなっている。ただ、この2年間はグループステージ敗退が続いていた。大会方式が変更された今季はリーグフェーズで3勝3分け2敗で21位となり、プレイオフに進出した。もし、16位までがそのままラウンド16にストレートインするレギュレーションであれば、ここで敗退していた。セルティックは新方式の恩恵を受けた形で、しかもプレイオフの相手はバイエルンだった。

結果としてバイエルンに敗れたが、第1戦が行われたホームのセルティック・パークは57,406人の観衆で埋まった。もともとホームには同程度の観衆を集めるが、こうした“ドル箱”とされるホームゲームが一試合でも増えるのはクラブにとってもサポーターにとってもうれしいことだ。セルティックは昨季までのレギュレーションだったら6試合で終わっていた可能性があったところ、10試合を戦うことができた。クラブは収入が増え、選手はハイレベルな経験をより多く積めた。こうした部分は、新方式によるメリットだったと考えられる。

第1節から好カードが実現 マドリードの両雄と連戦!?

第1節から好カードが実現 マドリードの両雄と連戦!?

リーグフェーズ最大のビッグマッチとも言われたバルセロナ×バイエルン。結果は4-1でバルサの圧勝に Photo/Getty Images

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UEFAランキングを基準に9チームを4つのポットに分け、同じポットのチームとも2試合を戦うというレギュレーションによって、リーグフェーズからビッグマッチが相次いだことも新方式のメリットだったと言える。ポット1は言わずもがなのメガクラブばかり。ポット2にもレヴァークーゼン、アトレティコ・マドリード、ユヴェントス、アーセナル、ミランなど強豪が入っていて、リーグフェーズは好カードが目白押しとなった。

第1節からマンチェスター・シティ×インテル(0-0)という一昨年のCL決勝が再現され、第3節ではレアル・マドリード×ドルトムント(5-2)という昨年の決勝カードもあった。昨季までならグループステージでは別組に分けられるチームで、ネームバリューのある対戦が増えたのは間違いない。第3節のバルセロナ×バイエルン(4-1)、ライプツィヒ×リヴァプール(0-1)などもポット1同士の対戦で、いずれも昨季までは実現しない好カードだった。

リーグフェーズでは同国から出場したチーム同士は対戦しない。他の同一国の出場チームとの対戦は2試合までという縛りもあった。要は、ドイツからはバイエルン、ドルトムント、ライプツィヒ、レヴァークーゼン、シュツットガルトの5チームが出場したが、リーグフェーズではこの5チームの対戦はない。さらに、他国のチームが対戦するのはこのなかから2チームまでという縛りである。

逆にいえばリーグフェーズで同一国2チームと対戦する可能性があるわけで、これは複数のチームに当てはまった。リヴァプールは第1節ミラン(3-1)、第2節ボローニャ(2-0)とイタリア勢との対戦が続き、第3節からはライプツィヒ(1-0)、レヴァークーゼン(4-0)のドイツ勢、第5節からR・マドリード(2-0)、ジローナ(1-0)のスペイン勢と対戦する特徴的な日程だった。そして、これらの対戦を全勝で乗り切っている。

今季はイタリアから5チーム、イングランド、スペインからは4チームが出場権を得ている。昨季まではグループステージで同国2チームが同じ組に入ることがないように抽選されており、必然として対戦相手が同一国の2チームと対戦することはなかった。それが、新方式のもとドルトムントも第3節でR・マドリード(2-5)、第6節ではバルセロナ(2-3)と対戦している。レッドブル・ザルツブルクは第7節R・マドリード(1-5)、第8節A・マドリード(1-4)という魅力的だが厳しい連戦だった。新方式の導入によって、こうした日程、対戦が実現したのである。

問われる好カードの希少性 改善点は修正すればいい

問われる好カードの希少性 改善点は修正すればいい

準決勝インテル戦で負傷してしまったバルセロナのクンデ。CLも含めた過密日程が祟ったか Photo/Getty Images

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新方式を導入するメリットに、試合数が増えるため強者が敗退する可能性が低くなるというものがあった。リーグフェーズは8試合あるので、一つ二つを取りこぼしても十分に取り戻せるという考えである。実際、プレイオフに勝ち上がったなかで最低順位(24位)のクラブ・ブルージュは、3勝2分け3敗の勝ち点11だった。ひとまず1シーズンを終えて(決勝は残っているが)、来季からはおそらくこの数字がプレイオフ進出へのひとつの目安となる。

8位以内となってラウンド16にストレートインしたチームでも、6位~8位のレヴァークーゼン、リール、アストン・ヴィラが5勝1分け2敗の勝ち点16であり、2敗、あるいは3敗しても勝ち上がる可能性がありそうだ。

リーグフェーズで敗退した12チームをみると、ポット4から6チーム、ポット3から4チーム、ポット2とポット1から1チームとなっている。UEFAランキングの上位18チーム中、16チームがラウンド16にストレートインか24位以内を確保してプレイオフに進出している。新方式はやはり、強者にやさしいと考えられる。

とはいえ、「とりあえず24位以内に入ればいい」という油断があったのか、ポット1からプレイオフにまわったチームが5つあった。UEFAランキングで上位4チームだったマンC、バイエルン、R・マドリード、PSG、さらにはドルトムントである。このうち、R・マドリード×マンCはプレイオフで対戦することになり、マンCはラウンド16に残ることができなかった。

ポット2だったユヴェントス、ミランのイタリア勢もそれぞれプレイオフでPSV、フェイエノールトのオランダ勢に敗れている。強者にとってリーグフェーズで24位以内に入るのはやさしいが、プレイオフにまわるとなにが起こるかわからない。とくに、下のほうの順位で終えると厳しい戦いを強いられる。R・マドリード(11位)×マンC(22位)は各チームにとって教訓になったはず。新方式では、リーグフェーズで8位以内に入ってラウンド16進出を決めたほうがいい。来季からは、ひとつでも上の順位を目指して各チームが8試合を戦うはずである。

一方で、強者であればあるほど、リーグフェーズすべてをフルパワーで戦うのは難しい。今季は第1節からマンC×インテルが実現したが、強度は一昨年のCL決勝とは違い、お互いになにがなんでも勝ちにいくという一戦ではなかった。同じマンC×インテルでも、リーグフェーズと決勝では違う。準決勝や準々決勝とも違う。

そういった意味では、早い段階から好カードが次々にマッチアップされるのは長い目でみると決して良いことではない。高品質で希少価値が高い商品であっても、品数が増えれば消費者の購買意欲は低下していく。今後もリーグフェーズでビッグマッチが行われることで、サポーターにどんな変化が生まれるか。この部分に関しては、新方式のデメリットを感じずにはいられないところだ。

試合数増加でより過密日程となり、選手への負担が増しているのも明らかなデメリットとなる。たとえばバルサは、ロベルト・レヴァンドフスキをハムストリングの負傷で欠くなか準決勝をインテルと戦った。さらには、第1戦の前半にジュール・クンデがやはりハムストリングを痛めて交代となった。今季フル稼働のクンデだったが、大事なところで欠場することになってしまった。

一方、インテルも大黒柱のラウタロ・マルティネスが左太ももに違和感を覚え、第1戦は前半で退いている。また、マルクス・テュラムはCLには出場しているが、内転筋の疲労でセリエAでは第33節ボローニャ戦から3試合に出場していない。インテルはセリエAとCLの両方で優勝の可能性がある。シーズンの大詰めを迎えて、シモーネ・インザーギ監督は難しい采配を強いられている。

こうした状況に置かれているのはバルサやインテルだけではない。強者であるほど年間にこなす試合数が多く、選手はケガのリスクと戦っている。同時に、監督を含めたチームスタッフはコンディションを考えた調整が必要で、休養を与えるためのターンオーバーが必要になっている。そして、これがリーグフェーズでいわゆる強者が順位を上げられなかった要因になったのかもしれない。

新方式はまだ1シーズン実施されただけ。サッカー界はルールも含めて、変更したほうがいいと判断したら臨機応変に動く傾向にある。改善点があれば、修正する。それでもダメなら、元に戻す。あるいは、新たな方式を考える。チャンピオンズカップからチャンピオンズリーグになったように、欧州カップ戦はこれからも時代とともに変化していくのだろう。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD305号、5月15日配信の記事より転載

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