[特集/プレミア最新勢力図 01]リーグ前半戦をリードするのはどこだ! プレミアBIG6戦力・戦術変化

 22-23シーズンのプレミアリーグはここまで6試合が消化され、すでに最高潮の盛り上がりを見せている。シーズン中にW杯を挟むため変則的なスケジュールで開催される今季は、よりタイトな日程をこなさねばならず、だからこそスカッドの充実度がものをいう。実力と財力を兼ね備えたBIG6にとっても、とりわけ難しいシーズンだといえるだろう。
 前半戦で調子を落とせば、主力選手のコンディションが乱れるW杯後には挽回が難しくなることも考えられる。つまりは、前半戦の出来が鍵を握っているのだ。BIG6によるタイトルレースは、いつになく波乱の予感が漂っている。

ハーランドら強力な新戦力が融合 新たな武器で3連覇目指すマンチェスター・シティ

ハーランドら強力な新戦力が融合 新たな武器で3連覇目指すマンチェスター・シティ

ラストピースとしてシティにやってきたアーリング・ハーランドは期待以上の活躍を見せ、チームに貢献している。高く、強いストライカーで、近年ペップが求めていた選手だ photo/Getty Images

 ペップ・グアルディオラ監督はこれまでゼロトップなどを選択して戦ってきたが、今シーズンはその必要がない。アーリング・ハーランドという待望していた「9番」タイプのストライカーを得て、各選手がイキイキとサッカーを楽しんでいる。

 チームは恐ろしいまでの得点力を誇り、順位こそ2位だが9月14日時点では第6節を終えて20得点を叩き出している。なかでも、ハーランドは2節連続ハットトリックを達成するなど初挑戦となったプレミアでも“違い”をみせ、史上最速で二桁得点に到達している。

 ハーランドは最終ラインの裏に抜け出そうとするので、最終ライン、中盤の選手が常に前線へパスを出すことを狙っている。とくに、もともとスルーパスの精度が高いケビン・デ・ブライネ、イルカイ・ギュンドアンとは相性が良さそうで、両名がボールを持つとハーランドが裏へ走り、その動きに合わせてパスが出される。
 屈強な身体を持ち、前線、ゴール前でターゲットにもなれる。フィル・フォーデン、ベルナルド・シウバ、ジョアン・カンセロ、カイル・ウォーカーといったサイドの選手にとっても有難いストライカーで、ボールを預けて自分が走り込む。多少ムリだと思われても、ゴール前にクロスを入れる。こうした選択に迷いがなくなることで、動きの質、プレイの質がより高まることにつながっている。

 今後に向けた不安材料があるとすれば、選手層だろうか。まだシーズンがはじまったばかりだが、試合ごとにシステムの違いはあるが、選手がほぼ固定されている。とくに最終ラインは、センターバックこそルベン・ディアス、ジョン・ストーンズ、ネイサン・アケと選択肢が豊富だが、両サイドはカンセロ、ウォーカーが代えの利かない存在になっている。

 新加入のセルヒオ・ゴメス、マヌエル・アカンジ。17歳でユース所属のリコ・ルイス、19歳のジョシュ・ウィルソン・エスブランド。これらの選手が台頭してくると、グアルディオラ監督もやり繰りが楽になる。
 
 今季は勝ちきれなかった試合が、すでに2つある。チーム状態がいいいまのうちに、3連覇に向けて最終ラインのコマ不足に答えを出しておかないと、思わぬところで足をすくわれるかもしれない。

まさかの開幕3戦勝ちなし けが人続出と苦境に立たされるリヴァプールは前線の奮起が鍵

まさかの開幕3戦勝ちなし けが人続出と苦境に立たされるリヴァプールは前線の奮起が鍵

リヴァプールの目玉補強であるダルウィン・ヌニェス。しかしここまでリーグ戦1ゴールと物足りず、自身の価値を示す必要がある photo/Getty Images

 早くも波乱に巻き込まれているのがリヴァプールだ。昨シーズンは完成度の高い洗練されたサッカーでシティと激しく優勝を争ったが、サディオ・マネ、ディボック・オリギ、南野拓実などを放出した今シーズンは、開幕3戦勝ちなしと出後れた。第4節ボーンマス戦には9-0という圧勝を収めたものの、9月14日時点ではまさかの7位。9月7日のCLナポリ戦に1-4で完敗するなど苦戦が続いている。

 そもそもケガ人が続出していて、どこかチームがバタバタしている。マネに代わる得点源になれるポテンシャルを持つディオゴ・ジョタが筋肉系のトラブルで出後れた。深刻なのは中盤で、アレックス・オックスレイド・チェンバレンがハムストリングを痛め、ナビ・ケイタも筋肉系のトラブルで離脱中。チアゴ・アルカンタラも開幕戦で負傷し、カーティス・ジョーンズも復帰を待たれている状況だ。追加すれば、最終ラインではイブラヒマ・コナテがヒザの負傷でいまだ出場できていない。

 それでも、クロップ監督はこれまで積み上げてきた[4-3-3]に変化を加えることなく、継続性ある戦いを続けている。ファビーニョ、ジェイムズ・ミルナー、ジョーダン・ヘンダーソンで構成する中盤はやや錆びれたイメージもあるが、一方ではやはり古の趣、安定感がある。計算できるという意味では、この3名は非常に頼りになる。

 あとは、19歳のハーヴェイ・エリオット、新加入で20歳のファビオ・カルヴァーリョ、さらには移籍期限ギリギリでユヴェントスから獲得したアルトゥールがどれだけフィットするかだろう。負傷者が復帰してきたときに、これらの選手たちがクロップ監督の信頼を得ていたなら、それは怪我の功名となる。

 マネが抜けた3トップに関しても、時間が必要そうだ。タフで離脱が少ないモハメド・サラーを軸に、ロベルト・フィルミーノ、ルイス・ディアス、ダルウィン・ヌニェス、さらにはジョタ。現状はインサイドハーフでの出場が多いエリオットも右ウイングで稼働できるため、コマは揃っている。順位上昇のためには前線の得点力を蘇らせることが不可欠だ。

 いずれにせよ、戦力が整い、万全の状態になるまでしばらくかかりそうだ。しかし、優勝するためにはこうした苦しいチーム状態でも前半戦で勝点を積み重ねておかないといけない。さもなくば、後半戦で取り返しのつかない出後れを背負うことにもなりかねない。

シーズン開始約1ヵ月で監督解任 新指揮官ポッターはチェルシーをどこから変える?

シーズン開始約1ヵ月で監督解任 新指揮官ポッターはチェルシーをどこから変える?

ブライトンからやってきたグレアム・ポッター。評価の高い監督だが、ビッグクラブを率いた経験はなく、チェルシーを立て直せるのか注目される photo/Getty Images

 誰が、今シーズンBIG6内での解任第一号がトーマス・トゥヘル監督になると予想できただろうか。ケチがついたのは第2節トッテナム戦で、終了間際にVARで不満があったとはいえ、アントニオ・コンテ監督との試合後の握手で横柄な態度を取り、大いに揉めた。

 古くはドルトムント時代から勝利のためには非情なところが垣間見える指揮官で、パリ・サンジェルマンでの職歴も思うほど長くなかった。そして、第6節を終えて3勝1分2敗、6位に甘んじた時点で解任である。CLディナモ・ザグレブ戦にも敗れていたが、シーズンははじまったばかりであり、このタイミングでの決断は急に決まったものではなく、首脳陣のなかである程度は考えられていたのだろう。つまりは、トゥヘルは他者とあまりうまくやっていけないタイプなのかもしれない。

 なにはともあれ、すでに新体制がスタートしている。新たに招聘したグレアム・ポッター監督はブライトンを引き上げてきた人物で、これによってチームがどう変化していくのか注視しないといけない。幸い、チェルシーは3バックにも4バックにも対応できる。ポッター監督もブライトンでは3バック、4バックを使い分けており、選手の配置が劇的に変わることはなさそうだ。

 あとは、大胆に補強した選手たちをいかにチームにフィットさせていくかだろう。カリドゥ・クリバリ、マルク・ククレジャ、ウェズレイ・フォファナ、ラヒーム・スターリング、ピエール・エメリク・オバメヤン……。いずれも即戦力だが、オバメヤンに関してはいろいろと不安がある。2年前にアーセナルを出ていくころには、すでに全盛時のキレ&スピードがなく、前線で仕事ができていなかった。前線の戦力が乏しいいまのチェルシーを救うストライカーとしては、荷が重い。

 決定力のあるスターリングやカイ・ハフェルツをいかに起用するか。ゼロトップというのも視野に入ってくる。あるいは、冬の移籍で「9番」の補強が必須になってくる可能性もある。チェルシーとポッター監督にとって、心理的に長い1年になりそうだ。

派手ではないが的確な補強 求心力あるコンテを擁するトッテナムは優勝争いに食い込む

派手ではないが的確な補強 求心力あるコンテを擁するトッテナムは優勝争いに食い込む

開幕から5ゴールとスパーズのエースは絶好調だ。今季は攻撃に専念することができており、どこまで数字を伸ばすのか photo/Getty Images

 安定感を考えると、今季のトッテナムは面白い存在になるかもしれない。昨シーズン途中から指揮を執るアントニオ・コンテ監督のもと、[3-4-3]とも[3-4-2-1]ともいえる縦に恐ろしく早いサッカーに磨きをかけてきた。

 というか、前線にハリー・ケイン、ソン・フンミンを擁し、4人前の監督であるマウリシオ・ポチェッティーノの時代からそういうサッカーをしており、自分たちのスタイルという意味ではBIG6のなかで一番ブレていない。他チームがこの安定感を上回る力強さを発揮できなければ、トッテナムが頂点でシーズンを終える可能性があり、そうなればやはり波乱である。

 補強に目を向ければ、まずは運動量が多く負担がかかる両サイドのウイングに即戦力を2名補強している。実績十分のイヴァン・ペリシッチ、U-21イングランド代表の経歴を持つジェド・スペンスで、ペリシッチが前線、中盤の複数でプレイできるのは周知のこと。スペンスも右サイドの最終ラインから中盤、高い位置で機能するタイプである。

 前線にはリシャルリソンが加わり、8月はおもに交代出場でチームに馴染む作業を続けていた。しかし、第6節フラム戦でついに先発し、ケイン、ソン、リシャルリソンという3トップが組まれた。この試合でピエール・エミール・ホイビュルクの得点をアシストすると、続くCLのマルセイユ戦にも先発し、2得点で勝利に貢献している。既存の得点力にリシャルリソンの得点力が単純に加わるのだとしたら、これはやはり優勝候補である。

 鍵を握るのは3バックのクオリティになるか。エリック・ダイアー、ベン・デイビスにもうひとりが必要で、ダビンソン・サンチェス、クリスティアン・ロメロ、クレマン・ラングレなどに期待がかかるが、コンテ監督は組み合わせにまだ試行錯誤している。縦に早いサッカーを支えるのは、中盤、最終ラインであり、いかに攻撃のコマが揃っていても後方が不安定だとままならない。3バックに問題が発生しないことが上位をキープする条件になる。

新戦力も瞬く間にフィット 唯一の開幕5連勝を飾ったアーセナルの勢いは今季こそ本物だ

新戦力も瞬く間にフィット 唯一の開幕5連勝を飾ったアーセナルの勢いは今季こそ本物だ

昨季の怪我の影響もあって冨安健洋はやや出遅れている。それでもELチューリッヒ戦で今季初先発フル出場を飾っており、これから出番は増えるはずだ photo/Getty Images

 就任4年目を迎えたミケル・アルテタ監督のもと、アーセナルはいよいよ完成度の高いチームに仕上がっている。開幕から5連勝を飾り、敗れた第6節マンチェスター・ユナイテッド戦は先制点がVARで取り消される嫌な流れがあった。結果的に1-3で負けたが、シュート数、ボール支配率ともに大きく上回っていた。9月14日時点では堂々の単独首位である。

 冨安健洋の獲得もそうだったが、アルテタ体制になってからのアーセナルは補強がうまくいっている。今シーズンはセンターバックにウィリアム・サリバがローンバックで加わり、左サイドバックにはオレクサンドル・ジンチェンコが入った。さらに、1トップにはガブリエウ・ジェズスで、いずれも短期間で新天地にフィットしている。ここ数年で築き上げた確固たる土台があるので、新加入選手が馴染みやすいのだ。

 サリバの加入でこれまでセンターバックを務めていたベン・ホワイトが右サイドバックを務めているが、これによって両方のポジションの質が上がっている。サリバの守備力&攻撃への関わり、ベン・ホワイトの安定感&正確なパス出し。どちらも効いており、チームを一段階上のレベルに引き上げている。押し出された冨安がベンチスタートになっているが、今年はW杯があってどんどん過密日程になっていく。信頼感ではホワイトに分があるも、大きな実力差があるわけではない。今後は冨安の先発も増えていくと考えられる。

 これは左サイドのジンチェンコとキーラン・ティアニーも同じで、両者はポジション争いをしているというより、共有して長いシーズンを戦っていく感じ。中盤ではエミール・スミス・ロウがベンチスタートとなっているが、これも同じで誰が出場してもチーム力が落ちない戦力がキープできているといえる。

 ジェズスがファーストチョイスとなる1トップにも、エディ・エンケティアがいる。トーマス・パルティに頼るところが大きい守備的MFのポジションがやや不安も、グラニト・ジャカ、アルベール・サンビ・ロコンガがいる。いずれもW杯出場が見込まれ大会後のコンディションが懸念されるが、プレミアはそういった選手ばかりだ。チームの完成度、選手層ともにいまのところ申し分ない。シティの3連覇阻止に向けて、アーセナルも面白い存在になる。

頼れる新戦力も到着 ようやく見え始めたテン・ハーグ流はユナイテッドを絶望の淵から救う

頼れる新戦力も到着 ようやく見え始めたテン・ハーグ流はユナイテッドを絶望の淵から救う

新加入アントニーはアーセナル戦でさっそくゴールを決めた。存在感は抜群であり、恩師と共にプレミア制覇を目指す photo/Getty Images

 マンチェスター・ユナイテッドも出だしで失敗した。第1節ブライトン(1-2)、第2節ブレントフォード(0-4)に連敗し、エリック・テン・ハーグ監督はハリー・マグワイア、ルーク・ショーを先発から外した。変わって入ったのは、ラファエル・ヴァラン、タイレル・マラシアなど。リサンドロ・マルティネス、ディオゴ・ダロトも含めると、ユナイテッドの最終ラインは昨シーズン途中から徐々に入れ替わり、いまでは様変わりしている。

 ポール・ポグバが去った中盤はクリスティアン・エリクセン、スコット・マクトミネイ、フレッジといった献身性のある選手が支える状況だったところに、カゼミロが加わった。ブラジル代表でともにプレイしているフレッジはもちろん、動きの多いエリクセン、マクトミネイともうまく合わせられる。逆に、カゼミロが守備的MFを務めることでまわりの選手が気兼ねなく攻撃参加できるというメリットがある。ブルーノ・フェルナンデス、ジェイドン・サンチョなどの攻撃面での良さも、より引き出されることになりそうだ。

 エリクセンに関しては、「彼になにができるかを私はわかっている。前線の選手たちに、正しい瞬間に、正しいパスを供給してくれる」とテン・ハーグ監督が高評価している。開幕からトップ下、インサイドハーフ、守備的MFなど多くのポジションをこなすエリクセンをどこで起用するのか。今後、徐々にカゼミロが守備的MFを務める時間が長くなっていくと考えられるが、そうなるとエリクセンをひとつ前で使える。カゼミロとエリクセン。両名の補強によって、ユナイテッドは間違いなく変わっていく。

 最終ライン、中盤のこの構成は、テン・ハーグ監督が志向するマイボールをしっかりビルドアップし、相手ボールには高い位置からプレスをかけるサッカーを可能にする。気になるのは、GKからの組み立てを考えたときに足元にやや不安があるダビド・デ・ヘアで戦い続けるのか。また、ハイプレスを維持するためにはファーストディフェンダーとなる前線の選手に運動量が求められるが、クリスティアーノ・ロナウド、マーカス・ラッシュフォード、アントニー・マルシャル(アキレス腱を負傷中)のなかから誰を選択するのかということ。

 現状、ロナウドは交代出場が多く、ラッシュフォードが1トップを務めることが多い。ロナウド先発の試合は前述のブレントフォード戦、CLレアル・ソシエダ戦(0-1)といずれも結果が出ていない。ラッシュフォードで試合をはじめ、戦況に応じて途中からロナウド。テン・ハーグ監督は今後もこの起用方法でいくと考えられる。

 停滞ムードが続いていたユナイテッドだが、テン・ハーグ監督の就任、カゼミロの加入などで確実に風向きが変わっている。土台、下地作りの1年になると思われたが、思わぬ好成績を残すポテンシャルがある。

 いずれにせよ、11月末にW杯を挟むことで変則的なスケジュールを強いられる今季は、前半戦でどこまで勝ちを積み上げるかが鍵となってくる。注目はビッグマッチが連続する10月だ。連覇を狙うシティの仕上がりは、対リヴァプール(10/17)、対アーセナル(10/20)の連戦で(※編注:現在アーセナル×シティは延期に)試されるだろうし、リヴァプールの復調具合も同じく対アーセナル(10/10)、対シティ(10/17)で明らかになるだろう。好調アーセナルは10/1にノースロンドンダービーがあり、加えてリヴァプール、シティとも戦う。これらを破ることがもしあれば、年末年始を首位で折り返すのは彼らになるかもしれない。

文/飯塚 健司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)273号、9月15日配信の記事より転載

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