[特集/試合を創る守備者達 03]もはやGKはフィールドプレイヤーだ!

 現代サッカーにおいて、GKは手を使ってゴールを守るだけの選手ではない。それは少し前から当然のことになってきたが、近年はさらに一歩進み、攻撃の起点としての働きを求められるまでに進化している。PAだけでなく広大なスペースをカバーリングし、攻撃では積極的にビルドアップに関与、隙あらば決定的なラストパスすら供給するGKは、もはや攻撃の第一手を担う存在なのだ。

GKでありながらスイーパー 価値観をひっくり返したノイアー

GKでありながらスイーパー 価値観をひっくり返したノイアー

ペナルティエリア外まで飛び出してブロックすることも珍しくないノイアーの守備範囲の広さは、その後多くのGK、チームにお手本とされている photo/Getty Images

 GKは11人目のフィールドプレイヤー。そんな流れを決定的にした攻撃的なGKの代表格と言えるのが、バイエルン・ミュンヘンのマヌエル・ノイアーだ。足もとの技術は確かだが、なによりもカバーできる範囲の広さがバイエルンにぴったりだ。

 バイエルンでは、攻撃時に2列目を4人に増やして高い位置で数的優位をつくることが多い。引いて守ってくる相手に対しても、数で押し込み続ける戦い方を行なう。ノイアーがカウンターのリスクを管理してくれるため、チーム全体がアップダウンを繰り返す回数は減り、バイエルンは常に相手を敵陣に封じ込める安定感のある戦いができる。

 ときには敵陣にまで顔を出すノイアーは、スペースを消すだけの存在ではない。隙があればインターセプトを狙う。ハイレベルなGKでありながらスイーパーがピッチにもう一人いるような感覚だ。さらにゴール前からは、正確なキックだけでなく驚異的なロングスローで一気にチャンスを演出することもある。
 バイエルンでは、プレス回避のため躊躇なくノイアーにロングパスで戻すシーンも多く見られる。ペップ体制時のバルセロナ、クロップ体制時のドルトムントなどとの死闘を通じ、ノイアーという預けどころをつくることでプレスをかわすという戦い方を確立した。そして今では、その方法論は多くのチームに模倣されるようになっている。

 元々足もとの技術に長けたGKだったが、現在のナーゲルスマン監督下では高い位置でビルドアップに参加する機会もさらに増えている。3-0で完勝したCLバルセロナ戦では54本のパスを記録し、これは同数を記録したセルヒオ・ブスケッツ以外のバルサ選手の誰よりも多い数字であった。ノイアーは今季も確実に進化を続けている。

プレミアは最新型GKの宝庫 恐るべきキック精度でアシストも

プレミアは最新型GKの宝庫 恐るべきキック精度でアシストも

ベンフィカでは名手ジュリオ・セーザルからポジションを奪い、評価を高めると2017年にマンチェスター・シティへ移籍したエデルソン。以降、不動の守護神としてゴールマウスを守る photo/Getty Images

 プレミアリーグに目を移すと、フィールドプレイヤーと同等以上のボールスキルで長短のパスをさばくGKの姿がいくつかのチームで見られる。その中でも、やはりマンチェスター・シティのGKエデルソンが異質の存在感を放つ。

 圧倒的なボールポゼッションで相手を押し込んでいくマンチェスター・シティでは低い位置から組み立てるため、相手は高い位置までプレスをかける。その中で正確無比につなげるのがエデルソンの技術だ。テクニックとパス精度は、一般的なフィールドプレイヤーを明らかに上回っている。

 そして、相手が食いつき過ぎる瞬間を見逃さないのがエデルソン。必殺のロングフィードでセルヒオ・アグエロらのゴールにつながるチャンスを生み出してきた。長短のパスの使い分けとその精度は、もはやGKのレベルではなく、“レジスタ”アンドレア・ピルロのゲームメイクを観ているかのよう。昨季第24節のトッテナム戦では、ロングキックで前線のイルカイ・ギュンドアンへと一気につなぎ、ボールを受けたギュンドアンはそのままゴール。エデルソンはアシストを記録している。ショートパスを餌にロングフィードで切り裂くスタイルは、シティのサッカーをさらに高い次元に導いている。

 アーセナルでは、ミケル・アルテタ監督たっての希望で今年夏に獲得したと言われるアーロン・ラムズデールの注目度が急上昇した。

 もう言うまでもないが、ラムズデールも足もとに長けている。中でも特長的なのは、キックの精度と種類だ。目指す先は近いとしても、シティに比べるとボール支配に特化していないアーセナルは、最終ラインからのビルドアップを諦めるシーンもある。その中でラムズデールがグラウンダーの速いボールを正確に届けることで、攻撃が加速する。ハイプレスにきた相手の前線を置き去りにして、一気にスイッチを入れることが可能だ。グラウンダーのパスは、敵に引っかかれば致命傷になりかねないが、寸分の狂いなく味方に届くのだから攻撃の大きな武器だ。

 第10節レスター戦では低弾道のパントキックで前線のピエール・エメリク・オバメヤンまで一気に展開するシーンもあり、ラムズデールのキックによってアーセナルには明らかに新しい攻め手が生まれている。

 キック能力に秀でたGKを擁するのは、ポゼッションに重きを置くこれらのチームだけではない。“ゲーゲンプレス”――。敵陣でのハイプレスからショートカウンターというのがリヴァプールの十八番だが、このサッカーの良き理解者とも言えるのが、アリソンだろう。

 正確で鋭いフィードは、即座にボールを収めて猛スピードで切り込んでいくモハメド・サラーとの相性が抜群。アリソンもロングパス一本でアシストを記録したことがある。一昨季の第22節、マンチェスター・ユナイテッド戦だ。

 仮にロングフィードが味方に届かないとしても、取られ方を意識しているのがリヴァプールとアリソン。即座に奪い返す“ゲーゲンプレス”にハメやすい状況でボールを失うことが攻撃の第一歩となっている。確かな技術の上に攻守両面の戦術理解が加わっているのがリヴァプールの守護神だ。

パスを操れるGKは攻撃サッカーに不可欠なピースに

パスを操れるGKは攻撃サッカーに不可欠なピースに

2014年にバルセロナへ移籍したテア・シュテーゲン。リーガ4回、CL1回などのタイトル獲得に貢献する。足元の技術にも定評があり、16-17シーズンのアスレティック戦では46本のパスをつなぎ、リーガ最多記録を更新したことがある photo/Getty Images

 バルセロナのマルク・アンドレ・テア・シュテーゲンは、戦術云々というよりもバルセロナというクラブのスタイルに沿ったGKだ。

 近年陰りを見せているとはいえ、バルセロナは中盤から前の技術がケタ違い。ここにどうボールを触らせるかが大事なチームだ。低い位置の選手が中盤のスペースを広げるために下がり、そのスペースに入った選手へ正確なパスを送ることができるのがテア・シュテーゲンの強みである。それも、受け手の手前でワンバウンドさせたり、頭で処理させたり、パス後のアクションを意図したメッセージ付きのミドルパス。バルセロナというクラブが目指すサッカーを守護神がイメージできている。

 イタリアでは、今季からミランでプレイしているマイク・メニャンが好評価を受けている。

 ジャンルイジ・ドンナルンマという最高峰のGKを失ったミランが呼び寄せたメニャン。シュートに対する反応、カバーできるエリアの広さは十分。好守でたびたびミランを救っており、ステファノ・ピオリ監督が必要としていた安定感が、メニャンにはあった。

 攻撃性能という点ではこれまでに挙げた、GKの次元をはるかに超えた選手たちと比べると見劣りする感は否めない。しかし、今季開幕戦では見事なロングキックからチャンスを演出し、ブラヒム・ディアスの決勝点の起点となっている。こういったプレイは前任者のドンナルンマにはあまり見られなかったもので、ミランの新しい武器となりつつある。

 自分の力量を把握し、無謀なチャレンジはしないが、空いている選手にパスをつなぐ技術を持っており、バックパスを預けるのに不安はない。若手が多いミランにとって、このような存在は非常に重要だ。

 グアルディオラはシティ2年目でエデルソンを獲得し、アルテタはアーセナル3年目にラムズデールを連れてきた。攻撃的サッカーを標榜する彼らがGKを重要視していることからも、GKの持つ価値が大きく変わっていることは間違いない。

文/伊藤 敬佑

※電子マガジンtheWORLD264号、12月15日配信の記事より転載

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