[特集/試合を創る守備者達 01]センターバックに求められる司令塔的攻撃センス

 ていねいにGKから攻撃をビルドアップしようと思えば、パスの受け手になるのはまずCBで、試合中は常にパスコースを脳裏に描いていなければならない。最終ラインでボールを持つと、相手が高いポジションで刈り取るべく激しいプレスをかけてくる。必然、かわす能力がなくてはならない。さらには、かわすだけでなく、その後に正確なパスを供給して攻撃につなげられなければならない。強くしなやかな身体を持ち、競り合いを制して相手の攻撃を跳ね返すという従来の能力に加えて、司令塔となって攻撃のスイッチを入れる能力が求められるのが現代のCBである。実際、ビッグクラブにはハイクオリティなCBが存在する。

これぞ最終ラインの司令塔 輝く非凡なパスセンス

これぞ最終ラインの司令塔 輝く非凡なパスセンス

パスから攻撃を組み立てられる選手であり、ディアスがいるといないとではシティの攻撃は大きく姿を変えることになる。 photo/Getty Images

 マンチェスター・シティのルベン・ディアスは昨シーズンからプレミアリーグでプレイするが、守備の要としてはもちろん、攻撃の起点にもなって優勝に貢献した。イングランドでプレイする選手を対象とした選手投票によるFWA年間最優秀選手賞を受賞している。

 ポジショニングがよく、身体を投げ出したシュートブロックでピンチを防ぐ。こうした守備面の特長に加えて、攻撃でも効果的なパスでゴールチャンスを生み出す。マンCは6連勝で首位をキープ(第16節終了時点)するが、3-1で勝利した第15節ワトフォード戦でもルベン・ディアスのパスからいくつかチャンスが生まれている。

 11分、最終ラインでボールを持ったルベン・ディアスはサイドではなく、中央への縦パスを選択する。受けたのはサイドから中央に絞ってきたラヒーム・スターリングで、ここからイルカイ・ギュンドアン、フィル・フォーデンと素早くつなぎ、アッという間に敵陣深くに侵入。フォーデンがゴール前に折り返し、最後はジャック・グリーリッシュが飛び込んだ。ゴールにはならなかったが、ルベン・ディアスを起点にした縦に早いビルドアップだった。
 さらに34分、今度は敵陣へ数10メートル入ったところでボールを持ち、サイドに開いていたスターリングにパスを出し、ゴール前へのクロスへとつなげた。このシーンのようにボールを持つポジションが以前よりも高いのがCBの趨勢で、そうなると非凡なパスセンスにより、攻撃の起点となれる能力を持っていることが求められるのである。

 アーセナルのベン・ホワイトも優れたパスセンスを持ち、いつもパスコースを探していて“逃げ”のパスを出さないタイプだ。右サイドで冨安健洋がフリーになっていても、決して簡単に預けることはしない。相手に身体を寄せられても決して慌てず、顔を上げて前方の動きを確認。タックルを受けるギリギリのタイミングでフィードし、これが高い確率でチームメイトにつながる。

 ポジショニングも積極的で、センターラインを越えて敵陣に入っていることも多い。ボールを刈り取る能力が高く、相手のカウンターを高いポジションで潰し、そのままの勢いで逆カウンターにつなげるという展開がアーセナルでは可能となっている。ホワイトはポゼッションサッカーの起点になれるし、素早いトランジションでショートカウンターを仕掛けるスタイルにも対応できる万能なCBである。

 ホワイトのこうした能力を生かすべく、ボランチで起用してみてはどうかという声もある。現在のアーセナルはボランチの展開力に難があり、ホワイトのパスワークのほうが魅力的なのは事実。その場合、やはり攻撃の起点になれるタイプの冨安をCBに起用することも選択肢のひとつになってくる。

FW顔負けの得点力も備えた現代型CBの先駆者ふたり

FW顔負けの得点力も備えた現代型CBの先駆者ふたり

セルティックとサウサンプトンを経てリヴァプールに加入したファン・ダイクはその恵まれた体格とスピード、サッカーIQの高さを武器に大きく成長し、リヴァプールで世界的なCBとなった photo/Getty Images

 数年前、先鋭的なCBとして強烈なインパクトとともに登場したのが、リヴァプールのフィルジル・ファン・ダイクだ。身体の強さ、柔らかさ、リーチの長さ、相手との駆け引き、ポジショニング、後追いでも追いつくスピード。どれもハイクオリティで、ゴール前というか、まだゴールまでだいぶ遠いところで厚く高いカベとなって相手の攻撃を跳ね返す。

 加えて、前方への推進力もある。セルティック時代の2013年にみせたゴールはそれまでのCB像を覆すとともに、新たなCB像を予感させるものだった。最終ラインからドリブルでボールを運び、徐々にスピードをあげて3人、4人をかわしてペナルティエリア付近に到達。最後は右足アウトサイドで技巧的なシュートを放ち、ゴールしてみせた。セットプレイだけでなく、展開のなかから「個」の力でゴールを狙えるのがファン・ダイクである。

 昨シーズンは右ヒザ前十字靭帯損傷の大ケガがあり、序盤で戦線離脱した。これが悪い方向に影響し、リヴァプールは無冠に終わっている。翻って、ファン・ダイクが復帰した今シーズンは首位マンCと勝点1差の好位置につけている。第16節を終えてファン・ダイクは16試合フル出場を続けていて、今度はこれが良い方向へ影響している。これだけが好調の理由ではないが、守備の安定感だけでなく、攻撃に推進力をもたらしているのは間違いない。

 レアル・マドリードではダビド・アラバがさすがの存在感をみせている。第1節アラベス戦、第2節レバンテ戦には左SBで出場したが、第3節ベティス戦ではCBを務め、ここからは1試合(第8節エスパニョール戦)を除いて同ポジションでプレイしている。もともと、CB、SBはもちろん、ボランチやサイドアタッカーもできる選手である。レアルでその能力をまざまざとみせつけたのが、第10節バルセロナとのエル・クラシコだった。

 32分、バルセロナに攻撃を許し、ペナルティエリア付近にポジションを取るメンフィス・デパイへパスを出
される。いち早く潰しにいったのがアラバで、デパイがトラップをミスしたところにアタックし、ボールを奪取。すぐに左サイドのヴィニシウスにパスし、自分はどんどん前線へと駆け上がっていく。こうした動きがあるとチーム全体の意識が「押し上げる」で統一される。この動きで「攻撃のスイッチ」がオンになったわけだ。

 ヴィニシウスも少し前に運んでからすぐに右前方へダイアゴナルな大きなパスを出す。これをロドリゴが受けたころには、アラバはすでに前線へ。そこにロドリゴがラストパスを出し、ペナルティエリア外、やや左サイドで受けたアラバが左足を振り抜くと、強烈なシュートが逆サイドのゴールネットに突き刺さった。

 アラバの真骨頂で、いまの時代を象徴するゴールだった。CBがボールを奪い、味方にパスを出す。一昔前なら、CBの役目はひとまずそこで終わりだ。アラバは迷うことなく前線まで上がり、自らフィニッシュしてひょっとしたらクラシコの歴史に残る印象的なゴールを決めてみせた。重要なのは、チームメイトも呼応してゴールへとつなげたことである。試合がはじまってしまえばもはやポジションは関係なく、誰かが状況をブレイクする動きをしたときは、まわりがフォローする。こうしたすり合わせがチーム内でできているレアルは、試合をこなすごとに仕上がっていきそうである。

相手に読ませない技術で瞬時に攻撃スイッチを入れる

相手に読ませない技術で瞬時に攻撃スイッチを入れる

レッドブル・ザルツブルク、リーフェリング、ライプツィヒとレッドブル系列の申し子であるウパメカノは今季、ユリアン・ナーゲルスマン監督と共にバイエルン・ミュンヘンに加入している photo/Getty Images

 バイエルンのダヨ・ウパメカノも各選手のポジションが流動的で、とにかくトランジションが早い現代のサッカーにマッチしたCBだ。一見すればわかるが、スピード&パワーを兼ね備えていて、足元の技術も正確。単純にキック力があり、ノーステップで軽くロングボールを蹴るので相手がタイミングを読めない。チョンと軽く前に出すのかと思いきや、ロングボールを蹴る。逆にパスだなと思うと、瞬発力を生かした緩急をつけたボールタッチで相手をかわす。同じ動作からドリブル、パスがあるので対戦相手としては簡単には間合いを詰められないのである。

 ウパメカノは自陣でダブルタッチをみせるなど、足元の技術力に自信を持っている。こうしたメンタルを持っていることもいまのCBには求められ、とくにマイボールを大事にするビッグクラブではなおさらだ。

 チェルシーのアントニオ・リュディガーもノーステップで簡単にロングパスを出せるタイプで、サイド、前線に効果的なフィードをみせる。昨シーズンは出場機会を減らしていたが、縦に早いサッカーを追求するトーマス・トゥヘルが監督に就任したことでふたたびポジションを得てCL制覇に貢献した。

 攻撃参加の意識も高く、相手陣内に入っているシーンが目立つ。足元に自信があり、ドリブルで運ぶ、スルスルとポジションを上げるなど「いつでもゴールを狙ってやる」という気概が随所に感じられる。実際、自分でフィニッシュすることもあり、セットプレイはもちろん、展開のなかからもゴールを狙えるCBである。

 守るだけでなく、正確なパスや積極的な攻撃参加でビルドアップの起点になる。さらには、ときに自分でフィニッシュしてゴールを奪う。ゴール前に立ちはだかってクリアすればいい時代は過去のものとなった。現代のサッカーでは、CBにも攻撃性が求められている。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD264号、12月15日配信の記事より転載

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