[特集/EURO2020大会レビュー 01]EUROを席巻した“進化系カテナチオ”

“無敵”の新生イタリア チームづくりに隙はなし

“無敵”の新生イタリア チームづくりに隙はなし

EURO制覇は53年ぶりの快挙。前評判は決して高くなかったが、イタリアは見事に評価を覆してみせた photo/Getty Images

 53年ぶり2度目の優勝を成し遂げたイタリアは、これで34試合負けなしとなった。列強国ばかりでなく、一泡吹かせてやろうと波乱を狙っている曲者が集う欧州のど真ん中で戦うなか、この数字は偶然やたまたまで達成できるものではない。

 ロベルト・マンチーニがはじめて指揮を執ったのは、2018年5月28日のサウジアラビア戦(○2-1)で、この試合も含めてマンチーニ体制で39試合を戦ってきた。結果は30勝7分け2敗(EUROでのPK勝ちは勝利として計算)。2敗は2018年まで遡り、フランスとの親善試合(●1-3)、ネーションズリーグのポルトガル戦に敗れている(●0-1)。監督就任当初のマンチーニはすぐに結果を得られたわけではなく、2018年は9試合3勝4分け2敗という成績だった。

 ただ、マンチーニのチーム作りは一貫性があり、システムはこのころから[4-3-3]に固定され、中盤センターにジョルジーニョを起用するスタイルで強化が進められてきた。結果、自分たちのサッカーに自信と誇りを持つチームに仕上がり、ロシアW杯出場を逃した悔しさを晴らすようにその後は無敗街道をばく進していた。

 迎えたEUROでは開幕戦でトルコと戦い、安定感ある戦いで相手を寄せ付けず、3-0の快勝スタートを切った。顕著だったのはレオナルド・ボヌッチ、ジョルジョ・キエッリーニという経験豊富な両名をCBに起用した守備面で、トルコに3 本のシュートしか許さなかった。展開力が必要な中盤の顔ぶれは適した選手たちに若返っていたが、マンチーニはこの2人に替わるCBはいないと判断。若手にポジションを与えてムリに世代交代を進めるのではなく、必要な力はそのまま残していた。

 一方で、大会中に誰のコンディションが良いかもマンチーニは見極めていた。フェデリコ・キエーザはトルコ戦、続くスイス戦では交代出場だった。グループステージ最後のウェールズ戦はすでに勝ち上がりが決まっていて、ここではじめて先発フル出場している。出場時間を増やし、身体もメンタルも十分に温まっていたキエーザは、ラウンド16のオーストリア戦で大仕事をやってのけた。0-0の84分にピッチへ送り込まれると、延長前半95分に角度のない難しいポジションから迷いのないフィニッシュでゴールネットを揺らし、均衡を破る劇的なゴールを決めている。

 準々決勝ではベルギーに競り勝ち、いよいよベスト4へ。ファイナル進出をかけた相手はスペインで、この一戦を前にキエーザは印象的な言葉を残していた。

「(スペインは)ボクらと同じシステムで、ボールポゼッションもできる。だけど、ピッチではボクらのほうが攻守両面でダイナミックだし、ポジションチェンジなどもある」

 自信を持って臨んだスペイン戦で、キエーザはまたも貴重な1点を奪っている。そして、似たタイプのスペインをPK戦で退けると、決勝のイングランド戦ではキエーザの言葉が美しく回収されることとなった。

先手を取られても動じない 光ったマンチーニの修正力

先手を取られても動じない 光ったマンチーニの修正力

ストライカーのインモービレを下げ、インシーニェをトップに置いて撹乱する戦法に出たイタリア。ここからイングランドの守備に混乱が生じはじめた photo/Getty Images

 完全敵地のウェンブリーで、イタリアは先手を取られた。イングランドの指揮官であるガレス・サウスゲイトが選択した[3-4-3]がすぐに結果に結びつくカタチで、中盤右サイドのワイドなポジションに入ったキーラン・トリッピアーから、左サイドの同ポジションに入ったルーク・ショーに繋がれ、開始2分にいきなりリードを奪われた。

 その後も前半は中盤センターのジョルジーニョの両サイドに空くスペースを狙われ、ハリー・ケインにキープされてタメを作られるシーンが目立った。トリッピアー、ショーが攻撃参加してくれば、対峙するキエーザ、ロレンツォ・インシーニェが下がらなければならず、両サイドから前方への推進力を出すこともできなかった。

 幸いだったのは、イングランドが積極的に追加点を狙う感じではなく、自陣に固い守備組織を構築し、守備の意識を強く持って臨んできたこと。立ち上がりにカウンターパンチを食らったが、ポストプレイをみせるケインをときに激しく潰すことで、連動したパスワークを許さなかった。

 それでもなかなかチャンスを作れなかったが、前半終盤にキエーザが右サイドのセンターライン付近からドリブルでボールを運び、自らミドルシュートでフィニッシュしている。ゴール枠内に飛ばなかったが得点への可能性を感じさせるシーンで、逆にイングランドにとっては人数をかけて守っているところを個人技で突破されており、後半の展開を暗示する印象的なワンプレイだった。

 ハーフタイムを経て、後半がはじまってもしばらくは同じような展開が続いた。先に動いたのは、1点を追いかけるイタリアだった。54分にニコロ・バレッラ→ブライアン・クリスタンテ、チーロ・インモービレ→ドメニコ・ベラルディという2人交代を行った。同時にポジションチェンジもあり、これをキッカケにイタリアの攻撃が活性化されることになった。

モダン・サッカーに適応した新たなるカテナチオ

モダン・サッカーに適応した新たなるカテナチオ

イングランドの5人目、サカのキックを完璧に読み切ったドンナルンマがストップ。この瞬間、53年ぶりの戴冠は現実となった photo/Getty Images

 54分の交代&ポジションチェンジにより、イタリアはインシーニェが前線に入り、ゼロトップのようなカタチに。キエーザが右サイドから左サイドに移動し、空いた右サイドにはベラルディが入った。中盤ではジョルジーニョとマルコ・ヴェッラッティの距離感が近く、ほぼダブルボランチのような感じに。左サイドバックのエメルソン、右サイドバックのジョバンニ・ディ・ロレンツォも頑張って高いポジションを取り、イングランドの[3-4-3]の両翼の攻撃参加を押しとどめていた。

 というか、1点をリードするイングランドはあくまでもカウンターからの追加点狙いで、あまり選手たちが前に出てこなかった。イタリアの攻守の切り替えの早さもあったが、後半なかばにして、守ろうとする意識が強すぎたのかもしれない。

 67分、イタリアがCKからボヌッチのゴールで同点に追いつく。ポイントはこのCKにつながった一連のパスワークで、GKジャンルイジ・ドンナルンマからはじまり、最終ラインのボヌッチ、キエッリーニを経て、右から左、左から右へと何本もパスを繋いでイングランドの守備陣を前後左右に動かしている。このときのボールポゼッションは、実に1分以上に及んでいる。

 中盤のジョルジーニョ、ヴェッラッティが中心となり、前線から下がってきたインシーニェがボールを触れば、右サイドではディ・ロレンツォ、クリスタンテ、ベラルディが絡み、左サイドではエメルソンが攻撃参加する。最後にゴール前へクロスを入れたのは左サイドへポジションチェンジしたキエーザで、このボールをイングランドDFがクリアし、CKになったことで同点ゴールが生まれている。11人全員が絡んだ圧巻のパスワークで、キエーザの「ピッチではボクらのほうが攻守両面でダイナミックだし、ポジションチェンジなどもある」と語っていた言葉が回収されると同時に、イタリアの真骨頂が発揮された瞬間だった。

 PK戦でイングランドを下し、53年ぶりに欧州王者となったのはもはや必然だった。マンチーニが作り上げたのは、誰がピッチに立っていても同じようにパスをつないで展開できるチームで、前線にインモービレがいても変わらないし、マヌエル・ロカテッリ、フェデリコ・ベルナルデスキが入っても同じようにパスをつなぐことができていた。決勝ではエメルソンが良いパフォーマンスをみせた左サイドバックにも、レオナルド・スピナッツォーラ(ベルギー戦で左アキレス腱断裂)が存在する。

 ボヌッチ、キエッリーニを中心に堅守を誇り、各選手の連携が取れていて、誰がピッチに立ってもパスが繋がる。さらには、攻撃面にはキエーザやインシーニェのドリブル突破というアクセントもある。個人的な印象として、決してカテナチオから脱却したのではない。守備の重要性は当然のように各選手が理解している。カテナチオという潜在意識があるうえに、正確なパスワーク、素早いトランジションという要素を積み上げた印象である。

 開幕のトルコ戦から、イタリアはとにかく安定していた。PK戦になると、なぜか勝利する姿が浮かぶ。守り勝つことが土壌にあるイタリアが、攻撃に意識を傾け、53年ぶりに欧州王者となった。カテナチオ+能動的なアクションサッカーでどこまで無敗記録を伸ばすか、サッカー界の新たな着眼点になる。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD259号、7月15日配信の記事より転載

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