[特集/EURO2020大展望 グループF]EURO王者3国が勢揃いする死の組 地の利あるハンガリーが台風の目に

ハンガリーとて侮れない 堅守で番狂わせも

ハンガリーとて侮れない 堅守で番狂わせも

豊富な経験により、攻守において精神的支柱にもなっている守護神グラーチと主将アダム・サライ photo/Getty Images

 ロシアW杯覇者にして前回大会2位のフランス、前世界王者のドイツ、ディフェンディング王者のポルトガルが同居する“死の組”だ。フランスのディディエ・デシャン監督が「難しいグループだ。何が待ち受けているかわかっている」とこぼせば、ドイツのヨアヒム・レーヴ監督も「本当に厳しい」と苦笑いするなど、当事者にとっては悪夢のようなドローとなったが、ファンからすればエキサイティングな組み合わせになった。

 下馬評では“草刈り場”のハンガリーとて侮れない。なにしろ前回大会はグループステージ(GS)を首位で突破。その後、ロシアW杯出場を逃すなど停滞したものの、18年6月に着任したマルコ・ロッシ監督の下でV字回復を遂げた。その指揮官が叩き込んだ「全員が最後の最後まで戦い、自身のタスクに集中する」精神がよく浸透し、予選プレイオフのアイスランド戦ではスタイルを体現する終盤の2得点で逆転勝利を収めた。また、その直後にはUEFAネーションズリーグでリーグAに昇格。ロシア、セルビア、トルコと戦ったグループで3勝2分1敗と健闘し、ロッシ監督も驚く首位でフィニッシュした。

 戦術上の強みはネーションズリーグ6試合を4失点で切り抜けた堅守。RBライプツィヒの主力を担うGKペテル・グラーチ、CBヴィリ・オルバンを中心とした5バックシステムで堅陣を築く。押し込まれる展開が長くなりそうな今大会では、後方の踏ん張りが利くかどうか。真価が問われるだろう。一方、攻撃のキーマンはドミニク・ショボスライ。ロッシ監督が「欧州最高のミッドフィルダーの一人になれる」と太鼓判を押す攻撃的MFは創造性に溢れるだけでなく、直接FKという飛び道具も持っている。この若きエースが躍動すれば、ワールドクラスの守備者が揃うフランス、ポルトガルのゴールも脅かせるはずだ。また、首都ブダペストがGSの開催地となっており、その2か国と母国で戦えるのはメリット。地の利を活かせる第1、2戦で勝点を拾えた場合に、16強入りという番狂わせが現実味を帯びてくる。

連覇を目指すポルトガル 最大の山場は2戦目

連覇を目指すポルトガル 最大の山場は2戦目

EURO2016では決勝で負傷交代を余儀なくされたロナウドだが、ピッチを退いた後もタッチライン際でまるで監督のような振る舞いを見せ、最後までチームと共に戦った photo/Getty Images

 ハンガリーと初戦で激突するポルトガルは周知の通り、クリスティアーノ・ロナウドだけのチームではなくなった。FWにジョアン・フェリックス、MFにブルーノ・フェルナンデス、ベルナルド・シウバ、DFにジョアン・カンセロ、ルベン・ディアスと各セクションに独力で違いを作り出せるビッグタレントを擁し、攻撃マインドの強いサッカーを展開。昨秋のネーションズリーグではクロアチアから7得点(2試合)、スウェーデンから5得点(2試合)を挙げたほか、フランスと伍してポテンシャルの高さを見せつけた。前回大会のハンガリー戦で大苦戦した反省も踏まえ、のっけからエンジン全開で臨むはずだ。

 最大の山場は敵地ドイツで迎える2戦目か。ポルトガルのファンはその大国に一種のコンプレックスを抱いている。目下4連敗中で、それもW杯(06年、14年)とEURO(08年、12年)という大舞台で(付け加えるなら、14年のリオ五輪でも)土をつけられたからだ。敗北の歴史を肌で知る選手はC・ロナウドとペペくらいで、チームに苦手意識は芽生えていないかもしれないが、ベスト16進出、そしてフェルナンド・サントス監督が目標に掲げるタイトル防衛を成し遂げるには、ここでドイツという壁を乗り越える必要があるだろう。予選のチーム最多得点者(11ゴール)であるC・ロナウドはもちろん、J・フェリックスらアタッカー陣がマヌエル・ノイアーの牙城をどう崩すかに注目が集まる。

守備に安定を欠くドイツ 重要なのは負けないこと

守備に安定を欠くドイツ 重要なのは負けないこと

今大会を最後に、15年も続いたレーヴ体制に幕が下ろされるドイツ。有終の美を飾り、笑顔で指揮官を送り出すことができるのか photo/Getty Images

 就任16年目のヨアヒム・レーヴ監督が今大会かぎりで退任するドイツは、全3試合をミュンヘンで迎える。もっとも、ホームアドバンテージがプラスに作用するか定かではない。なにしろ直近のホーム7戦で3勝3分1敗と良い結果を残せていない。スペインとのドローはともかく、トルコ、スイスとの一戦はどちらも3-3という大味な展開に。DF陣にワールドクラスが不在の弱みをもろに露呈した。極めつけに、今年3月には北マケドニアにまさかの黒星。1-2と惜敗したその一戦では、FWティモ・ヴェルナーをはじめとする前線の決定力不足というもう1つの大問題も浮き彫りになった。

 オランダと同組だった今予選を首位通過したとはいえ、近年のドイツはとにかく安定感に欠ける。ホームでパッとしないだけではない。昨年11月のスペインとのアウェイゲームでは0-6という歴史的大敗を喫した。トニ・クロース、ヨシュア・キミッヒ、イルカイ・ギュンドアン、レオン・ゴレツカと、多士済々の精鋭が揃う中盤を起点にチャンスを作っても決めきれない。個々の能力、組織の緻密さに欠けるDF陣がピンチを招いては、絶対守護神ノイアーの好守に救われる。そういったシーンが第1戦フランス、第2戦ポルトガルとの試合で散見されるのではないか。その2カ国から最低でも勝点1を奪えるか。ロシアW杯で屈辱を味わったドイツの復活への道のりはそこから始まる。

あらゆる点で完璧 フランスは視界良好

あらゆる点で完璧 フランスは視界良好

ムバッペは間違いなく今大会の主役のひとり。決勝で敗れた5年前の悔しさを晴らすためにも、この快速アタッカーの活躍はチームに不可欠だ photo/Getty Images

 優勝候補の最右翼と目されるフランスは、その前評判通りの実績、戦力、組織の完成度を誇る。ロシアW杯制覇の原動力となったアントワーヌ・グリーズマン、エンゴロ・カンテ、ポール・ポグバ、ラファエル・ヴァラン、ウーゴ・ロリスら主軸が健在で、今大会の主役候補であるキリアン・ムバッペは3年前よりスケールアップ。チェルシーで出番を減らしたものの、CFオリヴィエ・ジルーも依然として機能している。3月のカタールW杯予選ではFWウスマン・デンベレがデシャンに称えられる活躍を見せた。タレントの質と量の両面において、レ・ブルーを凌駕するチームは現在の欧州には見当たらない。

 戦術的な完成度も高い。ムバッペやデンベレのスピードを活かす速攻のクオリティは間違いなく大会屈指。丁寧なボール回しで敵を押し込み、最後はサイドバックがフィニッシャーになる場合もある遅攻、そしてセットプレイの質も高いレベルにある。プレスの連動性やデュエルの強さも兼備。攻守にバランスのとれたチームは19年以降の21試合でわずか2敗(そのうちの1つは複数の主軸が先発から外れた20年11月のフィンランド戦)で、指揮官も3月に「チームパフォーマンスは良好」とニンマリ。初戦で悩めるドイツを叩き、自信をさらに深めた優勝候補が3連勝を飾るシナリオは容易に描ける。何が起こるか分からないのもEUROの醍醐味ではあるが、“死の組”の中でもフランスは頭一つ抜けているのではないか。


文/遠藤 孝輔

※電子マガジンtheWORLD257号、5月15日配信の記事より転載

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