[特集/EURO2020大展望 グループE]頭一つ上のスペインも決定力の不安あり 鍵を握るベテラン勢のパフォーマンス

本命はスペインだが大きな不安要素も

本命はスペインだが大きな不安要素も

スペイン代表として180キャップを誇るセルヒオ・ラモス。歴代最多キャップまで「4」と迫り、EURO本大会で金字塔を打ち立てる可能性も photo/Getty Images

 グループEの本命であるスペインは8勝2分と無敗で予選を突破し、昨秋のUEFAネーションズリーグではドイツなどを抑え、ファイナルステージ進出を決めた。全てのタイトルを勝ち取った黄金世代の生き残りはセルヒオ・ラモスとセルヒオ・ブスケッツだけだが、マルコス・ジョレンテやロドリら中堅、フェラン・トーレスやダニ・オルモら新鋭まで年齢的なバランスの取れたチームに仕上がっている。もちろん、伝統のポゼッションサッカーは健在だ。小気味の良いボール回しで試合の主導権を握りながら優位な展開に運ぼうとするだろう。

 不安要素は格下に苦戦する傾向だ。昨年11月のドイツ戦で6-0の大勝を飾った一方で、ウクライナに0-1と不覚をとり、今年3月のカタールW杯予選でもギリシャと1-1のドロー、ジョージアに2-1の辛勝だった。MFロドリが「優秀な点取り屋がいない」と嘆くように、ボールを支配して好機を演出しても、最後の仕上げが上手くいかない点が勝ち切れない要因になっている。

 縦への推進力に欠けるとの指摘もなくはない。きっちりチャンスをモノにして、今予選で1勝1分けだったスウェーデンとのグループステージ(GS)初戦で白星スタートを切れるか。2、3戦目を含めてホームで全試合戦うことができ、過密日程の中で唯一移動がない大きなアドバンテージも持っている本命には違いないが、点取り屋不在の影響で攻めあぐねた末に、自ら“落とし穴”にハマる可能性も否定できない。

電撃復帰した“神”がスウェーデンの運命を握る

電撃復帰した“神”がスウェーデンの運命を握る

リンデロフを中心に粘り強い守備を披露できるかが、スウェーデンにとってGS突破へのキーとなりそうだ photo/Getty Images

 スウェーデンの展望は明るくない。今年3月にジョージア、コソボ、エストニアにいずれも完封勝利を収めたものの、フランス、ポルトガル、クロアチアと戦ったネーションズリーグで1勝5敗と限界を露呈。その直後、ヤンネ・アンデション監督が“神”に救いを求め、3月の再降臨を実現させたのは偶然ではない。そう、ズラタン・イブラヒモビッチが5年ぶりに戻ってきたのだ(※編注:5月16日に負傷による辞退を発表)。復帰会見で「ベンチでも構わない。チームを助けるためにここにいる」と謙虚に語ったレジェンドが、チームにもたらす精神的なプラス効果は計り知れないだろう。無論、ミランのエースは戦力としても期待できる。

 進境著しいデヤン・クルゼフスキかアレクサンデル・イサクとの2トップが予想されるイブラのパフォーマンスに加え、守備が機能するかも勝ち上がりへのポイントだ。マンチェスター・ユナイテッドで出ずっぱりだったビクトル・リンデロフは蓄積疲労が心配で、彼の他に一線級のCBはいない。長い四肢を利したセーブが光るGKロビン・オルセンの存在は頼もしいが、チーム全体の守備意識を高めずして、ネーションズリーグ6戦で13失点を喫した問題は解決できないだろう。GS初戦で実現するスペインとのリベンジマッチも1つのキーポイントではあるが、後方に不安を抱えた状態でロベルト・レヴァンドフスキ擁するポーランドとの第3戦を迎えるのだけは避けたいところだ。

レヴァンドフスキ次第ではポーランドの首位突破も

レヴァンドフスキ次第ではポーランドの首位突破も

現在、世界最高のストライカーと言っても過言ではないレヴァンドフスキ。エースは母国を2大会連続のGS突破へ導けるか photo/Getty Images

 そのポーランドはスウェーデンとともに、スペインに次ぐ2番手を争いそうだ。レヴァンドフスキと守護神ヴォイチェフ・シュチェスニーが勝利を決定づける攻守それぞれのキーマンで、CBカミル・グリク、MFグジェゴシュ・クリホビアクらベテランがチームに安定感をもたらしている。いずれも4大リーグでプレイするピオトル・ジエリンスキ、クシシュトフ・ピョンテク、ヤン・ベドレナクといったバイプレイヤーにも事欠かない。両ウイングバックがやや小粒ではあるが、総合的な戦力はスウェーデンと同等以上だ。

 組織の完成度には疑問符が付く。なにしろ今年1月にサッカー連盟のズビグニェフ・ボニエク会長が“独断”で監督交代の大ナタを振るい、パウロ・ソウザ新体制で3試合しか消化していないからだ。しかも、肝心のイングランド戦では大黒柱のレヴァンドフスキが怪我で不在だった。ポルトガル人指揮官は3バックを新規導入するなど独自カラーを打ち出し、攻守にアグレッシブなスタイルを植え付けようとしているが、はたして本番までに戦術をどこまで浸透させられるか。いかなる試合展開、チーム状況でも関係なしにネットを揺らす力を持つ主将レヴァンドフスキがやはり生命線となるのではないか。

 大エースが絶好調なら、スロバキア、スペインを連破しての首位突破も夢ではない。ただ、前評判通りにGSが進み、第3戦でスウェーデンと決勝トーナメント行きの切符を争奪することとなった場合、相手は移動なしの中4日に対して、ポーランドはセビリアからサンクトペテルブルクへ戻ってくる移動込みでの中3日。しかも本命スペインとの戦いを終えてからだ。第2戦から第3戦のインターバルが1日少ない分、第1戦から第2戦の間が1日多くなってはいるが、やはり疲労が溜まっていく後半の日程が過密になる方が困難に違いない。それゆえに、スペインからも勝ち点1は奪っておきたいのが本音だろう。

2大会連続16強へ スロバキアのキーは初陣

2大会連続16強へ スロバキアのキーは初陣

プレイオフ・グループBの決勝で、スロバキアは延長戦の末に北アイルランドを撃破。本大会出場が決まった瞬間、ハムシク(上)がクツカ(下)に抱きつき喜びを爆発させた photo/Getty Images

 35歳のS・ラモス、39歳のイブラヒモビッチ、32歳のレヴァンドフスキ同様、長年に渡ってチームの主軸でありつづけている33歳のマレク・ハムシクが健在のスロバキアは、ポーランドとの初戦にフルパワーで臨むはずだ。2戦目は引き分けることすら難易度の高いスペインとのアウェイゲームであり、初陣で0ポイントに終わるようだと、グループ4番手の前評判を覆すのはますます困難になる。守備リーダーとして君臨するCBミラン・シュクリニアルが、レヴァンドフスキを封じ込められるかが大きなポイントだ。

 ハムシク、元ミランのユライ・クツカ、ナポリのスタニスラフ・ロボツカで形成する3センターハーフにも注目。3人はいずれも堅実な守備を支えるハードワーカーの役割をこなせば、縦に速い攻撃のスイッチを入れるタスクも担える。昨年10月に就任したばかりで、まだまだ試行錯誤している段階のステファン・タルコビッチ新監督にとっても、十分な実績を備えた3人の存在は頼もしいだろう。スペイン以上に優秀なストライカーが不在という欠点も克服しながら、2大会連続となるベスト16進出を果たしたい。もしくは、各グループ3位の中から半数以上となる成績上位4ヶ国にも次のステージへ進む権利が与えられるため、シュクリニアルを中心とした粘り強い守備で着実に勝ち点を手にしていくのもひとつの手か。


文/遠藤 孝輔

※電子マガジンtheWORLD257号、5月15日配信の記事より転載

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