選択肢をフル活用するミランの知将 ピオリの手腕は逆境のなかで渋く光る

好調ミランを指揮するピオリ監督 photo/Getty Images

どんな状況でも勝ちを拾える集団に

FWズラタン・イブラヒモビッチが離脱すれば、ACミランの勢いは止まる。2020-21シーズンに快進撃を披露するロッソネリに関して、当初はこのような考えを持っていた人も多かったことだろう。2020年冬の移籍市場で復帰して以降、39歳という高齢ながらもチームの中心としてミランを牽引し続ける大ベテラン。とはいえ、彼抜きでの試合となった場合、大きく調子を崩してしまう可能性は常にミランの懸念材料だった。

しかし、そんな心配は杞憂に終わりそうだ。今季、何度かイブラヒモビッチ不在の中で試合をこなしてきたミランだが、今のところそこまで大きな影響は見られない。たしかに攻撃力の低下は垣間見えたものの、当初の予想からすればそれは微々たるものと言えるだろう。代役選手たちの奮闘により、現在のミランはシーズン開幕当初ほど“イブラ依存”と揶揄されることも少なくなった印象だ。イブラヒモビッチを中心としつつも、大ベテランに頼り切りというわけではなくなったミラン。若いチームは今、本当の強さを手に入れようとしている。

そんなミランを作り上げた最大の功労者がステファノ・ピオリ監督だ。同監督はチームづくりをするうえで、これまで徹底したリスクマネジメントを行なってきた。主力が不在の間にどう戦うか。これを常に意識し、指揮官はチーム全体のレベルを底上げすることに成功している。その時々によって失ったピースを補う手腕は、称賛されて然るべきものだろう。周囲の予想通り、今季イブラヒモビッチは何度か戦線を離脱する期間もあったが、ピオリ監督はFWアンテ・レビッチやFWラファエル・レオンのCF起用でエース不在の間を乗り切っている。エースに比べればその存在感はやや見劣りするかもしれないが、そういう状況で勝ち点を拾えたからこそミランは現在もセリエAで首位をキープすることができているのだ。

普段は右SBとしてプレイするカラブリア。敗れこそしたものの、第16節のユヴェントス戦では1得点を挙げるなど守備的MFとして素晴らしいパフォーマンスを披露した photo/Getty Images

手腕が光ったのはイブラの事例以外にも

ピオリ監督の手腕が光ったのは、なにもイブラヒモビッチの代役を見極めたときに限らない。中盤セントラルの位置に欠員が出れば、普段右サイドバックを務めるDFダビデ・カラブリアを登用。チームのチャンスメイクを一手に担うMFハカン・チャルハノールが離脱となれば、レオンやブラヒム・ディアスにトップ下を任せる。代役選手が大活躍とまではいかなかったが、今季ピオリ監督は主力が不在でも大崩れしないチームを作り上げることに成功した。そう言っても差し支えはないだろう。

加えて注目したいのは、不慣れであったり、久しくプレイしていなかったポジションを任された選手がことごとく落ち着いて試合に入れている点だ。これはカラブリアの中盤起用の際に顕著だったことだが、一体なぜ彼らはいきなりのコンバートにうまく対応できたのか。

それは、普段ピオリ監督が選手たちに求める役割を明確に伝えていることが関係しているのだろう。実際、カラブリアはこの一時的なポジション変更について、のちに「ピオリのサッカーは規律が明確だから、少し役割や戦術が変わったところで動きに大きな変化はないのさ。メカニズムさえ理解していれば問題ない」と語っている。どんなときも、チーム全体が共有しているビジョンは変わらない。仕事の内容は違えど、各自自分がすべきことは理解しているというわけだ。選手個々の能力によって多少クオリティに変化はつくものの、代役選手たちのプレイに戸惑いが見えないのはこうした意識の共有がなされている成果と言える。

スカッドに主力が揃った場合にのみ、圧倒的な爆発力を披露するチームというのは少なくない。しかし、今季のミランはピオリ監督の巧みなマネジメントによってそういった“よくあるチーム”の範疇を超える存在になりつつあると言っていいのではないだろうか。まだまだディティールで詰めるべき部分はあるものの、層の厚いチームの原型ができてきたロッソネリ。長かった暗黒時代を乗り越え、ミランは再び長期的な強さを手に入れようとしているのかもしれない。

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