[特集/激化するスクデット争い 01]堅守ベースで取りこぼし激減! 現実的となったミランの王座奪還

 前回スクデットを獲得したのが2010-11シーズンで、その後はセリエAも含めて主要タイトルから遠ざかっているACミラン。低迷している間に一時代を築き上げたのがユヴェントスで、11-12シーズンから9連覇している。今シーズンも開幕前はユヴェントスが有利だと考えられたが、風雲急を告げる展開となっている。

 1月13日時点でミランが12勝4分1敗の勝点40で首位をキープし、2位インテルに勝点3差、3位ローマとは勝点6差となっている。シーズンはまだ折り返しを迎えていないが、その安定した戦いぶりを考えるとミランの好調は決して一過性のものではない。就任2年目を迎えたステファノ・ピオリ監督のもと、各選手が献身的な動きをみせ、とてもよく鍛えられたチームに仕上がっているのだ。

強固なセンターラインを軸に第15節まで無敗を続ける

強固なセンターラインを軸に第15節まで無敗を続ける

ミランの若手は逞しく成長している。イブラがいなくても強かった photo/Getty Images

 基本フォーメーションは[4-2-3-1]で、最終ラインから前線までセンターラインに強固な選手が配置されている。GKジャンルイジ・ドンナルンマがゴールを死守し、2人のCBアレッシオ・ロマニョーリとシモン・ケアーがその前方で厚く、高い壁となり、強くボールを弾き返す。さらに、中盤ではフランク・ケシエとサンドロ・トナーリが潰し役、ボールを刈り取る役割を務める。今季加入したトナーリは憧れの選手としてジェンナーロ・ガットゥーゾの名前をあげており、これだけでどんなタイプか理解できる。

 この両名の前方に守備から攻撃への切り替えが早いハカン・チャルハノールがポジションを取り、さらに前線には説明不要のズラタン・イブラヒモビッチがいる。この強固で安定感あるセンターラインを軸に、左サイドではテオ・エルナンデスが自慢のスピードをみせつけ、ラファエル・レオンやアンテ・レビッチとの連携でチャンスを作り出す。

 右サイドではやはりネガティブトランジションが早いアレクシス・サレマーカーズがどんどん評価を高めていて、ピオリ監督が志向する組織的な守備からの鋭くて速いカウンターを仕掛けるサッカーの完成度を高めている。ちなみに、ドンナルンマ、レオン、サレマーカーズは21歳で、トナーリは20歳という若さだ。39歳のイブラヒモビッチを前線に配置し、その後方で若い選手たちが献身的な守備でボールを奪い、素早く縦に運ぶサッカーで序盤戦から勝点を積み上げてきたのだ。
 最大の危機もすでに脱している。第8節ナポリ戦でイブラヒモビッチが左足ハムストリングを痛め、第9節から欠場となった。大黒柱の戦線離脱で勢いが失われるのではないかと懸念されたが、レオンが1トップを務め、レオンがいたポジションにはレビッチが入り、チーム力低下を最小限にとどめた。その後、サレマーカーズも負傷したが、サム・カスティジェホ、ブラヒム・ディアスなどがカバーし、イブラヒモビッチがいないなか、他にもケガ人が出るなか、堅守を主体に第15節まで無敗で戦い続けた。

すでにイブラが復帰 ミランの視界は良好

すでにイブラが復帰 ミランの視界は良好

すでにイブラも復帰。これならシーズン後半戦も戦い抜ける photo/Getty Images

 迎えた第16節の相手はユヴェントス。真価が問われる一戦だったが、1-3で敗れて今シーズン初黒星を喫している。ただ、ミランにとっては起用できない主力が多く、チームが持つポテンシャルを十分に発揮できた試合ではなかった。 イブラヒモビッチ、サレマーカーズを負傷で欠き、第15節ベネヴェント戦で退場したトナーリが出場停止。レビッチ、ラデ・クルニッチがコロナウイルス陽性。こうした事態を受けて、ピオリ監督は本来右サイドバックのダビデ・カラブリアを守備的MFにしてケシエとコンビを組ませた。その前方、トップ下の並びは右からカスティジェホ、チャルハノール、イェンス・ペーター・ハウゲ。いつもはカラブリアが務める右サイドバックにはディオゴ・ダロトが起用された。

 選手の顔ぶれやプレイするポジションが変わるなか、ミランは自陣に守備組織をセットしてユヴェントスに攻撃するスペースを与えず、マイボールになったときは素早くゴールを目指すいつものスタイルで臨んだ。18分に先制点を許したが、41分には狙いどおりに自陣ペナルティエリア付近で奪ったボールをチャルハノール→カラブリア→ハウゲ→レオンとアッという間につなぎ、最後はカラブリアが右足シュートを決めて同点とした。

 このシーン以外にもミランは自陣から少ないパス本数でフィニッシュにつなげたプレイがあるなど、ユヴェントスにポゼッションを許しながらもしたたかにゴールを狙っていた。しかし、耐えられたのは後半途中までで、中盤での強度が低下してきた時間帯に2失点し、残り15分で1-3とされて万事休した。

 すると、ピオリ監督はこの先を見越した選手交代をみせた。ケアー→アンドレア・コンティ、カラブリア→ピエール・カルル、ダロト→ダニエル・マルディーニという3枚交代を同時に行い、再起が期待される選手やまだ経験が浅い若い選手たちをピッチに送り出した。さらに、その後にカスティジェホに代えてロレンツォ・コロンボを投入。ピエール・カルルは20歳、マルディーニは19歳、コロンボは18歳で、いずれも将来が嘱望されている。こうした選手たちがシーズンを通じて確実に経験を積んでいる事実を考えると、ミランの将来は明るいのではないかと思える。

 ユヴェントスに敗れたが、続く第17節トリノ戦に2-0で勝利し、連敗はしなかった。単に勢いで勝ってきたわけではなく、ミランにはしっかりと整備された守備組織があり、若い選手たちが成長することでそこからの鋭いカウンターにも磨きがかかってきている。

 加えて、トリノ戦では後半終盤にイブラヒモビッチが交代出場し、戦列に復帰している。大腿二頭筋を痛めていたサレマーカーズの復帰もそろそろで、コロナウイルス陽性の2人も1月中の復帰が見込まれる。チーム状況を考えると、ミランの視界はかなり良好だ。前半戦の苦しい時期を乗り切り、首位をキープしている。ユヴェントスの連覇を止めるのは、なんだかんだいってもやはりミランなのかもしれない。10シーズンぶりのスクデット獲得が徐々に現実味を増してきている。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD253号、1月15日配信の記事より転載

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