柏にはオルンガにも負けぬ“万能FW”がいる 決して無視できぬ呉屋大翔の躍動

今季から柏の一員となった呉屋 photo/Getty Images

限られたチャンスの中でも結果を残す男

2018シーズンこそ不本意な形でJ2降格を味わってしまったが、見事1年でのJ1復帰を勝ち取った“太陽王”が再びトップリーグの舞台で躍動している。9日に行われた第15節でもガンバ大阪を3-0で撃破し、J1で5位と好位置をキープする柏レイソルだ。

今季ここまで昇格組ということを忘れるほどの戦いぶりを披露している同クラブ。この快進撃の原動力となっているのは、現在までリーグ戦で圧巻の15ゴール(公式戦16ゴール)を荒稼ぎしているケニア代表FWマイケル・オルンガと言っていいだろう。昨季J2で27ゴールをマークし、最終節の京都サンガ戦では1試合8ゴールという離れ業をやってのけた怪物FWは、勢いそのままにJ1の舞台でも暴れている。身長193cmというサイズを活かした空中戦の強さ、長いストライドを存分に活かしたスピード、そして何よりストライカーに必要な高いシュートセンスを兼ね備えた彼は、間違いなく柏攻撃陣の中でもひときわ目を引く存在だ。得点ランキングトップを独走しているこの男を抜きに今の柏は語れない。

しかし、そんな規格外の実力者をライバルとしながらも、柏には虎視眈々とストライカーのレギュラーポジションを狙っている選手がいる。今季開幕前にG大阪から加入したFW呉屋大翔だ。昨季はレンタル先のV・ファーレン長崎でエースとしての地位を確立し、オルンガに次ぐ22ゴール(日本人トップ)をマークした同選手。身長177cmとそこまでのサイズこそないものの、彼はどんな形からでも得点を奪える“万能FW”として前線に違いを生み出すことができるプレイヤーだ。
とはいえ、獲得当初は誰もが彼のことをオルンガの“優秀な控え”と捉えていたに違いない。いくら昨季のJ2日本人得点王とはいえ、圧巻の活躍を披露したオルンガからポジションを奪うのは難しい。あくまでも、オルンガがシーズン途中に欧州クラブへと引き抜かれた際の保険。彼の存在をそう捉えていた人も少なくなかったはずだ。

だが、現在の呉屋はそういった周囲の予想を覆しつつある。オルンガが絶好調なだけに立場逆転とまではいかないものの、彼は出場機会を与えられればすぐに結果を残している。今季公式戦において、呉屋が出場した11試合で奪ったゴールは「5」。こうして見るとそこまでの数字には感じられないが、得点ペースを考えるとその貢献度の高さが見て取れる。同選手はここまで122分につき1ゴール(出場時間:610分、得点:5)を挙げているのだが、これは現在J1で得点ランキング2位タイにつける浦和レッズのレオナルド(118分につき1ゴール)、横浜F・マリノスのマルコス・ジュニオール(130分につき1ゴール)、鹿島アントラーズのエヴェラウド(163分につき1ゴール)といった選手たちの公式戦得点ペースに匹敵する数字なのだ。

さすがに驚異的なペースで得点を量産するオルンガ(82分につき1ゴール)とは少し差が開いてしまっているものの、これはもっと評価されるべき数字なのではないだろうか。もちろん、上記の選手たちと呉屋のプレイタイムには2倍以上の差があるのは事実。しかし、不規則な起用法でここまで結果を出せる選手というのも、そこまで多くは存在しないだろう。見逃せないのは確かだ。

加えて、呉屋はピッチに立てば柏守備陣“第一の防波堤”としても大いに貢献を果たす。最も印象に残ったのはルヴァンカップ・グループステージ第2節の湘南ベルマーレ戦。この試合に先発出場した呉屋は、90分間足を止めることなく相手DFにプレッシャーを与え続けてチームの完封勝利に貢献。試合終了のホイッスルと同時に両足を攣ってピッチに倒れ込んだ呉屋の姿を見て、この26歳がどれほどチームのために走っているかを改めて実感した人も多かったことだろう。これはオルンガにはない強みで、チームとしても前線から守備に走ってくれる彼にはかなり助けられているはずだ。単にバックアッパーと呼ぶにはもったいなさすぎるパフォーマンスで、呉屋は柏に違いをもたらしている。

そんな努力を評価して、柏のネルシーニョ監督はリーグ戦第15節のG大阪戦でオルンガと呉屋の同時起用に踏み切った。これまでは前線に正三角形の3トップを採用していた同監督だが、この試合では彼らを共存させるために2トップを採用。ハイラインを敷くG大阪に対して積極的に裏を取りに行く事情もあったが、呉屋はその努力によってチームのシステムをも変えてみせたのだ。なお、この試合でも呉屋は積極果敢なプレイでチームの勝利に貢献。得点こそなかったが、87分にはポスト直撃の惜しいループシュートを放ち存在感を示した。

オルンガという強力なライバルにも怯むことなく、ピッチ上で果敢に自分の持ち味を出し続ける呉屋。現時点で決して注目されているとは言えないが、この調子を継続できれば柏でひたむきに仕事をこなす“万能FW”が脚光を浴びる日もそう遠くないはずだ。スーパーサブからオルンガを出し抜く存在になれるポテンシャルを秘めたストライカー。呉屋大翔のプレイは今後も必見だ。

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