[水沼貴史]バイエルンの8連覇を止めるのはライプツィヒ 速攻・遅攻使い分けるオールマイティなチームに

水沼貴史の欧蹴爛漫040

水沼貴史の欧蹴爛漫040

青年指揮官ナーゲルスマンのもとで着実に成長を遂げているライプツィヒ。ヴェルナー(左)の得点力も健在だ photo/Getty Images 

遅攻のクオリティがアップ

水沼貴史です。ウィンターブレイクが明け、今月17日より後半戦に突入した2019-2020シーズンのブンデスリーガですが、7連覇中のバイエルン・ミュンヘンによる一強時代がついに終わるかもしれません。今回は絶対王者バイエルンを押しのけ、ブンデスリーガで現在首位に立っているRBライプツィヒについてお話しします。

直近の公式戦13試合で10勝3分けと、今シーズン開幕前に就任したユリアン・ナーゲルスマン監督(32歳)のもとで驚異的な成績を残している彼ら。ブンデスリーガ昇格初年度の2016-2017シーズンからの縦に速い攻撃は健在で、今シーズンもハイプレスからのショートカウンターで何度も相手ゴールを脅かしていますが、今の彼らの武器はそれだけではないと私は思います。ブンデスリーガ史上最年少の指揮官でありながら戦術家として高い評価を得ているナーゲルスマンのもとで、ライプツィヒのサッカーはどう変わったのでしょうか。

相手チームが自陣に引き籠った時に得意の速攻を繰り出せず、攻めあぐねてしまうケースが以前のライプツィヒには見受けられたのですが、ホッフェンハイムに質の高いポゼッションサッカーを植え付けた実績を持つナーゲルスマン監督が赴任してからというもの、彼らの遅攻のクオリティが上がった気がします。頻繁に自分たちの布陣を変え、相手チームを幻惑しようという意図がナーゲルスマン監督の采配や選手たちのプレイから感じられますし、直近のウニオン・ベルリン戦(ブンデス第18節)でも中盤の選手のポジショニングに工夫が見られました。
この試合では[4-2-3-1]という布陣のトップ下で起用されたクリストファー・エンクンクが相手の最終ラインと中盤の間に立ち、タイミング良くパスを受けることで相手のセンターバックやボランチを引き付けていました。センターバックが食いついたことに生まれる最終ラインの背後のスペースに快足のティモ・ヴェルナーらが走り、フィニッシュを狙うという攻撃はU・ベルリンにとって脅威になっていたのではないでしょうか。

また、この試合で右サイドハーフに入ったマルセル・ザビツァーの一風変わったポジショニングも、良いアクセントになっていましたね。後方からのビルドアップの際にサイドハーフの彼があえて中央にポジションをとり、コンラッド・ライマーとタイラー・アダムスの2ボランチと近い距離感を保ちながらパス交換することで、相手の中盤が真ん中に引き寄せられていました。こうしてできたサイドのスペースにノルディ・ムキエレやマルツェル・ハルステンベルクの両サイドバックが走り込み、相手の中盤が真ん中に寄ってきた瞬間にライマーあたりがそこへパスを送るという攻め方が、U・ベルリン陣営を困らせていたと私は思います。

U・ベルリン戦で秀逸なパフォーマンスを見せたザビツァー(左)とエンクンク(右) photo/Getty Images 

時にはロングボールを織り交ぜた攻撃も

ここまでライプツィヒの遅攻についてご説明しましたが、始めにお話しした通り、このチームは昨シーズンまで磨きあげてきた縦に速い攻めであったり、ハイプレスからのショートカウンターを今シーズンから“やらなくなった”わけではありません。ユスフ・ポウルセンやパトリック・シックといった高身長のFWがいますので、ハイプレスを仕掛けてくるチームに対しては無理に後方からショートパスを繋がず、彼らへのロングボールを選んでいます。

ロングボールが彼らに収まればそこが攻撃の起点になりますし、もし彼らが空中戦で勝てなくても、こぼれ球に対して連動したプレスをかければ、ショートカウンターに繋がります。実際にロングボールのこぼれ球をヴェルナーらが素早く回収し、2次攻撃に繋がったことが今シーズン何度かありました。

昨シーズンまでは直線的に相手ゴールを目指す攻撃に特化している印象が強かったライプツィヒが、相手の出方に応じて遅攻と速攻を使い分けることができるオールマイティなチームへと変貌を遂げた。これが今シーズンの彼らの躍進の理由ではないでしょうか。

若手主体のチーム編成でありながら、ここまで多彩なサッカーができるまでに成長したライプツィヒというクラブに、私自身魅力を感じています。今の彼らにはブンデスリーガを制するだけの力であったり、昨シーズンのアヤックスのようにUEFAチャンピオンズリーグの舞台でサプライズを起こせるだけのポテンシャルが備わっていると思います。来月9日に行われるバイエルンとの直接対決(ブンデス第21節)や、チャンピオンズリーグ・ラウンド16のトッテナム戦で彼らの真価が問われるでしょう。成長著しいライプツィヒ・サッカーのスペクタクルを、この2カードでぜひご堪能下さい。

ではでは、また次回お会いしましょう!


水沼貴史(みずぬま たかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。


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