長い間アトレティコの最終ラインを支えてきたディエゴ・ゴディン、リュカ・エルナンデス、フィリペ・ルイス、ファンフラン、中盤の要であったロドリ、そして得点源として存在感を示してきたアントワーヌ・グリーズマンが移籍してしまいましたが、ここまでは新戦力が順調にフィットしていると私は思います。特にブラジルのアトレティコ・パラナエンセから引き抜いた左サイドバックのレナン・ロディ(21歳)が、攻撃面で良いアクセントになっていますね。高度な足技で相手を抜くことが得意なフィリペ・ルイスとは違い、ロディは圧倒的なスピードで相手を置き去りにできます。これまでのアトレティコにいなかった爆発力のあるタイプのサイドバックですし、開幕戦で早速アシストを記録した新右サイドバックのキーラン・トリッピアーにも馬力がありますので、サイド攻撃は今まで以上に相手にとって脅威となるのではないでしょうか。
また、中盤と最前線に目を移しても、あらゆる試合展開や対戦相手に対応できる陣容が整っているように見受けられます。前線には軽快なドリブルで複数のマーカーを剥がすことができ、相手最終ラインの背後をとるランニングが得意なジョアン・フェリックスと、ポストプレイに定評があるジエゴ・コスタ。そしてフェリックスと同様に裏抜けが得意で、コスタと同じくヘディングの打点も高いアルバロ・モラタが控えています。地上戦と空中戦のどちらも選択可能というのが、今季のアトレティコの凄みと言えるでしょう。中盤にもフィジカルコンタクトに自信があり、エイバル戦でも力強い中央突破から決勝ゴールを挙げたトーマス・パルティという切り札がいますから、仮に対戦相手が自陣に引き籠ったとしても、攻めあぐむことはないと思います。これまで主力として君臨してきたサウール・ニゲスとコケも健在ですし、今夏にポルトから加わったエクトル・エレーラもハードワークができ、中盤であればどこでもできるユーティリティー・プレイヤーです。昨季と比べ選手層は厚くなったと言えるのではないでしょうか。
チームの顔ぶれが大幅に変わったことがきっかけとなったのか、今季のシメオネ監督からはこれまで磨き上げてきた堅守速攻をベースとして残しつつも、新しい布陣にもトライして攻撃のバリエーションを増やそうという気概が窺えます。この試みが功を奏し、順調にゴールや勝ち星を積み重ねることができれば、2013-2014シーズン以来のリーグ優勝、そして過去に2度ファイナルで涙を飲んでいるUEFAチャンピオンズリーグの制覇も見えてくるはずです。私としては新たな時代を築こうとしているアトレティコの変貌ぶりに注目しながら、今季のリーガ・エスパニョーラを楽しみたいですね。
ではでは、また次回お会いしましょう!
水沼貴史(みずぬまたかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。
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