[水沼貴史]今季のアトレティコはひと味違う!? 堅守速攻だけでない凄みとは

水沼貴史の欧蹴爛漫 034

水沼貴史の欧蹴爛漫 034

2011年よりA・マドリードを率いているシメオネ監督。今季は新しい布陣を積極的に取り入れ、豊富な手駒を活かそうとしている photo/Getty Images 

新たな布陣にトライ

水沼貴史です。先月始まったばかりの2019-2020シーズンの欧州主要リーグですが、早くもスタートダッシュに成功したクラブと、失敗してしまったクラブとの差が顕著に表れていますね。今回はスタートダッシュに成功したクラブのなかから、アトレティコ・マドリードの現状についてお話しします。2013-2014シーズンを最後にリーグ優勝から遠ざかっているアトレティコですが、今季のリーガ・エスパニョーラで開幕3連勝スタートと、上々の滑り出しを見せています。今月1日に行われたリーグ第3節(エイバル戦)では2009年5月10日のエスパニョール戦以来となる、“0-2”からの逆転劇を演じてみせました。2011年に就任したディエゴ・シメオネ監督のもとで堅守速攻を磨き上げ、今や欧州屈指の強豪へと成長した彼ら。しかし今季はひと味違うようです。彼らの新たなストロングポイントとは、一体何でしょうか。

[4-4-2]という布陣を長年にわたりベースにしてきたシメオネ監督ですが、今季の国内リーグ第1節ヘタフェ戦と第3節のエイバル戦では[4-3-1-2]、第2節のレガネス戦では[3-1-4-2]と、これまであまり使ってこなかった布陣を積極的に取り入れています。今のところ[4-3-1-2]のトップ下で起用されているトマ・レマルの動きが良いですね。前所属先のモナコでブレイクし、昨年の夏に鳴り物入りでアトレティコに加入した彼ですが、サイドハーフにも強烈な守備や素早い帰陣を求めるシメオネ監督の戦術にフィットしきれず、攻守ともに不完全燃焼で昨季を終えてしまった印象があります。ですが、今季のアトレティコはマイボールの際にトップ下の彼が自由にポジションを変えるという攻め方をとっていて、この動きが相手のマークを引きつけたり、相手の守備組織を崩すことに繋がっています。彼自身、今季のほうが攻撃面でのびのびとプレイできているのではないでしょうか。今後も彼がアトレティコの攻撃のキーマンとなるでしょうし、リーガの試合をご覧の皆さんには、絶妙なポジショニングでアトレティコの攻撃にアクセントを加えている彼のプレイにご注目頂きたいです。

[4-3-1-2]という布陣のトップ下で起用されているレマル(左)と、新左サイドバックとして存在感を示しているロディ(右) photo/Getty Images 

分厚くなった選手層

長い間アトレティコの最終ラインを支えてきたディエゴ・ゴディン、リュカ・エルナンデス、フィリペ・ルイス、ファンフラン、中盤の要であったロドリ、そして得点源として存在感を示してきたアントワーヌ・グリーズマンが移籍してしまいましたが、ここまでは新戦力が順調にフィットしていると私は思います。特にブラジルのアトレティコ・パラナエンセから引き抜いた左サイドバックのレナン・ロディ(21歳)が、攻撃面で良いアクセントになっていますね。高度な足技で相手を抜くことが得意なフィリペ・ルイスとは違い、ロディは圧倒的なスピードで相手を置き去りにできます。これまでのアトレティコにいなかった爆発力のあるタイプのサイドバックですし、開幕戦で早速アシストを記録した新右サイドバックのキーラン・トリッピアーにも馬力がありますので、サイド攻撃は今まで以上に相手にとって脅威となるのではないでしょうか。

また、中盤と最前線に目を移しても、あらゆる試合展開や対戦相手に対応できる陣容が整っているように見受けられます。前線には軽快なドリブルで複数のマーカーを剥がすことができ、相手最終ラインの背後をとるランニングが得意なジョアン・フェリックスと、ポストプレイに定評があるジエゴ・コスタ。そしてフェリックスと同様に裏抜けが得意で、コスタと同じくヘディングの打点も高いアルバロ・モラタが控えています。地上戦と空中戦のどちらも選択可能というのが、今季のアトレティコの凄みと言えるでしょう。中盤にもフィジカルコンタクトに自信があり、エイバル戦でも力強い中央突破から決勝ゴールを挙げたトーマス・パルティという切り札がいますから、仮に対戦相手が自陣に引き籠ったとしても、攻めあぐむことはないと思います。これまで主力として君臨してきたサウール・ニゲスとコケも健在ですし、今夏にポルトから加わったエクトル・エレーラもハードワークができ、中盤であればどこでもできるユーティリティー・プレイヤーです。昨季と比べ選手層は厚くなったと言えるのではないでしょうか。

チームの顔ぶれが大幅に変わったことがきっかけとなったのか、今季のシメオネ監督からはこれまで磨き上げてきた堅守速攻をベースとして残しつつも、新しい布陣にもトライして攻撃のバリエーションを増やそうという気概が窺えます。この試みが功を奏し、順調にゴールや勝ち星を積み重ねることができれば、2013-2014シーズン以来のリーグ優勝、そして過去に2度ファイナルで涙を飲んでいるUEFAチャンピオンズリーグの制覇も見えてくるはずです。私としては新たな時代を築こうとしているアトレティコの変貌ぶりに注目しながら、今季のリーガ・エスパニョーラを楽しみたいですね。

ではでは、また次回お会いしましょう!


水沼貴史(みずぬまたかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。



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