理想を追い求めることが勝利に直結する。同時に、選手自身の成長にもつながる。名古屋グランパスの風間八宏監督をみていると、こうした考えのもと一貫した指導を続けている。わかりやすくそのサッカーを表現すると、いかに自分たちがボールを持ち、相手にプレイさせる余地を与えないかとなる。
説明するまでもなく、最初に指揮を執った川崎フロンターレでも同じようにチーム作りを続けた。就任当初は結果に繋がらず、試合後の記者会見で地元紙の番記者から「この方向性で大丈夫なのか?」という意味合いの質問をされていた時期もあったが、風間監督がブレることはなかった。
大事なのは、相手からの厳しいプレッシャーに負けて後ろ向きになるのではなく、自分たちの力を発揮して主導権を握ってサッカーをすること。そのためには、一人一人が頭をクリアに、状況に応じて的確な判断を下し、なおかつ正確なプレイができなければならない。
「見えていなければいけないものが見えていない選手がいた」「見えていないはずのものが見えてしまっている選手がいた」
これは、風間監督からときおり聞かれる言葉である。どちらも、相手からのプレッシャーに負けて視野が狭くなり、チーム全体で共有するはずのビジョンを共有できなかったという意味にとらえられる。
狙っているのは、受け身になるのではなく、あくまでも主導権を握って自分たちが主役となって試合を進めること。実に攻撃的で、各選手がしっかりと力を発揮したときはチームとして躍動感と爽快感があり手がつけられない強さをみせる。一方で、自分たちが主導権を握ることに意識があるため、安易なパスミスなどで突発的にピンチを迎えると、対応できずに失点することがある。
これはアンジェ・ポステコグルー監督が率いる横浜F・マリノスも同じで、理想とする攻撃的なサッカーで大量得点をするときがあれば、カウンターを受けて次々に失点する試合もある。ハイラインのもと、サイドバックがときに守備的MF、インサイドハーフといったポジションまで上がり、ビルドアップに絡む。
流動的なようで規則的な動きのなか、各選手が正確にパスをつなぎ、能動的に相手の守備を崩していく。フィニッシュまでいったときは思わず「オーッ」と感嘆の声をあげてしまうほどで、就任から短期間で攻撃面に関しては魅力的なチームを作り上げている。
北海道コンサドーレ札幌のミシャことミハイロ・ペトロビッチ監督も信念を曲げずに攻撃的なサッカーを追求している。一方で、「サッカーは狙いをうまく出せる試合、出せない試合がある。Jリーグでは試合をほとんど支配しても、1本のカウンターでやられると評価されない」とかつて語っていたように、結果(=勝利)の重要性も十分に理解している。それでも、自身のなかにある理想的なサッカー、お客さんに楽しんでもらうサッカーを続けている。
ここまでの3人とは違い、清水エスパルス、ガンバ大阪、FC東京を渡り歩いてきた長谷川健太監督は、堅守をベースとしたチームを作り上げてきた指揮官だ。長谷川監督が追い求めてきた、各選手が献身的にハードワークする守備でボールを奪い、素早い攻撃でフィニッシュまで
繋げるサッカーは、今季首位を走るFC東京で完成の域に達しつつある。守備から攻撃への切り替えが早いチームを作るのが得意で、もともと縦に早いサッカーを展開していたFC東京の指揮官となったのは必然だったのかもしれない。
後編へつづく
文/飯塚 健司
※電子マガジンtheWORLD No.235より転載
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