ポゼッションサッカーは終わったのか? リーガで起こる奇妙な逆転現象

ポゼッション率を高くても勝てぬレアル・ベティス photo/Getty Images

レアル・ベティスの苦戦から見える変化

バルセロナに対してマンマークで前線からプレスをかけ、ボールを持てば自陣ペナルティエリア内でも徹底してショートパスを繋ぐ。今月11日に行われたバルセロナ戦でレアル・ベティスが見せたサッカーに興奮した人も多いのではないだろうか。

ベティスは乾貴士が所属しているクラブで、それを指揮するキケ・セティエンは相手に関係なくボールを徹底的に繋ぐ攻撃的なスタイルを貫いている。バルセロナ戦も4-3と打ち合いを制して大金星を挙げており、今リーガ・エスパニョーラで見ていて楽しいクラブの1つに挙げられる。バルセロナ指揮官エルネスト・バルベルデが退任した場合、最も後任にふさわしいのがセティエンと言われるほどだ。ポゼッション率を高く保つセティエンのサッカーはバルセロナの哲学にもフィットすると考えられているのだろう。

しかし、残念なことに結果がついてきていない。ポゼッション率を高く保つことはできているのだが、思うように得点を奪うことができていない。バルセロナ戦では4得点を挙げたが、リーグ戦12試合を消化した段階で得点数は僅か12だ。1試合平均1ゴールで勝ち点を稼いでいくことは難しく、ベティスはポゼッションからどう得点へ結びつけていくのかを考え直す必要があるだろう。
しかも興味深いことに、こうした事態に陥っているのはベティスだけではない。ジョゼップ・グアルディオラがバルセロナで黄金期を築いた頃よりポゼッション率は大きな注目を集め、ポゼッション率を高めることがゲームを優位に運ぶポイントの1つとまで考えられていた。ところが、そんなポゼッションサッカーブームの火付け役とも言えるスペイン国内で少し奇妙な現象が起きている。

ここで注目したいのが、1試合平均のポゼッション率ランキングだ。1位はバルセロナで62.9%、2位はベティスで61.8%、そこから3位レアル・マドリード(60.7%)、4位エイバル(54.8%)、5位セルタ(51.5%)、6位アスレティック・ビルバオ(51.1%)、7位ビジャレアル(51%)、8位ラージョ・バジェカーノ(50.2%)、9位アトレティコ・マドリード(50.1%)と続いており、ポゼッション率が50%以上となっているのはこの9チームだ。

高いポゼッション率を記録していることはゲームを優位に進めている証の1つとも考えられていたが、今は異なる。このランキングでバルセロナ、レアル、アトレティコの3チーム以外は全てリーグ戦の順位が10位以下となっているのだ。それどころかリーグテーブルを見れば、16位のビジャレアル、17位のビルバオ、19位ラージョのように降格の心配までされるチームもある。エイバルも13位、セルタも14位だ。ポゼッション率が勝利を保証しないことがよく分かるデータと言える。

ベティスもバルセロナ相手には4得点を奪ったが、これは相性も関係している。元よりバルセロナは前から積極的にプレスをかけてくるチームのため、それさえ外せば敵陣には広大なスペースがある。セティエン率いるベティスにとって、実はやりやすい相手だ。相手のプレスに引っ掛けられるリスクはあるが、1度プレスの網をかいくぐればビッグチャンスとなる。

しかし、相手が引いてブロックを固めてきた時は話が変わってくる。ポゼッション率は上昇しても、相手を崩し切れないのだ。それは成績不振を理由に解任されたフレン・ロペテギのレアル・マドリードにも言えることで、ポゼッション率が70%を超えることが珍しくなかったにも関わらずロペテギのチームは深刻な得点力不足に陥った。相手の守備陣形が整う前にどう素早く攻め込むのかが重要で、現代では自陣に引いた相手を遅攻から崩していくのは難しくなっている。それこそリオネル・メッシのように個でブロックを切り崩してくれるタレントが必要だ。そうした強烈なタレントを中堅クラブが抱えるのは難しく、もちろん乾が所属するベティスにもそうしたタレントは不足している。

今季リーガでサプライズを起こしている4位アラベス、5位エスパニョール、7位レアル・バジャドリードなどは1試合平均のポゼッション率が低い。エスパニョールは49%でポゼッション率ランキング11位、バジャドリードは47.2%で14位、アラベスに至っては42.9%で下から2番目の19位だ。それでもアラベスはベティスやエイバル、ビルバオ、ビジャレアルを上回る17得点を記録しており、リーガの舞台でも堅守速攻の波がきていると見ていいだろう。

セティエンはバルセロナ戦前、ベティスにはまだまだポゼッションサッカーの歴史がないことをアピールしていた。セティエンは昨年5月よりチームを指揮しているため、実質ポゼッションサッカーにこだわって取り組んだのは1年半だ。一方でバルセロナは指揮官が代わっても基本コンセプトが大きく変わることはない。

ここからセティエンはポゼッションベースのサッカーを磨いていく考えのようだが、それが勝利という結果に繋がるのだろうか。スペインといえばポゼッションサッカーとのイメージは根強いが、いつしかそれは過去のものとなりつつあるのかもしれない。

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