厚く、高いラウンド16の壁 昌子「日本を守る男になりたい」

初めて「16強の先」を見据えた日本

初めて「16強の先」を見据えた日本

ポーランド戦で思い切った決断を行なった西野監督 photo/Getty Images

去る5月31日、日本サッカー協会がロシアW杯に臨む23名を発表したあと、同会場にいた原口の取材も行われた。このとき、本大会での目標を問われた原口は「目標はベスト8。まだ日本が辿り着いたことのないところまでいきたい」(原口)と語っていた。正直、目指すのはグループステージ突破だろうなと考えていたので、“高いな”という印象を受けた。

しかし、選手たちの気持ちはひとつだった。以下はすべてベルギー戦に向けての言葉である。

「ベスト8という日本サッカーにとって新しい歴史を作ることを目標にやってきた」(昌子)
「ベスト16は素晴らしいが、自分たちの目標はもっと上にあると感じている」(川島)

「(ベルギーに)必ず勝って次へ進みたい」(香川)

西野監督もまた、未知なる領域へ進むことをしっかりと見据えていた。

「ラウンド16に進出した2大会はこの時点ですべてを出し尽くしてラウンド16に臨んでいた。気持ちでいままで以上に有利なスピリットを持たせたい。『グループリーグを突破できてよかった』ではない精神状態に持っていきたい」

これはグループステージ3戦目のポーランド戦を終えたあとの言葉で、すでにベスト8への道を探っていた。その後に対戦相手がベルギーに決まり、短期間で決戦を迎えることに。サッカー界のランク付けでは、明らかにベルギーが上である。デ・ブライネ、E・アザール、ルカクといったプレミアリーグで活躍する選手が多く、ベンチの質も高い。下馬評で日本が不利なのは当然で、そのなかでいかに勝利するべく戦うかだった。

「メンバーをそのままで3点目を」

「メンバーをそのままで3点目を」

2点リードし、歓喜に沸く日本だが…… photo/Getty Images

いざ試合がキックオフされると、前半は自陣にしっかりと守備の組織を作り、ベルギーが仕掛けてくる攻撃を跳ね返した。ポゼッションは許したが、ペナルティエリア内では自由にシュートを打たせず、0-0で折り返すことに成功した。 「(日本が)ボックス内を固めていて、まったく進入できなかった」とはベルギーのマルティネス監督である。

チャンスは少なかったが、うまく試合を進めていた。そして、「いまのチームならベルギーに抵抗できるのではないかと考えていた。いくつかプランがあるなか、最高の流れを自分たちでつかんだ」という展開にも持ち込んだ。言わずと知れた2点のリードである。

残り時間は約40分。ひょっとしたら、という気持ちになったが、逆にこれがベルギーに火をつける展開となった。2人の選手交代を行い、3-2-4-1のシステムに移行。ヴィツェルとデ・ブライネをボランチに、その前方に右からムニエ、フェライニ、E・アザール、シャドリと並ぶ布陣はあまりにも強烈だった。

痛恨だったのはヴェルトンゲンに許した1点目だ。「サッカーでは2-0が一番怖いというけど、1点目が決まったときにこっちがもっていなくて、向こうがもっている雰囲気になった。完全に流れをつかまれてしまったのが悔しい」と語ったのは昌子である。

日本が2点をリードしてからのベルギーは完全に本気モードであり、この1点でさらに乗せてしまった。ヴェルトンゲンのゴールからわずか5分後、CKの流れからフェライニに打点の高いヘディングを決められた。

「2点をリードして試合をコントロールしている時間もあったが、そこでベルギーが本気になってしまった。試合前に『相手のフルパワーを引き出そうぜ』と話していてそれはできたが、最後の30分は本気のベルギーに対抗できなかった」(西野監督)

選手交代、システム変更に活路を見出すとすれば、ベルギーが2人を代えたあと、もしくは1点を返されたあとだろう。しかし、どちらも展開がどう動くか見極めようとしている短時間のうちに失点している。2点リードしている状況のときは「メンバーをそのままで3点目をという気持ちだった」(西野監督)という狙いで戦っていた。

日本サッカーはこの一戦を教訓にできる

日本サッカーはこの一戦を教訓にできる

試合後、悔し涙を流す昌子(右)photo/Getty Images

2点追い付くのに必死だったベルギーは、終盤になると延長戦を覚悟している様子だった。対して、日本には延長戦を見据えながらも、90分間で“勝ちきる”という姿勢がみられた。皮肉にも流れをつかんでおり、90+1分にCK、90分+4分にもFKがあった。さらに、このFKからもう一度CKを得た。ここでの判断が分かれるところだが、日本は点を取ることを考えてゴール前に選手たちがポジションを取った。

「まさか数秒後に自陣のゴール前になっているとは……。選手たちもスーパーカウンターを受けるとは予測していなかったと思う。(勝敗を分けたのは)紙一重の勝負どころだと思う」(西野監督)

「決して、日本を甘くみていたわけではない。こちらが1点を返したとき、日本は衝撃だったと思う。最後はボックスからボックスまで6秒以内に到達した。やはり、ハングリーでなければならない。『準々決勝へ絶対に行くんだ』という欲望がわれわれを勝たせたと思う」(マルティネス監督)

勝敗を分けたのはなんだったのか? 逆転負けという答えが出たことで、他の選択肢がいろいろと考えられる。ただ、消極的な選択が正解につながることがあれば(ポーランド戦)、積極的な選択が敗戦につながることもある(ベルギー戦)。どれだけ持論を展開しても、そこに正解を見出すことはできない。

より大事なのは、教訓を次へ次へと生かすことだ。試合後の昌子は「いまの感情がまったくわからない。ただ、メッチャ悔しい。いま思うのは、日本を守る男になりたい。いかに日本を守れるか──。そういう選手になりたい」と言葉を残した。

また、西野監督は「これまでのラウンド16とは違うカタチで臨み、プランを立てたなか戦えた。しかし、力が足りないのを見せつけられた。また4年後に託したい。次へつながれば、そこに意義がある。4年後に今大会が成功だったといえる日本サッカー界にしてほしい」と悔しさを覗かせつつも、先を見据えた言葉を残している。

3度目の挑戦も跳ね返された。しかし、ベルギーを相手に2点をリードして残り約40分というところまでいった。前進、後退を繰り返しているが、日本サッカーは確実に先ヘは進んでいる。次にW杯でラウンド16の戦いを見られるのがいつになるかはわからないが、間違いなくこの一戦が教訓として語られるはずである。

文/飯塚 健司

サッカー専門誌記者を経て、2000年に独立。日本代表を追い続け、W杯は98年より6大会連続取材中。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。サンケイスポーツで「飯塚健司の儲カルチョ」を連載中。美術検定3級。Twitterアカウント : scifo10

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