ハリル氏が明かした2人の不満分子は誰? サポーターの間で”犯人探し”は始まってしまった

前日本代表監督のハリルホジッチ氏 photo/Getty Images

選手にも疑問の目が向けられることに

「真実を探しに来たと言ったが、真実は見つかっていない」

前日本代表監督ヴァイッド・ハリルホジッチ氏の言葉通り、大きな注目を集めた今回の会見でも解任の真相に近づくことはできなかった。むしろ余計に疑念や混乱が広がり、様々な憶測が飛び交うようになってしまった。何より注目されたのは、ハリルホジッチ氏が何度か口にした「不満を持っていた選手」の存在だ。

ハリルホジッチ氏はワールドカップ出場を決めた昨年8月のオーストラリア代表戦で出場機会がなかったことを悔やんでいた選手が2人いたこと、さらに3月のベルギー遠征の後で1人の選手が不満を持っていると当時技術委員長を務めていた西野朗現日本代監督から報告を受けたと会見で明かしている。出場機会が無いことにガッカリした2人、不満を漏らした1人とどちらも人数が少ないため、これでは犯人探しがスタートしてしまう。もし選手の半数近くがハリルホジッチ氏のやり方に不満を漏らしていたのならば、解任の判断も仕方がなく、犯人は誰かといった話にもならないだろう。しかし今回はオーストラリア戦に出場しなかった2人、またその2人がこれまで代表戦に出ていたこと、ベルギー遠征後に不満を漏らしていた者が1人いたことなどいくつか情報が明るみに出ているため、不満を抱いたのが誰なのか絞り込みやすくなってしまっている。実際ハリルホジッチ氏の会見中からSNS上では不満を漏らしたのは誰なのかといった議論がサポーターの中で起きており、そこに話題が集中している。
しかも1人、2人といった言い方をしてしまうと、必然的にチーム内で一定の地位を築いている中心メンバーのことではないかと予想されやすい。ハリルホジッチ氏はこれまで若手選手も積極的に呼んでいるが、そうした若い選手たちが不満を訴えるとは想像しにくい。また代表経験の浅い若手の1人が不満を訴えたところで、それは特別な問題にはならないはずだ。しかし西野現監督を通す形でハリルホジッチ氏に不満が伝わったことを考えると、その不満は一定の地位を築いている者からのものだったと推測できる。

さらにその不満が自身のプレイタイムや起用されるポジションについてなのか、ハリルホジッチ氏の戦術に対するものなのかも重要だ。そもそも親善試合でも、出場できるのは1試合あたりスタメン11人と交代の6人を合わせた17人だけで、召集されてもプレイタイムが限られてしまう選手は出てくる。召集された全員が満足するのは難しく、指揮官の起用法に満足しない者が数名は出てくるものだ。ハリルホジッチ氏はベテラン選手でも容赦なく外してきたため、余計にそうした不満を持つ者が出やすい環境だったと言える。これはどの代表チームでも少なからず起きていることだろう。

しかし、これも西野現監督を通す形でハリルホジッチ氏に不満内容が伝わったことを考えると、内容は指揮官の戦術に対するものだったのではないかと考えられる。しかもベルギー遠征ではマリ代表、ウクライナ代表相手に結果が出ていない。ここで噴出する不満はやはり指揮官の戦術についてだろう。そしてそこから協会が動き、1か月後の4月にハリルホジッチ氏解任が発表された。協会側はハリルホジッチ氏と選手間のコミュニケーション不足が大きな問題だったと指摘しているが、ハリルホジッチ氏が具体的な人数を出したために代表チームで力を持つ1人か2人の選手が不満を訴えたところから解任に向けたストーリーが動いたようにも聞こえてしまう。

そもそもコミュニケーション不足というのは非常に曖昧な表現だ。あくまでハリルホジッチ氏の見解では、選手との間にコミュニケーションの問題はなかったことになっている。もちろんハリルホジッチ氏が選手の意見を聞き入れず、選手が思うことを言えない環境になっていた可能性はある。それは立派なコミュニケーション問題だ。しかしそうした具体的な部分は何も明かされていないため、「コミュニケーションの問題はなかった」、「不満を持っていた者が1人いた」とのハリルホジッチ氏の発言が余計に際立ってしまう。ハリルホジッチ氏がコミュニケーションに何の問題も感じていなかったと強調している以上、その1人、あるいは2人の選手の謀反によって解任が実現したかのようにも見えてしまう。

先日、会見を開いたJFA田嶋幸三会長は「日本らしいサッカーを志向してほしいと思う。しっかりボールを繋いでいくということ」と日本が目指すべきサッカーについて語り、同じく西野新監督もハリルホジッチ氏のスタイルをそっくりそのまま踏襲するわけではないことをアピールしている。となれば、ワールドカップ本大会でシステムや起用される選手がガラリと変わる可能性もあり、もしそうなれば余計に印象は悪くなってしまう。それこそ4年前と同様に後方から細かく繋いでいくポゼッションサッカーを1つのベースとし、当時からチームを支えてきた古参組を再び中心に据えれば、彼らの中に不満分子がいたのではとサポーターが疑うのも無理はない。今回ハリルホジッチ氏が挙げた1人、2人といった数字はそうした疑惑を生みやすい。

今回ハリルホジッチ氏は最後まで具体的な名前は挙げなかったが、サポーターの間で犯人探しは始まってしまった。会見で解任騒動の答えが少しでも見えるかとも思われたが、余計に混乱してしまったように思える。このタイミングで監督交代に踏み切った協会はもちろん、ワールドカップを戦う選手たちにも疑問の目が向けられることになる。どこかモヤモヤが残った状態でワールドカップを迎えることになり、疑惑を抱いたサポーターには迷いが生じることになる。最悪の場合は今回のハリルホジッチ氏解任騒動が日本代表そのもののイメージを大きく落としてしまうことになるかもしれない。

記事一覧(新着順)

電子マガジン「ザ・ワールド」No.291 究極・三つ巴戦線

雑誌の詳細を見る

注目キーワード

CATEGORY:コラム

注目タグ一覧

人気記事ランキング

LIFESTYLE

INFORMATION

記事アーカイブ