今季も多くのドラマが生まれそうなCL・決勝 シティが悲願を達成するためには?

水沼貴史の欧蹴爛漫079

水沼貴史の欧蹴爛漫079

今季公式戦52試合に出場して52ゴールを記録しているハーランド photo/Getty Images

ハーランドの加入で最前線に一本の柱が

水沼貴史です。欧州の2022-23シーズンもついにクライマックス。10日にトルコのイスタンブールでチャンピオンズリーグの決勝が行われ、マンチェスター・シティとインテルが激突しますね。シティが初のビッグイヤーを獲得するのか、はたまたインテルが13年ぶりの栄光を手にするのか。多くのサッカーファンが注目していることでしょう。そんな中でも今回は、悲願達成に燃えるシティに関して、少々お話をしたいと思います。

まず、今季のシティを振り返ってみると、最も大きな出来事といえば、やはりノルウェー代表FWアーリング・ハーランドの加入でしょう。規格外の選手がチームに加わりましたが、シティのサッカーにフィットするには「時間がかかる」「簡単にはいかない」といった話もよく耳にします。しかし、ハーランドに関していえば「全く問題ない」。

ハーランドはスピードがあり、高さもあります。そして、動き出しが素晴らしく、パスやクロスに対しての合わせ方もいいです。いろんな武器を備えている選手で、そんな彼に合わせられる選手がシティにはたくさんいるので、これまでのハーランドに比べて、ゴールの奪い方が多彩になったように思います。その結果、今季は公式戦52試合に出場して、驚異の52ゴールを記録。これまでのシティは、なかなかトップの選手が定まらなかったところもあるかもしれませんが、ついに絶対的エースストライカーを手に入れた。プレミアリーグ終盤の怒涛の巻き返しを見ても、選手がチームにフィットしたら、これだけ強くなるんだという印象を受けました。
確かにプレミアリーグの成績を見ると、ハーランドの加入によって、シティ全体の得点数が大きく伸びたかといえば、そうではありません。むしろ、昨季に比べて「5点」減っています。ただ、最前線に一本の柱が立った、チームの軸ができたのは大きいと私は感じています。特に、以前までのシティは「ストライカー」に関して、色々と指摘されることもありましたからね。こういった選手が獲得できて、これだけの結果を残したというのは、さすがの一言に尽きると思います。

さらに、今季は他の新戦力も素晴らしい。ハーランドがあれだけ結果を残すと、彼とは違ったタイプであるFWフリアン・アルバレスもより生きると思います。守備面ではDFマヌエル・アカンジが存在感を発揮し、プレミアリーグ第2節でトップチームデビューを飾ったDFリコ・ルイスあたりも、着実に力をつけてきています。また、新戦力ではありませんが、DFジョン・ストーンズがひとつ前でプレイすることができるようになり、戦術の幅が広がったことも大きい。次々とオプションが増えていますね。シティの強さはホンモノで、プレミアリーグ3連覇も納得といえるでしょう。

ミランとの準決勝ではゴールを記録。シティにとってもインテルのラウタロ・マルティネスは警戒すべき選手だ photo/Getty Images

インテルのカウンターは警戒すべき

そして、プレミアリーグに加えて無事にFA杯を制して迎えるインテルとのCL・決勝。シティの欧州屈指の攻撃力を警戒して、インテルはガチガチに固めてくるのではないでしょうか。システム的にも、5バックにしてくることが予想されます。とはいえ、インテルの2トップは強力。ラウタロ・マルティネスと組ませるのがエディン・ジェコになるか、ロメル・ルカクになるかはわかりませんが、カウンターに対する警戒は必須です。

あと、インテルは経験が豊富な選手たちもいて、特にマルセロ・ブロゾビッチはW杯・決勝を経験しているので、こういった大舞台にもなれていると思います。シティにとって、押さえるべきポイントのひとつでしょう。ニコロ・バレッラあたりも勢いがあるので、中盤の構成も含めて注意すべきだと思います。

また、今季もそうですが、シティは5バックの相手に苦戦を強いられることがあります。相手が後ろに多くの人数を割くことで、ゴール前のスペースを消され、バイタルエリアも削られる。そのため、自由に動けるスペースがない。コンビネーションやピンポイントのパスを駆使しながら、いかにしてスペースや時間を作るのか、一瞬一瞬の相手の隙を大事にして、そこでしっかり相手を仕留められるのかの戦いになるのではないかと、私は見ています。そういった意味でも、先制点は大きな意味を持つでしょう。拮抗した状態が長い時間続くのは、シティにとって得策ではない。あっさり先制点が取れれば、決勝の舞台にも関わらず、ゴールラッシュによる大勝なんてこともあり得るかもしれません。

インテル戦でキーマンとなりそうなデ・ブライネ photo/Getty Images

キーマンはやはりハーランドとデ・ブライネ

そのため、やはりこの試合のキーマンとなるのは、ゴールに直結する仕事ができるハーランドとケビン・デ・ブライネですかね。ハーランドは5月以降の公式戦で8試合に出場しながらも、2ゴールとやや大人しめ。この大舞台に向けて、あえて力を溜めているわけではないでしょうが、そういった雰囲気が感じられるのは、それだけの選手ということでしょう。この間に溜まった貪欲さが、CL・決勝で爆発する可能性は大いにあるではないでしょうか。

デ・ブライネは、近年の大量アシストを見てもわかるとおり、どんな状況でも、どんな相手にもチャンスを作ることができます。先ほど述べた一瞬の隙とか、ピンポイントで合わせるとか……。今、最高潮の選手だと思いますし、彼ならちょっとした瞬間で相手を刺すことができる。それがデ・ブライネだと思います。

プレミアリーグ最終節のブレントフォード戦を見ても、シティのタイトルにかける強い思いを感じることができました。この試合ではペップは、大幅なターンーオーバーを敢行し、交代も怪我明けのネイサン・アケとシェイ・チャールズを入れ替えたのみ。80分以上も拮抗状態が続いても、終盤に先制点を許しても、最後まで主力たちのカードを切ることなく、0-1で敗れました。その結果、ブレントフォードを相手に屈辱の“シーズンダブル”。シティほどのクラブであれば、優勝がすでに決まっていたとはいえど、本来ならばこのような結果は決してプライドが許さないでしょう。しかし、こういったプライドを押し殺してでも、FA杯とCLを獲りにきている。主力を温存するとともに、2番手・3番手の選手たちのモチベーションをコントロールするのもさすがだなと思いました。

クロアチア人(インテルのブロゾビッチ)とブラジル人(シティのエデルソン)の連続CL優勝記録や、どちらのアルゼンチン人(アルバレスとラウタロ)が今季の国際2大タイトルを手にするかなど、局面局面にも見所が多く、今季もそれぞれの選手たちに多くドラマが生まれそうなCL・決勝。はたして、シティは初の欧州制覇を成し遂げ、“トレブル”を達成することができるのか。私も一サッカーファンとして、この戦いを純粋に楽しみたいと思います。

それでは、また次回お会いしましょう!

水沼貴史(みずぬま たかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。YouTubeチャンネル『蹴球メガネーズ』などを通じ、幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている

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