昨季、苦しみながらもプレミアリーグ残留を果たしたエヴァートン。今年1月に就任したフランク・ランパード監督が今季も続投し、プレシーズンは米国遠征を敢行。16位に終わった不本意なシーズンからの巻き返しを図っています。
リーグ開幕1週間前の先月30日、エヴァートンはディナモ・キーウを迎えて親善試合を行いました。”Match for Peace(平和のための試合)”と銘打った興行には、地元グディソン・パークに3万人のファンを集め、その中には地元マージーサイドで生活する約2,000人のウクライナ人招待客も含まれていました。ウクライナを支援する目的も含まれたテストマッチはファン自らがチケット購入時に1ポンドから10ポンドまでの寄付金額を付与する形式で発券され、大盛況のイベントになりました。
試合は共に今季バーンリーから加わった新加入選手が活躍。DFジェイムズ・タルコフスキが先制ゴールをお膳立てすると、イングランドU-21代表歴のあるウインガー、ドワイト・マクニールが2得点。ファンにインパクトを残しました。
さらに、ランパード監督はゲーム終盤に粋な計らいも。リヴァプール地方議会で働くポール・ストラットンさんをピッチに送り出しました。元警察官でもあるストラットンさんは今年3月、ポーランドに渡ってウクライナ人避難民の支援に尽力しました。彼が大のエヴァトニアンであることを把握していたクラブが指揮官と相談し、ゲーム終盤にピッチに送り出す演出をしたのでした。見事にPKを決めたストラットンさんは現役選手さながらに、ゴール裏に向かって走り膝滑りをして胸元のクラブエンブレムにキス、チームメイトと抱擁を交わしたのでした。
この試合でゲームキャプテンを務めたウクライナ人のヴィタリー・ミコレンコは、「家族はまだウクライナにいるが無事だ。父は軍人だがキーウにいて軍隊の仕事をしている。彼らのことを誇りに思っている。戦争が勃発してからクラブが僕にしてくれたサポートには本当に感謝している」と語りました。
その後、チームはチェルシーとの開幕戦で完封負け、苦しいスタートとなりました。さらにエースのドミニク・カルバート・ルーウィンが膝痛で離脱中に加え、開幕戦ではDFベン・ゴッドフレイが右足腓骨を痛め前半18分で交代。イングランド代表候補2人の離脱によって、チーム作りの遅れが不安視されています。開幕前のグディソン・パークの雰囲気を思い出し、チームとファンが一体となって戦うことを期待しています。
文/西岡 明彦
※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)272号、8月15日配信の記事より転載