なでしこジャパンに残った宿題 個々の“アドリブ任せ”の攻撃は東京五輪で通用するのか

岩渕真奈のPKによる得点を守りきったなでしこジャパンだが、課題の残る試合内容だった photo/Getty Images

攻撃面の役割分担がはっきりせず 

14日に行われた国際親善試合で、日本女子代表(なでしこジャパン)がオーストラリア女子代表と対戦。MF長谷川唯が53分に上げたクロスが、ペナルティエリア内にいた相手DFアランナ・ケネディのハンドの反則を誘い、なでしこジャパンがPKを獲得。FW岩渕真奈がキックを成功させ、同代表が1-0で勝利した。

先発した熊谷紗希と南萌華の両センターバックや、ボランチの三浦成美、及び途中出場のDF宝田沙織やMF杉田妃和らが自陣ペナルティエリアやその手前のスペースをまめに埋めたため、虎の子の1点を守り切ることに成功したなでしこジャパン。東京五輪前最後のテストマッチでの無失点勝利は収穫と言えるが、攻撃面では大きな課題を残した。

この日のなでしこジャパンの布陣は、中盤横一列の[4-4-2]。豪州代表の布陣は[3-4-2-1]で、2シャドーの選手が相手ボール時にサイドのスペースを埋める形をあまり採らなかったため、両サイドは豪州代表のウイングバック1名と、なでしこジャパンのサイドハーフとサイドバックの2名という構図に。なでしこジャパンとしてはこのサイドの数的優位を活かし、分厚い攻撃を仕掛けたいところだったが、どの選手がサイドのレーンに張り付き、ハーフスペース(ペナルティエリアの両脇を含む、左右の内側のレーン)を狙うのかの役割分担が、試合全体を通じてはっきりしなかった。
この傾向が顕著に表れたのが7分の場面で、ここでは2トップの一角の岩渕が、敵陣左サイドでドリブルを開始。この時に後方にいた左サイドハーフの長谷川がハーフスペースではなくタッチライン際を走ったため、岩渕としては独力突破しか選択肢がない状況に陥ってしまった。

この他にも、長谷川と塩越柚歩の両サイドハーフが大外のレーンやハーフスペースでボールを受けたにも関わらず、この2人を清水梨紗と宮川麻都の両サイドバックが追い越さない場面や、サイドでボールを受けた選手が、相手の守備ブロックの外側からアバウトなクロスを上げてしまう場面もしばしば。味方同士の距離感を近くし、パスワークで相手の守備ブロックを崩そうという姿勢は窺えたものの、誰がどのスペースに立ち、走るのかという具体的な約束事が整理されておらず。この日のなでしこジャパンからは、攻撃の成否が各々のアイデアやアドリブに委ねられている様子すら見受けられた。

対戦相手との間に圧倒的な戦力差や個々の技術力の差があれば、攻撃面における各々の役割を事細かく決めずに、ピッチ上の選手たちの即興性に委ねるという戦い方は成立するかもしれない。だが、この試合ではPKによる1点に留まっており、個々のスキルの差で豪州代表を圧倒していたとも言い難い。味方同士が距離感を近くしているのにも関わらず、複数の選手が連動するパスワークを繰り出せないなでしこジャパンの戦い方は、対戦相手にとって与しやすいものになっているのではないか。東京五輪でグループステージを突破し、決勝トーナメントで欧州勢や2019年の女子W杯を制したアメリカ代表に太刀打ちするためには、連動性に乏しい攻撃を改善する必要がある。攻撃面での各選手の役割を細分化するのか。それとも、このまま選手たちの即興性をベースとした攻撃で本大会に臨むのか。高倉麻子監督の舵取りに、なでしこジャパンの命運がかかっている。

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