[特集/20-21王者達をプレイバック 01]スアレス加入で堅実サッカーから脱皮成功! シメオネ哲学貫いた7季ぶりの優勝劇

シメオネがこだわり続けた“パルティード・ア・パルティード”

シメオネがこだわり続けた“パルティード・ア・パルティード”

“1試合1試合”を確実に勝つことで優勝が見える。シメオネの哲学に基づいたチームは比類なき強度を誇り、今季は攻撃的な3バックという新たな形もみせた photo/Getty Images

 2013-14シーズン以来の優勝。第12節で初めて首位に立ち、第14節以降は一度しか首位の座を明け渡さなかったアトレティコ・マドリード。ただ、レアル・マドリード、バルセロナの追い上げもあって最終的に2位レアルとは2ポイント差だった。

 決して楽々と首位を走り続けたわけではなく、しのび寄るライバルの足音を聞きながら「1試合1試合」を貫いての戴冠である。パルティード・ア・パルティード(1試合1試合)は前回優勝のときにスペインで流行語にもなったディエゴ・シメオネ監督の口癖で、信念でもある。勝っても負けても、たとえ優勝できなかったとしても、貫かれるアトレティコらしさである。

 実際、今季のラ・リーガでアトレティコほど確実に勝点を積み上げたチームはない。第13節のレアル・マドリード戦で敗れる(●2-0)までリーガでは唯一の無敗を継続。過去10シーズンに渡ってリーグでは一度の勝ち星も挙げられなかったバルセロナに対しても、第10節で1-0と勝利した。シメオネの目指すチームは、強度においてはシーズン序盤からすでに形になっていた。

 レアル、バルサの停滞がアシストになったのは間違いない。レアルはルカ・モドリッチ&トニ・クロース、バルサはリオネル・メッシ、それぞれの強さの核になっていた偉大なプレイヤーがピークを越え、それに代わるものを見つけられなかった。途中からは猛烈な追い上げを見せたもののアトレティコに逃げ切られている。言い方を変えると、アトレティコはライバルたちが仕上げきれなかった世代交代に成功していた。それだけでなく、プレイスタイルそのものを変化させていた。

 一度レアルに敗れても、そこからの11戦で再び負けなしを継続し(9勝2分)、戦い方を変えながらも歩みを止めなかった。それが優勝の要因の1つで、シメオネがこだわり続けたパルティード・ア・パルティードの体現だったといえる。

攻撃型への変化と“最終兵器”スアレスの存在

攻撃型への変化と“最終兵器”スアレスの存在

家族に報告していたのだろうか、優勝決定後にスマホを見つめながら涙を流したスアレス。バルサに見限られた彼の胸中を思うと胸が熱くなる photo/Getty Images

 13-14シーズンの前回優勝時とは戦術的に大きく変化している。

 もはやアトレティコは堅守速攻のチームではない。前回優勝のときは、アルゼンチン人のシメオネ監督が母国の伝統である守備の文化をアトレティコで蘇らせている。スペインとアルゼンチンは昔から関わり合いが深く、アトレティコはファン・カルロス・ロレンソ監督のときに初のチャンピオンズカップ決勝進出を果たしていた。ロレンソはアルゼンチン生まれのコスモポリタンであるエレニオ・エレーラの薫陶を受けていて、エレーラはイタリアのインテルでカテナチオの権威として知られた大監督である。シメオネのサッカー観はアトレティコのDNAに合致していた。

 シメオネの守備強化策はラ・リーガを戦ううえでも正解だった。レアル、バルサに次ぐビッグクラブとはいえ、彼らのコピーでは上回れない。攻撃のタレントを並べるのではなく、そのタレントを封殺できる守備力を鍛えた。

 しかし、それでタイトルをとるとアトレティコへの警戒感は高まり、とくに格下のクラブに手を焼くようになっていった。相手が堅守なのでアトレティコは違うプレイで勝つ必要に迫られた。シメオネ監督は看板の守備を維持しつつ攻撃力を高めるために試行錯誤を重ねてきたが、その解答を得たのが2020-21シーズンだったわけだ。

 今季は従来の[4-4-2]から3バックを基調に変えている。引いたときは5バックだが、それよりもボールを握って攻勢をとる戦い方になったのが大きな変化だ。

 GKは不動のヤン・オブラク。リーグ最少失点(25失点)の立役者だ。DFはステファン・サビッチ、ホセ・マリア・ヒメネス、マリオ・エルモソ、フェリペのうち3人が中心になる。いずれも屈強なDFだが、左のエルモソは攻撃時にはサイドの高い位置をとれるタイプだ。

 3バックより前方の構成は試合によって変化しているが、不変なのはワイドにウイングバックを張らせること。右はキーラン・トリッピアー、左はヤニック・カラスコ、レナン・ロディ。サウール・ニゲスがここでプレイすることもあった。ウイングバックがタッチラインを踏むぐらい開くことで幅をしっかりとる。

 中央はキャプテンのアンヘル・コレアがピボーテ(中盤の底)に入ることもあれば、ここを2人にすることも。インテリオールが2人、あるいはトップ下、2シャドーとオプションは多彩。5レーンにバランスよく配置してのパスワークは軽妙なテンポを作り出していた。もともとアトレティコは近距離のパスワークには秀でていたが、それが明確な武器になった。

 中盤の構成は多彩だが、どんな組み合わせになっても変わらなかったのはルイス・スアレスである。

 もしスアレスがいなければ、多彩なフォーメーションと攻撃型へのシフトも画竜点睛を欠く結果になっていただろう。スアレスは最前線に張ってゴールを狙い続けた。バルセロナ時代はメッシがいるためにスペースを空け、アシストに回ることも多かったが、ゴール前に専念するのが本来のスタイルである。アトレティコのスアレスは本領を発揮するとともに、チームの努力を得点という結果に結びつける大きな役割を果たした。今季はチームトップとなるリーグ戦21ゴールを挙げ、優勝が決定したバジャドリード戦後に感極まって涙する姿も話題となった。

“意外性を与える存在”がカギに CLでの躍進なるか

“意外性を与える存在”がカギに CLでの躍進なるか

得点に絡む力が大きく開花し、12ゴール11アシストを記録したジョレンテ。ウイング、サイドバックなど多彩なポジションをこなし、攻守にマルチな才能を発揮した。今季リーガ最速スプリント35.4km/hも記録 photo/Getty Images

 シメオネ監督が守備を疎かにしていないことは最少失点からもわかる。ただし、優勝の要因はリーグ2位タイの得点(レアルと並ぶ65得点)だろう。

 ポゼッションが高まったのでメインの守備もハイプレスになっている。ただ、ボールがプレスを回避して逆サイドまで運ばれてしまうと撤退するのがシメオネのアトレティコらしい。そのため以前のメインだったミドルプレスの苛烈さはなくなり、5バック化して深い位置での守備になっていた。この、高低の守備が強いが真ん中がないというのは新しいアトレティコの特徴で、うっすらではあるが今季の欧州サッカーに出てきた傾向でもある。少しだけ、サッカーはハンドボールやバスケットボールに近づきつつあるのかもしれない。

 マルコス・ジョレンテはさまざまなポジションに適応するマルチプレイヤーとしてチームを支えた。インテリオール、シャドー、ウイングバックで活躍。ニアゾーンへの走り込みでチャンスを切り拓く。スペイン代表でも右SBに定着した。

 高質のクロッサーであるトリッピアー、ドリブル突破で違いをみせたカラスコ。ウイングバックでは持ち前の機動力が宝の持ち腐れだったサウールもインサイドでは相変わらずの活躍ぶり。トマ・レマル、ロディ、ジョフレイ・コンドグビア、ルーカス・トレイラと層も厚い。

 来季の課題は、今季ベスト16に終わったCLでも結果を残すことだ。そのためのカギとなるのは、スアレスをサポートするアタッカーだろう。

 攻撃的になったアトレティコだが、攻め込みはわりとシンプルだ。ボールホルダーの顔が上がったらすかさず裏を狙う、中が揃ったらサイドからシンプルで正確なクロスなど、力強く迷いがないが、攻め手自体は相手からすれば予想しやすい。そこに意外性を加えるのがアンヘル・コレアとジョアン・フェリックスになる。

 特に期待の大きいフェリックスは来季が勝負になりそうだ。セカンドストライカーとして得点を量産するか、それとも守備力を上げてインテリオールとして攻撃の指揮官になるのか。リーグ連覇だけでなくCLでも勝ち上がるために、チーム全体で攻撃面でのよりいっそうのスケールアップが期待される。

文/西部 謙司

※電子マガジンtheWORLD258号、6月15日配信の記事より転載

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