万能の重戦車FWを中心に ベルギーの攻撃に死角なし
恵まれたフィジカルを武器に前線で起点となるルカク。ベルギーの攻撃に幅をもたらす存在だ photo/Getty Images
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グループBは、各国の戦力にやや差がある印象だ。ただ、うち2つが開催国。EURO初出場国もいるため、波乱の予感はある。
このグループで最も注目を集めるのは、FIFAランキングで堂々1位のベルギーだ。EURO2020予選では10戦10勝。40得点3失点と、完璧すぎる数字を残しており、優勝候補にも挙げられる。
ベースとなるシステムは[3-4-3]。その頂点を務めるのが、今季インテルを11年ぶりのセリエA優勝に導き大きく成長したロメル・ルカクだ。相手に与える圧力はすさまじいものがある。そのほかのポジションもタレント揃いで、戦力面で大きなアドバンテージがあるとみていい。
ルカクが前線で身体を張り、ドリース・メルテンスがその近くに絡んでくるというのがよくある形だが、両ウイングが全く動かないという選択肢もあるところが怖い。こうなると一般的にはCFにボールが入っても次につながらないものだが、ルカクは昨年10月のネーションズリーグ・アイスランド戦で相手CB2人とMFの計3人に対応されながらもゴールを奪っている。サイドを警戒したらこの有様。かといってウイングを自由に羽ばたかせるわけにはいかない。相手からすれば、どこを止めても水が漏れてしまうような状況となってしまう。ルカクがいるという圧力は、それほどのものだ。
心配があるとすれば、違いをつくる選手のコンディションだろうか。攻撃的MFのケビン・デ・ブライネはマンチェスター・シティで圧倒的な存在だが、年明けの負傷離脱後に本来のパフォーマンスを発揮しているとは言いがたい。崩しの中心となるエデン・アザールも依然としてレアル・マドリードでは苦戦中。どちらもベストな状態とは言えないのが現状だ。両選手ともチャンピオンズリーグでベスト4以上に勝ち残っており、大会への準備時間が少ないという面でも不安はある。
しかし、それでもグループステージ(GS)敗退という心配はほとんどないだろう。ベルギーは初戦でロシアと対戦。ロシアはEURO予選で同じ組だったチームで、もちろん2勝している。敵地サンクトペテルブルクでのゲームというのは厳しいが、それでも力の差は揺るがない。その後はデンマーク、フィンランドの順に対戦するスケジュールとなっている。
移動はやや厳しく、第2戦でコペンハーゲンへ移動し、第3戦でサンクトペテルブルクに戻ってくるという日程だ。優勝が目標となるベルギーとしては、第3節を休養に充てられるようなスタートダッシュが切れるかが重要なポイントとなるだろう。
注目すべきは“中盤の底” 地の利を生かしたいデンマーク
デンマークの攻撃を司るエリクセン。視野の広さを生かしたパス能力や強烈なミドルシュートには定評がある photo/Getty Images
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そんなベルギーの対抗馬となる可能性が高いのがデンマークだ。FIFAランキングは10位。
予選はグループDを2位通過。とはいえ、首位のスイスとは勝ち点1差で、8試合戦って4勝4分けの無敗という戦績だった。
基本システムは[4-2-3-1]。その中心はMFクリスティアン・エリクセンだが、重要なのはその一列下と言えるだろう。このポジションを任される選手は、守備のフィルターとなってエリクセンにボールを預けるだけでなく、時には前線のスペースを使う斜めの長いパスを出すタスクも託されている。ここにはちょうどトッテナムで同じシステムのもと、同じ役割を担当しているピエール・エミール・ホイビュルクがおり、EURO本大会でハマれば面白そうだ。
デンマークは日程的にも悪くない。開催国の一つであるため、GSの3試合は全てホームでの開催。コペンハーゲンから移動する必要がないのだ。さらに、初戦は格下とみて間違いないであろうフィンランドが相手。良い条件は整っている。
もちろんフィンランドとの初戦が重要だが、ここで勝ち点3を取る前提で考えると、次のベルギー戦が一つの山場。第2戦で勝ち点を得られない場合は、最終戦のロシア戦で結果を出さなければいけなくなる。そのため、地の利を生かして早めに突破を決めてしまいたいところだ。
大型FW中心の攻めに迫力アリ 堅実なロシアに見える希望
最前線で戦うジューバを一列下からサポートするゴロビンも、ロシアのキープレイヤーだ photo/Getty Images
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デンマークに続くのは、FIFAランキング38位のロシア。このグループにおけるダークホースと言える。
予選では、ベルギーと同じグループIで2位だった。全勝だったベルギーには敗戦したものの、勝ち点を落としたのはこの2試合のみ。勝てる相手にはしっかりと勝ち、取りこぼすことなく確実に8勝している。
攻撃のスタイルはハッキリとしており、主将である最前線のアルテム・ジューバがターゲットマン。彼の196cmの長身を使った攻めが中心で、そこを起点にフィニッシュまでつなげたいところだ。
GSはベルギー、フィンランド、デンマークの順で対戦する。初戦のベルギー戦で勝ち点を得るのが理想だが、ここはある程度仕方ないという意識もあるだろう。第2戦でフィンランドに勝って、最終戦でデンマークから勝ち点をもぎ取り決勝トーナメント進出というのが現実的なプランか。
ただ、デンマークも同じ画をイメージしていることは明らか。第3節のロシア対デンマークは開催国同士の対決で、コペンハーゲンで行われる。大一番となりそうなゲームをアウェイで戦うことになるのは、ロシアにとって少し嫌な展開と言えるだろう。苦戦は避けられそうにない。だが、それを打破するポテンシャルを秘めているのも確かだ。
フィンランドに“アウェイ”の洗礼 グループ最強国の状態がカギを握る
本大会がEURO初出場となるフィンランド。エースのプッキ(中央)を中心として格上相手にどこまで戦えるか photo/Getty Images
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FIFAランキング54位のフィンランドにとっては、すべての試合が格上への挑戦になる。それもそのはず、北欧の小国にとってはEURO本大会自体が初めての経験だ。
予選ではイタリアが首位だったグループJを2位で通過した。ギリシャ、ボスニア・ヘルツェゴビナらを抑えての2位は立派な成績だ。 中心選手は主将でエースのFWテーム・プッキ。ノリッジ・シティでプレイする31歳は、プレミアリーグ月間MVP受賞経験もある。そのプッキを最前線に置いた[5-3-2]という並びが最近のフィンランドのフォーメーションだ。
日程的にも、かなり厳しい。初戦は開催国の一つであるデンマークとの“アウェイゲーム”。その後、サンクトペテルブルクに移動してロシアとの“アウェイゲーム”。そして、最終戦は優勝候補の一角であるベルギーに挑戦することとなる。
フィンランドにとって理想的な展開は、ベルギーに早々と決勝トーナメント進出を決めてもらい、消化試合として第3節に臨んでもらうことだろうか。勝ち点3でもGS突破の可能性があるレギュレーションなだけに、初出場国だろうとチャンスは秘められているはずだ。
文/伊藤 敬佑
※電子マガジンtheWORLD257号、5月15日配信の記事より転載