[MIXゾーン]“withコロナ”の試合の裏側 大阪ダービーで感じた違和感と現実

吹田パナソニックスタジアム。マッチデーだが人影はまばら photo/Norifumi Yoshimura

J1も再開したが、日常を取り戻したわけではない

リモートマッチ(無観客試合)、J1のクラブにとっては基本的に初めての経験となる。まして絶対に感染者を出してはいけないという前提がある。それ故かスタジアムにはピリピリした雰囲気が流れていた。

 筆者が取材に赴いたのは、大阪ダービーがおこなわれたパナソニックスタジアム。まず遠めに見て明らかに違ったのは、まったくサポーターの姿がなかったこと。キックオフ30分前にスタジアムに着いたが、最寄駅からのバスはガラガラ。サポーターは勿論、スタジアムグルメのキッチンカーも一台もない。当たり前といえば当たり前だが、無観客であることを実感する。

 更にメディアの受付ではすぐに体温測定。筆者は36.2度で問題なくパス。ここで使い捨ての青いリストバンドのようなものを受け取り、手首にまくように案内を受ける。検温を受けたことを証明するということだろう。実は取材者がここにくるにも、水曜日までにJリーグサイドに問診票をオンラインで提出することになっている。海外渡航歴のチェック項目もあり、過去2週間にわたって体調不良がないことが絶対条件である。受付で再度今日までの体温、体調を記入した問診票を紙で提出し、ようやくスタジアムへの入場が許される。

 更にここからも普段と大きな違いがある。普段記者が仕事をするプレスルームは閉鎖されており、スタンドへ直行しなくてはならない。すべての記者には席が割り振られていて、その席から別の席に移動することは許されない。お隣の記者との席の間隔はソーシャルディスタンスの2mどころか、5メートル以上。無観客ゆえに、席はいくらでも空いているので、それを最大限に使っているようだ。

 スタンドからピッチを眺めると、アップをしている両チームの様子が見える。普段であれば大阪ダービーを盛り上げるサポーターの熱のこもったチャントが聞こえてくるはずだが、静けさの中で淡々と選手は汗をかき、心拍数を上げていく。

 一旦ロッカールームに消えた選手たちがキックオフ直前にピッチに登場。いつものように音楽が流れ、両チームの選手が列を作って入場かと思ったのだが、この試合では音楽もなくそれぞれにピッチに入り、キックオフ前の集合写真におさまった。それもC大阪はVの字に11人が並んで。選手同士が肩を組んでという訳にはいかないだけに、それぞれが趣向を凝らしているようだ。Jリーグ側からの特別な縛りもないのだろう。対するG大阪はこの試合に先発し、J1最多の通算632試合出場となったMF遠藤の記念Tシャツを選手全員が着て入場。晴れの舞台にも関わらず、そこにサポーターがいないのがなんとも寂しい。なおG大阪の集合写真は前列5人、後列6人がそれぞれ前後左右に1mほどの距離を取っていた。最後に大阪府の吉村知事のヴァーチャルキックオフ。時の人の登場である。

「両チームのプレイで元気と勇気を与えてもらいたい。コロナを吹っ飛ばし、活気のある大阪、日本にしてもらいたい」(吉村知事)

 最後に選手、レフェリーが医療従事者への感謝を伝える拍手を送り、すべてのセレモニーが終わった。

 そしてキックオフ。スタジアム内にはスピーカーから観客のざわめきのような音がずっと流れていた。シーンと静まり返っている訳ではないが、サッカースタジアムの賑わいとも何となく違う。正直違和感が……。

 結果に関しては皆さんもご存知だと思うが、62分の丸橋のゴールが決勝点となりセレッソ大阪が2-1で勝利している。ひとつだけ挙げるとすれば、前半32分のプレイ。C大阪の清武がペナルティエリア内で倒されたように見えたが、レフェリーの判定はノーファウル。もしこれが通常通りに試合がおこなわれていれば、VARが入ったのではないだろうか……。

 一気に飛んでここでは試合終わりの記者会見について。普段の会見は両チームの監督が壇上に上がり、記者からの質問に答えるという形でおこなわれる。そして選手に関してはロッカールームを出てチームバスに乗るまでの導線が作られており、そこで記者が待ち受ける形になる。当然試合で活躍した選手の周りには人が溢れ返り、まさに『密』な状態で人がひしめき合っている。しかしこのコロナ禍でそんな状態はご法度。囲み取材もリモートでおこなわれる。ZOOMを使い、それぞれがログイン。会見にはアウェイ監督、ホーム監督、そしてそれぞれのクラブから選ばれた選手ふたりずつの計6人が登場することになる。ひとりあたり大体5分くらい。ここに登場する監督、選手以外の取材は完全にNGとなる。ゴールは決めなくても、いぶし銀の働きを見せた選手に話を聞きたくても、どうやっても無理。筆者はそういう選手の存在こそが、サッカーの醍醐味と思っているので、なかなか辛いところがある。

 何から何まで初めて尽くし、なおかつ一体この状況がいつになったら解消されるのか誰にも分からない。少なくとも今シーズンは絶対に覚悟しなくてはならないし、それは来年も同じかもしれない。ワクチンと特効薬が開発されない限り、年単位の我慢が必要になるのだろう。

 東京都だけでなく、関西圏でも感染確認者の数が増える傾向を見せており、いずれ第2波の到来は間違いない。次節からは一部観客を入れての試合が始まることになってはいるが、今後感染が拡大していけば、それを先延ばしにせざるを得ないかもしれない。J1が再開したこと、イコールそれが日常を取り戻す第一歩とはならない場合もあることを覚悟しなくてはならない。withコロナはまだまだ始まってばかり、いや始まってすらいないのかもしれない。そんな思いを強くするリモートマッチだった。

取材・文/吉村憲文



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