ファイナルでの逆転劇を3つ紹介したが、近年ではホーム&アウェイのノックアウトステージでも大逆転が起きている。
2016-17シーズンのラウンド16では、バルセロナがパリSGを失意のどん底に叩き落とした。敵地での第1戦を0-4で完敗し、敗退ほぼ確実と思われたが、第2戦で信じられない巻き返しを見せ、6-1。2試合合計6-5という壮絶な撃ち合いを制したのだ。
この大逆転劇には、ふたつのポイントがある。
ひとつは、4点差の逆転はCL史上初だったということ。CLのノックアウトステージでは、第1戦で4点差以上がついた試合が過去に20度ある。だが第2戦で逆転したのは、このときのバルサが初めてなのだ。
もうひとつは、第2戦で痛いアウェイゴールを失ったということ。
バルサは50分までに3点を奪い逆転ムードが高まったが、62分に失点。これで勢いを大きくくじかれた。というのも、さらに3点が必要になったからだ。
時間は無情にも過ぎていき、間もなくタイムアップ……という土壇場で2ゴール、そして90+5分、歴史に残るセルジ・ロベルトの6点目が決まる。
最後の7分間で3ゴール。マンガのような出来事が起こったのだ。
このときスタジアム半径1キロ圏内の地震計は、微震を計測したという。ゴールが決まってスタジアムが揺れることはままあるが、周辺の大地が揺れたというエピソードはほとんど聞かない。セルジ・ロベルトの一撃は、文字通り大地を震撼させたのだ。
今日の勝者は明日の敗者。
史上最大の逆転劇を演じたバルサは、翌シーズンの準々決勝、今度はローマに足もとをすくわれる。
カンプ・ノウでの第1戦で、ローマは1-4と完敗。だが、80分のジェコのゴールが大きな意味を持つことになった。
本拠地オリンピコでの第2戦。大胆にシステムを変更し、巻き返しに出たローマは、バルサを粉砕。3-0でビハインドを跳ね返した。
第1戦の結果を受け、敗退をなかば覚悟していたロマニスタたちは、大金星に狂喜した。翌日、ローマ市内には「3-0」という行き先表示を掲げたバスが数多く走ることになった。このあたりの喜びようは、さすがは情熱のイタリア人。
興味深かったのは、この勝利に対するイタリア中の反応だ。
この国はヨーロッパの他国に比べて都市間の対抗意識が強く、ユヴェントスやミラノ勢、ローマ勢といった強豪が国際試合を行なうと、敵の敵は味方とばかり対戦相手を応援する人々が少なくない。
だが、このときは違った。本来、ローマを敵視するミラノやトリノの人々も、ローマに声援を送ったのだ。
理由はふたつある。
ひとつはローマが、バルサを相手に胸を打つような奮戦を見せたこと。彼らの素晴らしい戦いぶりが、イタリア中の人々を巻き込んでいった。
もうひとつ、忘れてはいけない理由がある。
この年はワールドカップイヤー。だが、イタリア代表はあろうことか出場権を逃していた。長年、当たり前のように参加してきたパーティに加われない失意はあまりに深く、チャンピオンズリーグでイタリア勢を後押しする機運が国中に高まっていた。
バルサを蹴落とし、イタリア希望の星となったローマは続くリヴァプールとの準決勝で敗退する。だが、アウェイでの第1戦では0-5から2点を返し、本拠地オリンピコでの第2戦では4-2と、あと一歩のところまで迫った。
ファイナルへの夢は絶たれたが、カルチョの意地を見せたローマは国中の喝采を浴びたのだった。
文/熊崎 敬
※電子マガジンtheWORLD244号、4月15日配信の記事より転載
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