[特集/CLクライマックス1999-2019 01]大逆転こそCLの醍醐味

最後の最後まで勝負はわからない プレミア勢が成し遂げた大仕事

最後の最後まで勝負はわからない プレミア勢が成し遂げた大仕事

PKをセーブされた後、同点弾を押し込んだシャビ・アロンソ photo/Getty Images

 1996-97に現行のUEFAチャンピオンズリーグ(以下CL)に名称変更されたヨーロッパ・チャンピオンズリーグは、世界最高峰のフットボールがくり広げられる珠玉の舞台。

 その魅力はクオリティだけではない。

 一発勝負のファイナルと、そこに至るアウェイゴール方式でのホーム&アウェイの戦いでは、信じられない逆転劇がしばしば起きる。このドラマ性もまた、世界中の人々を惹きつけてやまない。

 過去23シーズンを振り返って、歴史的大逆転を5カード厳選。改めて味わっていきたい。

 これから挙げる5つの試合。勝ったチームのファンは思い出すたびに、ビールやワインが際限なく進むはずだ。その中でも極めつけが1998-99シーズンのファイナル、マンチェスター・ユナイテッドとバイエルン・ミュンヘンの一戦だ。

 0-1で迎えたアディショナルタイム、ユナイテッドはベッカムのふたつのCKから立て続けにゴールを奪い、崖っぷちから強引にトロフィーを奪い取った。

 この試合を見たほとんどの人は終盤、優勝はバイエルンのものだと確信しただろう。1点差だが彼らの戦いぶりは盤石で、81分には38歳の鉄人マテウスを下げ、優勝へのカウントダウンに入る。

 トロフィーにバイエルンカラーのリボンが巻かれるのを横目で見たベッカムは「気分が悪くなり、吐きそうになった」とのちに明かした。

 だが、最後の最後に勝負がひっくり返ったのだから、世界中が仰天した。タイムアップとともにバイエルンの選手たちは崩れ落ち、ガーナ代表クフォーは号泣しながら、こぶしをカンプ・ノウのピッチに叩きつける。これほど悔しがる敗者は過去にいたか。勝負の恐ろしさを雄弁に物語る、名シーンとなった。

 この勝利によって、ユナイテッドはプレミアリーグ、FAカップと併せてトレブル(3冠)達成。イングランド勢、初の偉業となった。

 時は流れて2019年、「カンプ・ノウの奇跡」が起きた5月26日、ユナイテッドは本拠地オールド・トラッフォードで「トレブル20周年記念試合」を行なった。

 相手はもちろんバイエルン。20年前のメンバーのほとんどが顔をそろえた再戦は、5-0でユナイテッドが圧勝。6万人を超えるファンを喜ばせた。

 ユナイテッドの永遠のライバル、リヴァプールもまた2004-05シーズンのファイナルで世紀の逆転劇をやってのけた。

 イスタンブールでの決戦は、ミランが前半に3ゴールを決め、圧勝ムード。だが後半、大胆に布陣を変更したリヴァプールが猛反撃に出る。一気に流れを変えて、60分に3-3に追いついてしまった。PK戦でリヴァプールが実に21年ぶりの優勝を飾った。

 PK戦勝利の立役者となったのは、ミランのキッカー3人を失敗させたGKデュデク。両手を大きく広げ、左右にせわしなくステップを踏む“怪しい動き”で、対峙するキッカーを動揺させた。

 “デュデク・ダンス”とも呼ばれたこの動きは、実はクラブのレジェンドゆずり。PK戦直前、CBキャラガーはデュデクに「グロベラーを思い出せ」と耳打ち。グロベラーというのは1983-84シーズンのファイナル、怪しい動きでPK戦勝利をたぐり寄せた名GK。選手は代替わりしても、勝利の経験が受け継がれるのだ。

 ちなみに赤と赤が激突した大一番、スタンドの多くを占めたのはリヴァプール・ファンだった。勝ち慣れたミラニスタと違い、タイトルを渇望する彼らは、チケットのないファンまで勢い余ってイスタンブールに駆けつけていた。

 だがあまりの情熱の強さゆえ、多くのファンが前半の3失点に絶望。前半が終わって席を立ち、スタジアムをあとにしたファンは少なくなかった。つまり、奇跡の勝利を飲み屋のテレビで見守る羽目になったファン、それどころか歓喜の瞬間に酔いつぶれていたファンがいたのだ。「イスタンブールの奇跡」は、こうした人々にとって悲劇でもあり、喜劇ともいえるかもしれない。

 この一戦で、世界中のファンがフットボールの真理を再認識することになった。「勝負はゲタを履くまでわからない」と。

ドラマチックな一戦 マドリードは白一色に

ドラマチックな一戦 マドリードは白一色に

マドリード・ダービーのファイナルはまさに意地と意地のぶつかり合いだった photo/Getty Images

 2013-14シーズンには、CLファイナル史上初めて同都市のクラブが激突。前人未到10度目の優勝を狙うレアル・マドリード、悲願の初優勝をめざすアトレティコ・マドリードという、マドリード勢が激戦をくり広げた。

 優位と見られたレアルだが、36分に失点。反撃を試みるがアトレティコの固い守りに手を焼き、時間が過ぎていく。だが終盤の猛攻が残り2分に身を結ぶ。

 終了間際のセルヒオ・ラモスの一撃で甦ったレアルは、延長戦で一気に畳みかけ、しぶといライバルを4-1で押し切った。

 マドリード市内はデシマ(10度目の優勝)を達成したレアルの白一色となり、アトレティコのファンは悔し涙に暮れることになった。

 CLファイナルは、長く険しいシーズンの最後に用意された一大決戦。それまでのシーズンの流れが勝負を左右するケースも少なくない。このマドリード・ダービーもそうだった。

 レアルもアトレティコも、ファイナルは実にシーズン59試合目。疲労が大きくのしかかり、選手層が大きく問われた。その意味で、アトレティコは厳しい状態だった。ファイナル1週間前のリーガ最終節で、バルセロナとタイトルを賭けた大一番を戦っていたのだ。

 この試合を引き分けたことで、アトレティコは実に18シーズンぶりのリーガ制覇を成し遂げた。

 待ち焦がれたタイトル。だが、失ったものも大きかった。シーズン36ゴールを決めたエース、ジエゴ・コスタとトルコ代表の名手アルダが負傷したからだ。

 迎えたレアルとのファイナルに、アルダは欠場。ジエゴ・コスタはスタメンに名を連ねたが、わずか9分でケガのため交代。二兎を追う難しさを痛感することになった。

 一方のレアルは、ベイル、ベンゼマ、クリスティアーノ・ロナウドの“BBC”がそろい踏み。ベンチスタートのマルセロが3点目を決めるなど、層の厚さを見せつけた。

 指揮官アンチェロッティは2003、07年のミランに続く、3度目のCL制覇。異なるふたつのクラブでCLを制した、史上5人目の監督となった。

不可能を可能にしたバルサ 国中を熱狂させたローマ

不可能を可能にしたバルサ 国中を熱狂させたローマ
 ファイナルでの逆転劇を3つ紹介したが、近年ではホーム&アウェイのノックアウトステージでも大逆転が起きている。

 2016-17シーズンのラウンド16では、バルセロナがパリSGを失意のどん底に叩き落とした。敵地での第1戦を0-4で完敗し、敗退ほぼ確実と思われたが、第2戦で信じられない巻き返しを見せ、6-1。2試合合計6-5という壮絶な撃ち合いを制したのだ。

 この大逆転劇には、ふたつのポイントがある。

 ひとつは、4点差の逆転はCL史上初だったということ。CLのノックアウトステージでは、第1戦で4点差以上がついた試合が過去に20度ある。だが第2戦で逆転したのは、このときのバルサが初めてなのだ。

 もうひとつは、第2戦で痛いアウェイゴールを失ったということ。

 バルサは50分までに3点を奪い逆転ムードが高まったが、62分に失点。これで勢いを大きくくじかれた。というのも、さらに3点が必要になったからだ。

 時間は無情にも過ぎていき、間もなくタイムアップ……という土壇場で2ゴール、そして90+5分、歴史に残るセルジ・ロベルトの6点目が決まる。

 最後の7分間で3ゴール。マンガのような出来事が起こったのだ。

 このときスタジアム半径1キロ圏内の地震計は、微震を計測したという。ゴールが決まってスタジアムが揺れることはままあるが、周辺の大地が揺れたというエピソードはほとんど聞かない。セルジ・ロベルトの一撃は、文字通り大地を震撼させたのだ。

 今日の勝者は明日の敗者。

 史上最大の逆転劇を演じたバルサは、翌シーズンの準々決勝、今度はローマに足もとをすくわれる。

 カンプ・ノウでの第1戦で、ローマは1-4と完敗。だが、80分のジェコのゴールが大きな意味を持つことになった。

 本拠地オリンピコでの第2戦。大胆にシステムを変更し、巻き返しに出たローマは、バルサを粉砕。3-0でビハインドを跳ね返した。

 第1戦の結果を受け、敗退をなかば覚悟していたロマニスタたちは、大金星に狂喜した。翌日、ローマ市内には「3-0」という行き先表示を掲げたバスが数多く走ることになった。このあたりの喜びようは、さすがは情熱のイタリア人。

 興味深かったのは、この勝利に対するイタリア中の反応だ。

 この国はヨーロッパの他国に比べて都市間の対抗意識が強く、ユヴェントスやミラノ勢、ローマ勢といった強豪が国際試合を行なうと、敵の敵は味方とばかり対戦相手を応援する人々が少なくない。

 だが、このときは違った。本来、ローマを敵視するミラノやトリノの人々も、ローマに声援を送ったのだ。

 理由はふたつある。

 ひとつはローマが、バルサを相手に胸を打つような奮戦を見せたこと。彼らの素晴らしい戦いぶりが、イタリア中の人々を巻き込んでいった。

 もうひとつ、忘れてはいけない理由がある。

 この年はワールドカップイヤー。だが、イタリア代表はあろうことか出場権を逃していた。長年、当たり前のように参加してきたパーティに加われない失意はあまりに深く、チャンピオンズリーグでイタリア勢を後押しする機運が国中に高まっていた。

 バルサを蹴落とし、イタリア希望の星となったローマは続くリヴァプールとの準決勝で敗退する。だが、アウェイでの第1戦では0-5から2点を返し、本拠地オリンピコでの第2戦では4-2と、あと一歩のところまで迫った。

 ファイナルへの夢は絶たれたが、カルチョの意地を見せたローマは国中の喝采を浴びたのだった。

文/熊崎 敬

※電子マガジンtheWORLD244号、4月15日配信の記事より転載

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