[特集/V字回復への処方箋 01]“劇薬”モウリーニョがトッテナムに新風を吹き込む

結果を出せる監督だが独裁者との評価もある

結果を出せる監督だが独裁者との評価もある

結果を出す男──。モウリーニョがトッテナムの指揮官となって現場に戻ってきた photo/Getty Images

 11月から12月にかけて、各国リーグでは監督解任の嵐が吹き荒れた。バイエルン、アーセナル、ナポリなど不振に苦しんだビッグクラブたちは、なんとか現状を立て直そうと指揮官の交代に踏み切っているが、その中でも最も強力な“劇薬”を処方されたと思われるのがプレミアリーグのトッテナムだ。

 前任者のマウリシオ・ポチェッティーノを解任したとき、トッテナムは3勝5分け4敗と低迷していた。CLではバイルエンに2-7で大敗するなど、衝撃的な敗戦もあった。成績をみれば監督解任もやむなしだったが、今シーズンのトッテナムはケガ人が出ていたし、昨シーズンのCLで決勝まで進出した達成感、疲労感がチーム全体を覆っていた。

 無論、これを払拭できなかったのは監督の責任だが、この1年、2年でポチェッティーノのもと披露してきたサッカーを考えれば、調子を取り戻すまでもう少しガマンしても良かったかもしれない。監督交代には大きなリスクがともなうのだから──。
 しかも、新たに招聘したのが自ら“スペシャル・ワン”と称するジョゼ・モウリーニョともなれば、賛否両論があるのが当然だ。選手を見極める能力があり、力強い言葉を持っていて力を引き出すのがうまいのは間違いない。モチベーターであり、ときに自らが盾となり、選手を守ってみせる。その姿勢はまさに“指揮官”であり、意思の疎通が取れている選手からの信頼は厚い。

 一方で、選手やスタッフにチームへのロイヤルティ(忠誠心、誠実性)を求めるあまり、厳しく接することもある。ゆえに、過去レアル・マドリードの指揮官を務めたときは地元メディアから「独裁者」と評されたこともある。さらには、この“劇薬”は短期間で結果を出す即効性があるが、だいたい3年が経過すると効果が薄れ、長期的な効能は見込めない。この“3年目のジンクス”についてはモウリーニョ自身が自覚しており、「同じミスを犯すつもりはない」と今回の監督就任会見で語っている。

10代の選手が揃って出場 早くも新風が吹き込む

10代の選手が揃って出場 早くも新風が吹き込む

ケガで離脱していたセセニョンも復帰 photo/Getty Images

 シーズン途中とあって、モウリーニョはトッテナムを大きくはいじっていない。そもそも、他のビッグクラブと比べると質の高い選手がズラッと揃っているわけではなく、変革するにも選択肢が少ない。したがって、システムは[4-2-3-1]がそのまま踏襲され、試合展開によってブロックを作る位置が柔軟に変わり、ボールを奪うと素早くゴールを目指すという基本的なスタイルもまずは受け継がれている。

 とはいえ、変わった部分もある。中盤ではエリック・ダイアーがボランチに起用される回数が多くなり、彼を軸にハリー・ウィンクス、タンギー・エンドンベレ、ムサ・シソコらがパートナーとして起用されている。ダイアーのボール奪取能力、守備から攻撃の切り換えがモウリーニョの好みで、出場機会を得たダイアーはしっかりと自分の力を発揮している。

 そして、監督交代の効果なのか、第13節ウェストハム戦、CLのオリンピアコス戦、第14節ボーンマス戦に連勝し、モウリーニョのもと絶好の再スタートを切った。しかし、選手の顔ぶれが大きく変わったわけではなく、短期間で劇的に好転することは望めない。その後は第15節マンチェスター・ユナイテッド戦に1-2で競り負け、第16節バーンリーには5-0で大勝したものの、CLのバイエルン戦に1-3で敗れている。

 ただ、こうしたなかバーンリー戦ではオリバー・スキップ、ライアン・セセニョン、トロイ・パロットといういずれも10代の3名が途中出場でピッチに立っている。大量リードゆえの采配だったが、チームにとって良い刺激になったと考えられる。モウリーニョの就任からまだ1か月も経っておらず今後にどんな効果が出るのか未知数だが、新しい風が吹きはじめているのは間違いない。

文/飯塚 健司

※theWORLD(ザ・ワールド)240号、2019年12月15日発売の記事より転載

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