バイエルンの今季序盤のゲームを見ていると、コバチ監督がサイド攻撃に関し、新しい約束事をチームに植え付けようとしているように私には感じられます。左利きのロッベンを右サイド、右利きのリベリを左サイドに置き、彼らのカットインから活路を見出すというスタイルをバイエルンは長い間貫いてきましたし、キングスレイ・コマンとセルジュ・ニャブリもどちらかと言えばカットインからのシュートを得意としているイメージが私のなかであったのですが、今季はウインガーが縦へのドリブルを選ぶケースが多い印象があります。
私の推測ですが、コバチ監督がウインガーの選手に対し、極力縦へのドリブルを選ぶよう指示しているのではないでしょうか。ウインガーによるカットインは上手くいけばそのままシュートに繋がりやすい反面、相手選手に突破を止められるとサイドががら空きとなり、そのスペースを使われてカウンターを浴びるリスクが高まるという難点があります。ウインガーに縦へのドリブルを徹底させ、彼らが敵陣ゴールライン付近やサイドの深い位置に侵入できさえすれば、最悪でもDFにクロスを当ててコーナーキックというプレイを選択できますし、仮にボールを失っても敵陣の深い位置であればそこからカウンターを打たれる可能性は低いというのが、コバチ監督の考えなのでしょう。
また、ウインガーの縦方向のドリブルが成功すると自ずと相手の最終ラインが下がりますので、ラインが下がったことによって生まれるバイタルエリアのスペースにマイナス方向のパスを送り、そこにコウチーニョやミュラー、もしくはロベルト・レヴァンドフスキあたりが飛び込めれば、決定機になり得ます。今のところコバチ監督が新加入のペリシッチにも縦へのドリブルを徹底させているように見えますし、右利きのコマンを右サイドで固定し始めたこと一つをとっても、指揮官の意図が透けて見えます。“ロベリ”がいなくなったことを受け、新たな攻撃の形作りに取り組み始めたコバチ監督ですが、この攻撃の練度をどこまで高められるかに注目したいところです。様々な布陣を試しながら直近の公式戦7試合で負けなし(5勝2分け)と、まずまずの序盤戦を送っている彼が、今後どのように豊富な手駒を活かし、バイエルンを更なる高みへと導くのか。私自身この点を楽しみにしながら世代交代が進みつつあるドイツ王者の動向を見守りたいと思います。
ではでは、また次回お会いしましょう!
水沼貴史(みずぬまたかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。
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