[指揮官リポート 4]ボルシアMGを救ったシューベルト 鍵を握った「原点回帰」と「継続性」

不運だった前任者のファブレ 新監督は過去を思い出させた

今季のボルシア・メンヘングラードバッハ(以下ボルシアMG)はシーズン前から不安を抱えていた。昨季の主力であるクリストフ・クラマーがレンタルバックでレバークーゼンへ復帰し、マックス・クルーゼもヴォルフスブルクへ移籍してしまった。クラマーはドイツ代表としてブラジルW杯の優勝に貢献したボランチであり、クルーゼは1トップを務め、11得点9アシストの記録を残したFWである。

わずか2人、されど2人という両名で、10-11シーズン途中から指揮を執っていた前監督のルシアン・ファブレにとって今季は辛いシーズンとなった。主力2人を失ったチームは攻守のバランスが崩れ、開幕戦から黒星を重ねた。第5節ケルン戦に敗れて5連敗となった時点で、「退くのがベストな選択」との言葉を残してファブレはチームを去った。

組織的なブロックで相手の攻撃を跳ね返し、鋭いカウンターを仕掛けてゴールを目指す。ファブレが率いるボルシアMGは堅守速攻に磨きをかけることで徐々に順位を上げ、昨季はついに3位となってCL出場権を獲得していた。
ところが、である。攻守のつなぎ役だったクラマーと得点源のクルーゼが抜けたことで一時的にチームのバランスが崩れてしまった。クラブは両名の穴を埋めるべくラース・シュティンドルとヨジップ・ドルミッチを獲得したが、新たな選手を加えたチームはうまく機能しなかった。不運は重なるもので、新たにチームを再構築中だった開幕戦でドルトムントと対戦したのも悪かった。守備組織をズタズタに崩され、0-4の大敗を喫した。これでリズムを失い、怒濤の5連敗でファブレはチームを去ることとなった。

とはいえ、ボルシアMGは解決が不可能な問題を抱えていたわけではない。かつて華麗に自転車を乗りこなしていた子どもが、一時的に乗り方を忘れてしまっていたに過ぎない。新たに暫定監督となったアンドレ・シューベルトは、就任から2試合は4-4-1-1のシステムをそのまま受け継いで戦った。3試合目から4-4-2にマイナーチェンジしたが、試合に出ているメンバーは大きく変わっていない。シューベルトは前任者の作り上げたスタイルに敬意を払い、継続性のある強化を行なっている。

「われわれには質の高い選手が揃っている。いま取り組んでいるのは、サッカーをする楽しみを取り戻してもらうことにある」

実際、メディアに対してこう語っている。しかし、監督交代による効果は絶大だった。第6節アウクスブルク戦に4-2で勝利すると、選手たちは過去を思い出し、勢い良くペダルをこぎはじめた。あれよあれよの6連勝である。7連勝を狙った第12節インゴルシュタット戦に引き分けたが、チームはシューベルトの手腕を高く評価。正式な監督として17年夏までの契約を結んでいる。

現状は原点回帰の段階 今後に真価を問われる

シューベルトは7 1年生まれの44歳。現役時代のポジションはM Fだが、あえて紹介するような目立った成績は残していない。プレイしていたのはおもにヘッセンリーガ(5部)で、3 0歳になると引退し、指導者の道へ進んでいる。最初に指揮を執ったのは06-07シーズンで、パーダーボルンのリザーブチームだった。ここで結果を残し、09-10シーズンからはパーダーボルンのトップチームを率いている。

とはいえ、当時のパーダーボルンはブンデスリーガ2部で下位から中位に甘んじているマイナーなチームだった。11-12シーズンは同じ2部のザンクト・パウリの監督を務め、昇格こそ逃したものの4位になっている。すると、DFB(ドイツサッカー連盟)がシューベルトに目をつけ、14年にU-15ドイツ代表の監督に就任。ここで1年間指揮官を務め、15-16シーズンを迎えてボルシアMGのリザーブチームを率いていた。

前述のとおり、シューベルトは大きな変革をもたらしたわけではない。選手たちのメンタル面に的確にアプローチしてもう一度モチベーションを高め、自信を取り戻させたのだ。下手にチームをいじらないという“采配”で連勝をもたらしたといえる。

変化があった中盤

とはいえ、本当になにもしなかったわけではない。前任者と違う点として、今季から加入したシュティンドルの起用方法が挙げられる。ファブレは単純にクラマーの後釜として考え、第1節、第2節をシュティンドル&グラニト・ジャカのダブルボランチで戦った。しかし、結果につながらず、第3節はトップ下で起用し、第4節では右サイドハーフで先発させている。

一方で、シューベルトはボランチをマフムード・ダフード&ジャカで固定し、シュティンドルは4-4-1-1のトップ下、あるいは4-4-2のトップで起用している。前線でラファエルとコンビを組むカタチだが、これが奏功してシューベルトが監督になってからの7試合でラファエルが5得点している。この事実を考えると、前線をラファエル&シュティンドルの2トップにしたのはシューベルトのお手柄だったといえる。

C Lでは残念ながらすでに敗退が決定したが、ブンデスリーガでは6位まで順位を上げている。(※12節終了時点)一時は5連敗で最下位に沈んでいたことを考えると、これは奇跡的な数字だ。新たな指揮官による原点回帰は見事だったが、その背景には前任者であるファブレが残した基礎があったのも事実だ。シューベルトが真価を問われるのは、これから先になる。
文/飯塚 健司
theWORLD168号 11月23日配信の記事より転載

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