[特集/新生レアル徹底解剖 01]王座奪還へ好スタート クラブを知るX・アロンソが挑むレアル変革

昨季をもって4年間続いた2度目のカルロ・アンチェロッティ体制に終止符を打ったレアル・マドリード。新たにチームの未来を託すこととなったのが、クラブのレジェンドでもあるシャビ・アロンソだ。ドイツで無敗優勝を成し遂げた実績もあり、ファンも大きな期待を寄せていることだろう。

そして、シーズンが始まってもその期待を裏切らないスタートとなっている。新体制では[4-2-3-1]をベースに[4-3-3]や[4-4-2]、[3-4-2-1]とさまざまなシステムを試しながら、ラ・リーガ第8節終了時点で7勝1敗の勝ち点21。第7節に開催されたマドリード・ダービーでアトレティコ・マドリードに屈辱の敗戦こそ喫したものの、王座奪還へ向けて首位に立っているのだ。

レヴァークーゼン時代にも柔軟なシステムや戦術でライバルたちの脅威となっていたシャビ・アロンソ。良くも悪くもより強力な“個”が集うレアルをどのように変えていくのか、どのようなチームに仕上げていくのか。

2大エースの守備意識 レアルにとっては大きな変化

今夏にレアルの指揮官に就任し、2014年以来11年ぶりの帰還を果たしたX・アロンソ photo/Getty Images

今季のレアルはシャビ・アロンソ新監督になってチームがどう変わったのかが注目されるところだ。シャビ・アロンソがレヴァークーゼンでやっていたサッカーをレアル・マドリードにそのまま持ち込んでいるなら大きな変化になるはずだが、今のところは“それなりの変化”にとどまっている。

とはいえ、守備意識はかなり変わった。カルロ・アンチェロッティ前監督時代も守備意識の改善は試みられていたが、実際のところキリアン・ムバッペとヴィニシウスは守備ブロックから外れていて、2人が前線に攻め残りしている場合が多かった。現代サッカーで2人が守らないというのはかなりのハンデである。

シャビ・アロンソ監督になってそこが変化している。左サイドのヴィニシウスは引いて中盤の守備ラインに入るタスクを負っていて、ムバッペも中盤ラインに近づいて全体をコンパクトにまとめるためのポジションをとるようになった。ウスマン・デンベレ(PSG)まではいかないが、守備意識は明らかに改善されている。

守備への意識が改善されつつあるヴィニシウス。第2節オビエド戦では高い位置でボールを奪い、勝利を手繰り寄せるムバッペの2点目のゴールをアシストした photo/Getty Images

攻撃から守備のトランジションも速くなり、前線でのボール奪取からの攻め込みは得点源になっている。こういった守備意識やハイプレスはどのチームも常備しているもので、レアル・マドリードがこの部分でことさら強力というわけではない。守備戦術という意味ではやっと普通のチームになったという印象であるが、レアル・マドリードとすれば大きな変化かもしれない。

ローブロックの守備ではアンカーのオーレリアン・チュアメニがマンマーク気味に相手のアタッカーにつき、ディフェンスラインに吸収される傾向がある。ディフェンスラインの前面は左右2人ずつのペアでゾーンを担当しながら人につく。左右のペアはウイングとMFなので、ここでヴィニシウスが守らないと穴が空いてしまう。つまり明確に守備組織に組み込まれている。以前のように守ったり守らなかったりというわけにはいかなくなった。

CBディーン・ハイセンは完全にレギュラーポジションを獲得。同じく左SBアルバロ・カレーラスも不動。新加入の2人が不可欠の存在になっていて、人選面ではこれも大きな変化と言える。

いつになく早い仕上がり DF中心の補強も功を奏す?

今夏の移籍市場でレアルに加入するも、怪我の影響でここまで150分ちょっとのプレイ時間にとどまっているA・アーノルド photo/Getty Images

選手層の分厚いレアル・マドリードだが、シャビ・アロンソ監督の下でポジションを確保している選手はGKティボー・クルトワ、DFハイセン、カレーラス、MFフェデリコ・バルベルデ、チュアメニ、FWムバッペ。この6人は確定的で、アルダ・ギュレルもほぼ確定と言っていいだろう。

CBの1つはエデル・ミリトンとアントニオ・リュディガー、ラウール・アセンシオの競争、右ウイングはフランコ・マスタントゥオーノ、ブラヒム・ディアス、左はヴィニシウスとロドリゴが競合している。ただ、これらのポジションも序列は出来つつあり、ミリトン、マスタントゥオーノ、ヴィニシウスで確定しつつある。

不確定なのは右SB。トレント・アレクサンダー・アーノルド、ダニエル・カルバハルが候補だが、2人の欠場した試合ではバルベルデが問題なくこなしている。ジュード・ベリンガムの復帰によってMFがベリンガム、ギュレル、チュアメニになると、バルベルデは右SBにしばらく定着しそうだ。

9月27日に行われたマドリード・ダービーでアトレティコに4点目を奪われた際、ベリンガムも流石に肩を落とす photo/Getty Images

人選と序列に関しては、レアル・マドリードとしては例外的に仕上がりが早い。開幕からCLを含めて10戦して9勝という安定感にそれが表れている。唯一、アトレティコ・マドリードに2-5で敗れているが、4失点はCK、PK、FK、スローインとデッドボールから。残る1つはパスミス。守備が崩壊という感じではなく、その後のビジャレアル戦は1失点に抑えて3-1で勝利した。

レアル・マドリードは伝統的にスロースターターだ。大物選手が加入すると、そのたびに作り直しになるからだ。昨季はムバッペが加入し、シーズンの半分くらいをバランス調整に費やした。今季は補強がDF中心なのでまとめやすいということはあるだろう。ただ、監督は代わっているわけで、もしシャビ・アロンソがレヴァークーゼン時代の戦術をそのまま移植していたら現在の安定感は得られなかったに違いない。レアル・マドリードの選手だったシャビ・アロンソは、このクラブの生理をよく理解していて、無理のない方法で改革を進めている。

カギを握る左攻めの微調整 ベリンガム復帰もプラス材料

現代サッカーにおいてサボる選手は許されない。X・アロンソはムバッペにさえもしっかり守備のタスクを与える photo/Getty Images

漠然とした骨格は出来ている。目下、微調整が必要なのは攻撃のバランスだろう。

攻撃が左に偏っている。ムバッペとヴィニシウスが左側を得意としているからだ。ヴィニシウスがロドリゴでもそれは変わらない。左ウイングはタッチラインに開き、ムバッペはペナルティエリアの左角あたりにポジションをとる。ウイングが外なので、左SBのカレーラスは1つ内側のハーフスペースに上がってサポートする。さらにMF1人がサポートにつくので、左側の狭いエリアに3〜4人が集結して渋滞が起こっている。

この渋滞はおそらく解消されない。ヴィニシウスは左サイドからのカットイン、あるいは縦突破で決定機を作る能力に優れ、それが最大の武器だ。ムバッペもペナルティエリア左角付近で前を向き、ドリブルで仕掛ける、ワンツーで突破を狙うという自分のスタイルがある。チームの看板アタッカー2人のプレイエリアが被っているために左で渋滞が起こっているわけだが、そこを解消してしまえば強みもなくなってしまう。

左攻めの強みは残しつつ、左で崩して右で仕留める形を作ることと、左でボールを失った場合のリスクマネージメントが重要になる。

ビジャレアル戦では右SBとしてプレイしたバルベルデ。なんでもこなせるそのユーティリティ性はX・アロ ンソも重宝している photo/Getty Images

第8節のビジャレアル戦では、ビジャレアルがヴィニシウスに対して2人で対応する形だった。そこにムバッペが加わるのでDFも集中し、スペースが狭くなりすぎて突破の段階で引っかかっている。カレーラスも前に出ているので、カウンターされるとハイセンと相手FWが1対1になり、その形で41分にタニ・オルワセイに抜け出され、GKクルトワが間一髪で止めるピンチが発生していた。

このリスクを回避する意味でも、相手DFが集中したときにサイドを変える見切りがまず必要だ。右には個で勝負できるマスタントゥオーノがいて、ビジャレアル戦ではバルベルデもいた。左で引きつけて右で勝負という流れを的確に作るべきだった。

後半にビジャレアルが右SHに攻撃型のペペを投入するとヴィニシウスへの対応が1人になり、レアル・マドリードはたちまちヴィニシウスの突破から2得点している。相手が通常対応ならヴィニシウス、ムバッペの力でこじ開けてしまうことができる。そこで相手の守備が集中したときに右への展開があれば、相手は対応できなくなるはずだ。

左から右へ展開する際、ボックス内に入って得点できるベリンガムの復帰はプラス材料である。左で奪われた場合のリスク回避としてはMFにカマヴィンガを置くという手もある。調整はさほど難しくない。左攻めはリスクもあるが武器でもあり、それがどちらに出るかは今後の進捗を計るモノサシの1つになるだろう。

レアル・マドリードのカウンターアタックは伝統芸。常にスピードと突破力抜群のFWを擁しているのでスペースがあればシンプルに決定機になる。

ムバッペと競走して勝てるDFはほぼ存在しない。ヴィニシウスも強力。このアドバンテージが大きいので、たとえ劣勢の試合でも得点できる底力を秘めている。そこに保持局面での左攻めとそのバリエーションが加われば得点力は十分。まだ着手段階と思われる守備が磐石になれば、このチームを止めるのは至難になるのではないか。

文/西部 謙司

※電子マガジンtheWORLD310号、10月15日配信の記事より転載

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