[特集/欧州クライマックス 02]ありえないほど低迷したプレミアビッグ6による、勝てば天国、負ければ地獄の大一番!

ELファイナルはマンチェスター・ユナイテッド×トッテナム・ホットスパーというイングランド勢同士の対決となった。どちらもプレミアリーグでは大苦戦していて、36節を終えた段階でマンUが16位、トッテナムが17位という近年なかった下位に沈んでいる。FA杯、カラバオ杯にも敗退しており、両チームともに国内無冠が決まっている。

そのぶんELにはフルパワーで、ともに準決勝には快勝している。マンUが7-1でビルバオを下せば、トッテナムは5-1でボデ・グリムトに勝利した(スコアは2試合合計)。マンUは2年連続でカップ戦(カラバオ杯、FA杯)に優勝している。一方、トッテナムは長くタイトルから遠ざかっており、“無冠の強者”というイメージができあがっている。一発勝負の戦い方を心得たマンUなのか、悲願のタイトル獲得を目指すトッテナムなのか。ELを制するのはどちらなのか、ファイナルを展望する。

過去の成績ではマンUが有利 トッテナムは勝負強さがない

マンUは16-17決勝でアヤックスを下し、ELのトロフィーを獲得した経験がある Photo/Getty Images

プレミアリーグの最多優勝回数は「20」で、2つのクラブが並んでいる。今季を制したリヴァプールとマンUである。ただ、マンUのプレミアリーグ優勝は2012-13まで遡らなければならない。もう長く低迷しているように感じるが、実際にはそれ以降もカップ戦に複数回優勝している。

FA杯では4回決勝に進出し、2回優勝している(15-16、23-24)。カラバオ杯は2回決勝に進み、どちらも優勝している(16-17、22-23)。お気づきのとおり、この2年間でカラバオ杯、FA杯に優勝しており、今季ELを制覇すると3年連続でのタイトル獲得となる。

ELにおいてもマンUは優勝経験があり、16-17に決勝でアヤックスと対戦し、2-0で完勝している。ジョゼ・モウリーニョが監督を務め、得点者はポール・ポグバ、ヘンリク・ムヒタリアンだった。ELでは20-21にも決勝進出を果たしているが、このときはPK戦でビジャレアルに競り負けている。

マンUはプレミアリーグの優勝から遠ざかっているが、その間にカップ戦で8回決勝に進出し、5回優勝している。監督、選手が入れ替わっても、トーナメントの勝ち上がり方、さらには決勝の戦い方がチームに受け継がれている。顕著だったのは昨季FA杯の優勝で、準々決勝ではリヴァプールを相手に2度のビハンイドを跳ね除け、延長戦までもつれた大混戦を4-3で制する勝負強さを発揮。さらに、決勝ではマンチェスター・シティとの“ダービー”に2-1で競り勝っている。マンUは一発勝負に強く、タイトルの取り方を知っている。

トッテナムは逆に勝負弱いイメージがある。直近の優勝は07-08のリーグカップ(現カラバオ杯)で、それ以降はタイトルがない。ただ、もう少しで優勝というケースが何度かあり、ゆえにいいところまでいくがタイトルは取れない勝負強さがないチームというイメージになっている。

プレミアリーグではマウリシオ・ポチェッティーノ監督が3位(15-16)、2位(16-17)、3位(17-18)という成績を収めたことがあった。カップ戦をみれば、FA杯では準決勝敗退が4回あり、カラバオ杯では3回決勝に進んでいるが、いずれもタイトル獲得には至らなかった。

さらに、トッテナムが優勝に近づいた瞬間としてサッカーファンのなかで記憶に残っているのが、18-19のチャンピオンズリーグ決勝になる。ラウンド16以降、ドルトムント、マンC、アヤックスを下して決勝に進出したトッテナムが対戦したのは、同じプレミアリーグのリヴァプールだった。

ハリー・ケイン、ソン・フンミン、デル・アリなどを擁するトッテナムにとって初のCL決勝で期待が大きかったが、キックオフ直後の2分にハンドでPKを献上し、早い時間帯に追いかける展開となってしまった。その後に追加点を許し、0-2で敗戦。欧州制覇の夢はあと一歩で叶わなかった。

こうした各大会での過去の成績を比較すると、今季のEL決勝はマンUにまずは分がありそうだ。
 

直近の相性ならトッテナム有利 今季の直接対決に3戦全勝

プレミア第6節は3-0とトッテナムの完勝。クルセフスキは見事なジャンピングボレーを突き刺した Photo/Getty Images

両者の相性ではどうだろうか? 全試合だとあまり意味がないので最近10試合に絞ると4勝2分け4敗と互角だ。さらにフォーカスすると今季は3度の対戦があり、トッテナムの3勝となっている。直近の相性を判断材料にすると、トッテナムが有利だと考えていい。

今季最初の対戦はプレミアリーグ6節で、マンUのホームゲームだった。マンUが2勝2分け2敗、トッテナムも2勝2分け2敗で迎えた一戦で、どちらもチーム状態が良いとは言えなかった。それでも、就任2年目を迎えたアンジェ・ポステコグルー監督のもと狙いがわかるスタイルを継続するトッテナムに対して、マンUはエリック・テン・ハーグ監督が3年目を迎えていたが、選手個々の能力に頼る傾向があり、チームの完成度ではトッテナムが勝っていた。

さらには、前半のうちにマンUのブルーノ・フェルナンデスが退場に。こうした流れもあり、ブレナン・ジョンソン、デヤン・クルセフスキ、ドミニク・ソランケのゴールで敵地に乗り込んだトッテナムが3-0で快勝している。その後、良い方向への改善が見られなかったマンUは、約1カ月後にテン・ハーグ監督を解任。次に対戦したときには、現在のルベン・アモリム監督が率いるチームとなっていた。

2度目の対戦はカラバオ杯の準々決勝で、トッテナムのホームで行われた。お互いにプレミアリーグやELなどを戦うなか迎えた一戦であり、最初の対戦とはシステム、選手の顔ぶれが違った。トッテナムが[4-3-3]から[4-2-3-1]、マンUは[4-2-3-1]から[3-4-2-1]に変更。そして、この試合でもチームの完成度の差が出た。アモリム監督就任からまだ約1カ月で探っている状態だったマンUに対して、戦術が浸透しているトッテナムは15分にソランケが先制点を奪って主導権を握った。

さらに、クルセフスキ、ソランケの追加点でリードを広げ、54分までに3-0としてあとは試合を締めるだけの展開に。その後に点を取り合って最終スコアは4-3となったが、3点差にした時点でほぼ勝負あり。トッテナムはポステコグルー監督が志向するスタイルが植えつけられていて、誰がピッチに立っても同じ戦いができる。チームとしての熟成度の差が出た一戦だった。

両者の今季3度目の対戦は、プレミアリーグ25節のトッテナムのホームゲーム。トッテナムは[4-3-3]、マンUは[3-4-2-1]で、おそらくEL決勝でもこのカタチで戦うことになる。そして、この一戦でも13分という早い時間帯に先制点が生まれている。左右に大きく振った展開から最後はゴール前に飛び出したジェイムズ・マディソンが押し込み、またもトッテナムがリードを奪った。

その後、マンUにも何度か決定機があったがシュートミスやトッテナムのGKグリエルモ・ヴィカーリオの好セーブがあり、スコアは動かず。1-0で逃げ切ったトッテナムが対マンUに3連勝となった。いずれも前半のうちに先制点を奪い、追いつかれることなく勝利している。つまり、今季の両者は270分を戦ってトッテナムが追いかける展開になったことがない。

トッテナムの3戦3勝。3試合合計8-3。今季の直接対決をこうした数字だけで見ると、どちらがEL決勝に良いイメージを持って試合に入れるかは明白である。

今季4度目の対戦の行方は? 来季CL出場権もかかっている

マンUの立て直しに苦労するアモリム監督。自身初となるELのタイトルを手にすることができるか Photo/Getty Images

EL準決勝を終えて、「私とアンジェ(・ポステコグルー)はとてもよく似た境遇にある。EL決勝はお互いにとって難しい一戦になるが、どちらかが勝つことになる」とコメントしたのはアモリム監督である。どちらもプレミアリーグでは大苦戦し、下位に沈んでいる。そのため、両者ともに今夏で解任されるのではとの報道が現地ではチラホラと出ている。勝ったとしても、置き土産になってしまうのか……。

こうした状況を考慮すると、今季4度目対戦はお互いに現状のベストを出し尽くした総決算となる一戦だ。ここまでのチームの完成度では、ポステコグルー監督のもと2シーズンを戦ってきたトッテナムのほうが勝っていた。[4-3-3]で各選手が献身的に足を動かし、素早いショートカウンターを仕掛けるスタイルがチームに根付いている。

マディソン、ソン・フンミンなどケガ人はいるが、クルセフスキ、ジョンソン、パプ・マタル・サール、リシャルリソン、マティス・テルなど攻撃のコマは豊富。シーズン中盤に欠場期間があったソランケやロドリゴ・ベンタンクールも復帰していて、十分に力を発揮できる状況にある。実際にEL決勝にたどり着いた事実が、トッテナムが持つ力を示している。

ただ、カップ戦のタイトルを獲得するには現状を越える力が必要で、いまのトッテナムにそうしたポテンシャル、引き出しがあるだろうか? あと一歩、もう一歩でタイトルを逃してきた背景には、トッテナムに宿るそうした一面があるのかもしれない。普段どおりに現状の力を発揮するのは当たり前で、そこを超越した一瞬の判断、動き、采配が求められるのがタイトルをかけた一戦になる。

今季3度の対戦と同じように、トッテナムは先制できるかもしれない。だからといって、今季3度の対戦と同じように、そのまま逃げ切れるとは思わないほうがいい。17年間続いている無冠から解放されるためには、これまでと同じ感覚で戦ってはダメだろう。

なぜなら、マンUのほうがタイトルの取り方を知っているからだ。今季3戦すべてトッテナムが勝っているというのも、マンUのモチベーションを高める材料になる。リサンドロ・マルティネス、マタイス・デ・リフト、ジョシュア・ザークツィーなどこちらもケガ人を抱えているが、昨年11月下旬から指揮官を務めるアモリム監督はいろいろな選手を起用しながら効果的な組合せを探りつつ、確実にチーム力を高めてきた。

プレミアリーグでは苦戦を続けているが、カップ戦では勝負強さが発揮された試合があった。EL準々決勝のリヨン戦である。第1戦のアウェイ・ゲームを2-2で終えてホームに戻り、第2戦も90分を終えて2-2で合計4-4という死闘になった。そして、延長戦に入って2点を奪われ、4-6という絶体絶命のピンチを迎えていた。

残された時間は10分強だったが、追い込まれたマンUはここから恐ろしい反撃をみせた。114分、ブルーノ・フェルナンデスがPKを決めてまず1点を返す。その後もCBのハリー・マグワイアが前線に残って相手DFにプレッシャーを与え、リヨンを自陣に追い込んで攻撃を続けた。120分、細かいパス交換からコビー・メイヌーが決めて6-6に。こうなると勢いは止まらず、直後の120+1分にそのまま前線でプレイを続けたマグワイアが決勝点を奪い、合計7-6というスコアで勝ち上がってみせた。

EL決勝がどんな展開になるかはわからないが、マンUはどんな流れになっても慌てないだろう。大事な一戦で現状を超越した力を発揮するポテンシャル、バリエーション豊かな引き出しを持つのは、マンUのほうだと考えられる。

いずれにせよ、アモリム監督が語る「似た者同士」によるEL決勝は見逃せない。トッテナムが無冠の呪縛を解くのか、勝負強いマンUが立ちはだかるのか。勝者には来季のCL出場権も与えられる。プレミアリーグで低迷する両チームにとって、是が非でも欲しいタイトルなのは間違いない。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD305号、5月15日配信の記事より転載

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