ガスペリーニのサッカーの最大の特徴は、「マンツーマンディフェンス」だ。御年66歳、ベテラン指揮官の「時代遅れの戦術」と侮ることなかれ。この戦い方を磨き続けることで、ヨーロッパ中が警戒するチームをつくりあげた。
実際、昨年12月にアタランタと対戦したミラン前監督のパウロ・フォンセカは、「アタランタのスタイルを説明するのは簡単で、やることはハッキリしている。だが、それを止めるのが難しい」と語っていた。2019年のCLでアタランタと対戦して苦戦したマンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督が「彼らとの試合は歯医者に行くようなもの」と例えたことは、いまでも有名だ。
現代のサッカーは「可変システム」を採用するチームが多く、ボールの保持・非保持など、試合状況に応じてフォーメーションを変えるチームが多い。だが、人に付くことを前提としたマンツーマンディフェンスにおいては、対応すべきポイントが変わらない。相手がどんなに形を変えようが、マークする相手さえ外さなければいい。見方によっては、ガスペリーニのサッカーは、現代サッカーの天敵だ。
マンツーマンともう1つ、ガスペリーニサッカーを象徴する言葉として「大胆不敵」が挙げられる。DFからFWまで全員がアグレッシブで、ボールを奪ってから前への推進力が高く、多くのビッグクラブを手玉に取ってきた。
2024年5月22日のEL決勝はレヴァークーゼンの前評判が高かったが、アタランタが3-0で快勝。世界中を驚かせた。
しかし、伝統も予算もビッグクラブと呼ぶには物足りないアタランタは、夏の移籍市場で狙われた。主力のMFトゥーン・コープマイネルスが移籍を希望し、最終的にユヴェントスに加入。EL決勝でハットトリックを達成したFWアデモラ・ルックマンは最終的に残留したが、一時移籍を希望した。また、エースのFWジャンルカ・スカマッカは8月に前十字じん帯断裂の重傷で離脱し、夏はチーム編成が大いに揺れた。主力の負傷や移籍の影響は甚大で、シーズン開幕時は黒星が先行した。
悪い流れを変える転機となったのは、9月19日のCLアーセナル戦だ。0-0で引き分けたこの一戦でアタランタが獲得した勝ち点は1だが、確かな自信を手にした。
アタランタは慎重な立ち上がりを見せ、前半終盤にインテンシティを落とした。しかし、後半はチャンスをつくり、イングランドの強豪を最後まで苦しめた。後半立ち上がりにFWマテオ・レテギがPKを失敗したことが悔やまれるが、それでも勝利に値する内容で、その後の自信になった。
『Wyscout』のデータを用いた『L'eco Di Bergamo』の分析記事によると、アーセナルのプレス強度は試合を通してほぼ横ばいだったが、アタランタの強度は31分から前半終了までの時間帯を底にしたV字を描いており、ラスト15分でアーセナルを上回っている。意識的に強度を調整したことで、終盤にギアを上げる余裕を生み出した。アーセナルのゴール期待値は試合を通して低いままだったことからも、ガスペリーニの揺さぶりがハマり、アタランタが試合の流れをコントロールしているゲームだったと言える。