[特集/新風を吹き込む若手56人 01]進化した若きゴールゲッターが欧州を牽引する

 サッカー界では、世界各国のクラブが次代のスターを生み出すべく切磋琢磨している。とくに最前線で戦っている欧州の各クラブは人材発掘に大きな資金を投入しており、途切れることなく次々に良質な選手が登場する。

 FWでは、バルセロナの“神童”ラミン・ヤマルがラ・リーガの最年少得点、スペイン代表の最年少得点を更新し、目の肥えたバルセロニスタを熱狂させている。プレミアリーグのブライトンでは19歳のエヴァン・ファーガソンが当たり前に活躍し、ブンデスリーガではレヴァークーゼンのヴィクター・ボニフェイスなどが躍動している。

 欧州は新陳代謝が激しく、とくにFWは若い選手でも得点という結果がついてくればスターダムを駆け上がることができる。どんなFWが出てきているのか、数名をピックアップして紹介する。

末恐ろしい“神童”ヤマルとジローナで台頭するサヴィオ

末恐ろしい“神童”ヤマルとジローナで台頭するサヴィオ

15歳でラ・リーガにデビューし、16歳で初得点をマークしたヤマル photo/Getty Images

 バルセロナのカンテラ(育成組織)から、またひとり素晴らしい選手が出てきた。ラミン・ヤマルは16歳ですでにラ・リーガに馴染み、普通にプレイしている。昨シーズン終盤に15歳9カ月16日でラ・リーガに出場し、クラブの最年少出場記録を更新。今シーズンに入り、ラ・リーガの最年少得点、スペイン代表の最年少得点をいずれも更新した。“神童”ヤマルが今後どんなサッカー人生を歩むのか、期待しかない。

 右サイドでパスを受け、利き足である左足を使ってボールを動かし、一瞬のスピードで相手を置き去りにして中央へカットインする。そこからゴール前へクロスを送り、ロベルト・レヴァンドフスキを筆頭に走り込んだ選手がフィニッシュする。バルセロナは中盤中央を固められることが多く、右サイドに張っているヤマルがフリーでボールを受け、そこから個人技でチャンスを作り出すのがひとつの攻撃パターンになっている。

 3節ビジャレアル戦でも3-3で迎えた終盤にヤマルが右サイドでボールを持ち、カットインから左足でフィニッシュ。このシュートはゴールポストに当たったが、レヴァンドフスキが押し込んで4-3で競り勝っている。
 ただ、対戦相手による対策は早く、続く4節オサスナ戦ではカットインするスペースを素早く消されていた。すると、カットインではなく縦に抜け出して右足でクロスやシュートというプレイも増えてきて、DFの立場になればより対応が難しくなった。

 技術力が高く、アジリティに優れている。アイデアもあり、プレイの選択肢が豊富だ。初得点は9節グラナダ戦で、左サイドからの展開に合わせてポジションを調整し、最後はジョアン・フェリックスのシュートが流れてきたところを押し込んでいる。

 ラ・リーガでは他にもレアル・マドリードのロドリゴなどが知られたところだが、ジローナのサヴィオ・モレイラもブレイクしている。PSVからローンで加入し、開幕戦は[4-1-4-1]の右ウイングで出場したが、その後は左サイドを任され、ここまで13試合すべてに先発して4得点。下馬評を覆して首位をキープするチームの原動力のひとつとなっている。

 左利きの左ウイングだとボールを持ったときのファーストチョイスが縦への突破になりそうだが、サヴィオは決してそうではない。クイッと一度中央へ入ることでDFの態勢を崩し、そのままダイアゴナルに持ち込むこともあれば、トリッキーな動きで結局は縦に仕掛けるときもある。長くボールを持てるタイプで、左サイドでサヴィオが時間を作る間にチームメイトがポジションを上げることが多い。長くボールを持てるといってもプレイが遅いわけではなく、常にボールを動かし、自分も動いている。状況判断がよく、ドリブルとパスを効果的に使ってゴールに迫る印象である。現在19歳のサヴィオは各年代のブラジル代表に選出されてきた。来年のパリ五輪、その先の2026年W杯でもその雄姿が見られるかもしれない。

逸材多きブライトン ファーガソンには貫録漂う

逸材多きブライトン ファーガソンには貫録漂う

アイルランドのボヘミアンFCのユース育ちで、ブライトンとは2021年の1月に契約。今季、18歳でハットトリックを達成したアイルランドの至宝ファーガソン photo/Getty Images

 プレミアリーグではここ数年、ブライトンが高品質な若手を多く輩出している。現在も多くのU-22選手がプレイするが、なかでも19歳のCFエヴァン・ファーガソンはすでに主力としての地位をしっかりと確立している。

 2019年に14歳でアイルランドのボヘミアンFCのトップチームに昇格した経歴を持ち、16歳でブライトンと契約し、U-23チームを経て2021-22にトップ昇格を果たした。これだけでも凄まじいスピード出世だが、ファーガソンはその後も結果を出し続けている。

 初年度こそ途中出場による1試合の出場だったが、22-23は前線中央で19試合6得点という成績を残した。ダニー・ウェルベック、レアンドロ・トロサール(シーズン中に移籍)がいるなか、10試合に先発してデ・ゼルビ監督の期待に応えている。

 身体の使い方、ボールコントロールが巧みで、狭いスペースでも正確なプレイができる。反転力にも優れ、ワンタッチで背中に張り付いたDFを置き去りにし、ボールを持ってゴールを向くことができる。頭のなかでゴールまでのイメージができていて、フィニッシュまでの流れも冷静でスムーズ。ポストになれるし、自分で運んで仕上げることもできる万能なザ・ストライカーだ。

 ブライトンのアタックは早い。三笘薫、ソリー・マーチなどがサイドを崩し、そのタイミングで来るかという状況でパスが来ることもある。ファーガソンはそんな彼らと感覚が合っていて、絶好のポジションでパスを待ち受けている。4節ニューカッスル戦では味方シュートをGKが弾いたところを蹴り込んで1点。中盤に下りてきてボールを受け、インフロントにかけたミドルシュートで1点。中央にドリブルで切れ込んだ三笘からのパスを受け、相手が密集するなか小さな動きで左足を振り抜いて1点。合計3点を奪い、プレミアリーグで史上4人目となる18歳以下でのハットトリックを達成している。

 このブライトンにはもうひとり、ジワジワと評価を高めているU-22選手がいる。今シーズンにワトフォードから加入した22歳のジョアン・ペドロで、4試合に先発、7試合に途中出場で2得点という結果を出している。

 攻撃的なポジションならどこでも稼働するポリバレントなタイプで、前線、セカンドトップ、ウイングでの起用が可能。5節マンチェスター・ユナイテッド戦ではウェルベックに代わって入り、同時に交代出場したアンス・ファティと前線を構成。3-0とするゴールを決め、勝利を確定させている。

 右利きで足元の技術力が高いジョアン・ペドロはプレイに変な癖がなく、任されたポジションで役割をまっとうできる。セカンドトップというバランスを取らないといけないポジションをこなせるため、ファーガソンやウェルベックとの縦関係の2トップでの出場が可能で、その存在により、デ・ゼルビ監督に多くの選択肢を与えている。

 その他バルセロナからやってきたファティも面白い存在だが、プレミアにはブライトンの他にもU-22世代最高のアタッカーたちがひしめいている。王者マンチェスター・シティには新たなウインガーとしてジェレミー・ドクが加入し、ここまで公式戦で3ゴール6アシスト。6-1と圧勝した11節ボーンマス戦ではじつに5ゴールに関与した。

 アーセナルではブカヨ・サカ、ガブリエウ・マルティネッリの22歳ウインガーコンビが外せない主力となり、優勝争いをする若きガナーズの中心となっている。どちらも単独で簡単にマークを剥がしてしまうドリブラーで、対峙するチームの多くはこの2人にそれぞれ2枚のマークをつけて対応するようになった。

 チェルシーはチームとしては結果が出ていないが、ニコラス・ジャクソンやミハイロ・ムドリクらスピードと爆発力を備えたFWを擁している。そして、今季4ゴール2アシストを決めているニューカッスルの22歳アンソニー・ゴードンも、イングランド代表への招集に期待がかかる見逃せない才能だ。

ブンデスリーガで輝くボニフェイス&テル

ブンデスリーガで輝くボニフェイス&テル

ボニフェイスはスピード&パワーで押し切るだけでなく、相手を欺くアイデア、さらにはたしかなシュート技術もある photo/Getty Images

 ブンデスリーガではレヴァークーゼンが首位をキープするが、1トップでここまでの10試合すべてに先発して勝利に貢献しているのが22歳のヴィクター・ボニフェイスで、9月にはナイジェリア代表にもデビューしている。

 強靭なバネ、力強さがあり、スピードもある。いわゆる身体能力が高いタイプで、ボニフェイスはこれに加えて巧さと豊富なアイデアも持ち合わせている。昨シーズンまではベルギーのユニオン・サン・ジロワーズでプレイし、ジュピラー・プロ・リーグ7得点、EL6得点を筆頭に、国内カップなども含めると55試合で22得点12アシストしていた。

 レヴァークーゼンでも得点力は変わらず、リーグで7得点、ポカールで1得点、ELで2得点。アシストもリーグで5つ、ELで1つ。整理すると、合計14試合出場で10得点6アシストとしっかりとゴールにからむ仕事をしている。

 レヴァークーゼンのシステムは[3-4-2-1]で、ボニフェイスが前線を務める。シャドーに入るヨナス・ホフマン、フロリアン・ヴィルツ。さらに、両サイドのウイングバックであるジェレミー・フリンポン、アレックス・グリマルドはチャンスメイクする能力が高く、ボニフェイスにはスルーパス、クロスなど様々なボールが入る。状況に合わせて柔軟なフィニッシュをみせるのがボニフェイスで、現地には「DFにとっての悪夢」と表現するメディアも存在するほどである。

 このレヴァークーゼンと首位争いを演じているのが12連覇を目指すバイエルンで、こちらにはブレイクするポテンシャルを持った18歳のマティス・テルがいる。今夏のジャパンツアーでマンチェスター・シティを相手に1得点したストライカーで、リーグ戦10試合を消化した現段階で9試合に交代出場し、短い時間のなかで3得点している。

 今シーズン、レンヌから2850万ユーロ(約46億円)でバイエルンに加入したテルは、スピードあるスカッとする縦突破のドリブルが魅力。フィニッシュのときに迷いがなく、思い切り足を振り抜くのも気持ちがいい。利き足である右足はもちろん、左足でのシュートも正確で、出場時間とともにゴール数も増えそうである。

 チームにはハリー・ケインという絶対的なエースと、経験豊富なエリック・マキシム・チュポ・モティングがいるため1トップで先発する機会はいまのところほぼない。左右のウイングで出場することが多く、タッチライン際からの元気のいい仕掛けを見ることができる。

 また、相手最終ラインの裏に飛び出すタイミングも絶妙で、ジャマル・ムシアラ、レロイ・サネ、セルジュ・ニャブリ、キングスレイ・コマンといったハイクオリティな選手たちとの連携も確実に良くなっている。

 粗削りで失敗を恐れないテルが、国内無敵のバイエルンでどんな選手に成長するか。フランスのアンダー代表であり、バイエルンが派遣にゴーサインを出したならパリ五輪出場もありうる。それ以前に、今後の活躍次第ではドイツで開催されるEUROでプレイする姿が見られるかもしれない。

 その他にも、セリエAでは昨季ナポリ優勝の原動力となった「クワラドーナ」ことクヴィチャ・クワラツヘリアがまだ22歳。ユヴェントスからフロジノーネにローンされた20歳のマティアス・スーレも5ゴールと爆発中で、注目を浴びているところだ。また、オランダのフェイエノールトでは日本代表FW上田綺世のライバルとなっているメキシコ代表FWサンティアゴ・ヒメネス(22)がリーグ13ゴールで得点王争いのさなか。この世代のアタッカーには、これからのサッカー界を華麗なゴールで湧かせる特大の才能がひしめいている。


文/飯塚 健司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)287号、11月15日配信の記事より転載

記事一覧(新着順)

電子マガジン「ザ・ワールド」No.292 最強ボランチは誰だ

雑誌の詳細を見る

注目キーワード

CATEGORY:海外サッカー

注目タグ一覧

人気記事ランキング

LIFESTYLE

INFORMATION

記事アーカイブ