今やデュエルは弱点ではない 東京五輪スペイン戦で見えた、日本代表の新たな課題

酒井宏樹を筆頭に、日本代表戦士のデュエルの強さが際立っていたが、U-24スペイン代表とは小さくない差があった photo/Getty Images

スペイン代表と互角のスタッツを叩き出したが……

3日に行われた東京五輪の準決勝で、U-24スペイン代表に0-1で敗れた同日本代表。MF遠藤航と田中碧の2ボランチの背後を、相手MFペドリとミケル・メリーノ、及びダニ・オルモとミケル・オヤルサバルの両ウイングFWに突かれ続け、キックオフ直後から劣勢に。DF吉田麻也を中心とする最終ラインやGK谷晃生が好守を連発したほか、MF久保建英と堂安律を起点とするカウンターやサイド攻撃で何度かチャンスを作ったものの、115分に相手のスローインから始まった攻撃を止められず。MFマルコ・アセンシオにゴールを奪われて力尽きた。

失意の敗戦から好材料をひとつ挙げるとすれば、欧州の強豪を相手に、球際での攻防で引けを取らなかったことだろう。この試合で両軍の選手中トップの地上デュエル勝利数(空中戦を除く)を叩き出したのは、DF酒井宏樹で8回。2位は7回の遠藤で、3位に6回の吉田、田中、MFマルティン・スビメンディの計3人。4位に4回のDFマルク・ククレジャ、パウ・トーレス、中山雄太、MFカルロス・ソレール、相馬勇紀、堂安、オヤルサバルの計7人がランクインしている。ロシアW杯直前まで日本のフル代表を率いたヴァイッド・ハリルホジッチ元監督が、日本人選手の球際での弱さを問題視し、デュエルの重要性を訴えていたが、日本代表戦士のデュエルは今や弱点ではなくなったと言って差し支えないだろう。

その一方で、スペインの連動性溢れるプレスを受けて自陣からのビルドアップがままならない時間帯が長く、ボール支配率はグループステージからの5試合中最も低い31%、チーム全体のパス成功数も307本と、5試合中2番目に低い数値に(本文中のスタッツは、全て『SofaScore』より)。
日本サッカー協会は、日本代表のサッカーの在り方を“Japan's Way(ジャパンズウェイ)”と称し、「体格やパワーで勝るわけではないですが、技術力(足首の柔軟性等)、俊敏性、組織力、勤勉性、粘り強さ等、またフェアであることがFIFAテクニカルレポート等でも認められている」(同協会公式サイトより)と日本人選手の強みを説いているが、特長であるはずの技術力を、自陣後方からのパスワークで発揮しきれなかった。

[4-1-2-3]の布陣でこの試合に臨んだスペイン代表は、日本代表が最終ラインからパスを繋ごうとするや否や、同代表の2センターバックをセンターFWのラファ・ミルが、両サイドバックをオヤルサバルとオルモの両ウイングFW、田中と遠藤の2ボランチをメリーノとペドリがそれぞれ捕捉。ボールが片方のサイドに渡ると、逆サイドのウイングFWが中央へ絞り、2インサイドハーフとアンカーのスビメンディがボールサイドに寄ることで、ボール保持者を包囲。パスをサイドへ誘導し、その瞬間にボールサイドへ人を徹底的に寄せることで、日本代表のビルドアップを妨害していた。

日本代表としては、ボールサイドに人を寄せてくる相手のプレッシングの特徴を逆手に取り、逆サイドのスペースにボールや人を送り込みたいところだったが、GK谷や最終ラインの選手によるサイドチェンジのパスはあまり見られず。アバウトな縦パスや、片方のサイドでのパスワークを続けたことで、スペイン代表に何度もボールを回収された。21分に吉田が2本、DF板倉滉が1本惜しいサイドチェンジのパスを放っていたが、この戦い方をチーム内で徹底すれば、より相手の脅威となる遅攻を繰り出せたのかもしれない。

また、近年採り入れるチームが増えているビルドアップ時の隊形変化を、日本代表はこの試合であまり行わず。自軍の配置を変えてマークのずれを作りながらパスを繋ぐのではなく、個々の技術力だけで相手のプレスをいなそうとしたため、ビルドアップが安定しなかった。

東京五輪準決勝までの戦いぶりを見る限り、出場した日本代表の選手個々の技術、俊敏性、球際での強さが、他国の選手と比べて見劣りしているようには思えない。だが、相手のビルドアップを封殺するためにプレスの段取りを緻密に練ってきたスペイン代表と、漫然としたビルドアップで相手のプレスの餌食となった日本代表との間には、戦術の完成度という点で大きな差があった。

相手のプレスのかけ方に応じてビルドアップのパターンを使い分ける、逆に相手のビルドアップのパターンに即して守備隊形を変えるのが、特に欧州のサッカーシーンでは当たり前となっている。相手チームの長所や理想とする戦い方を封じながら、自分たちの特長を活かすための戦術の立案と実行。これが日本代表の新たな課題であり、カタールW杯のアジア最終予選や、その先の本大会に向けて突き詰めるべきテーマだろう。

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