[特集/20-21王者達をプレイバック 03]進化を遂げたグアルディオラ改革 独走優勝マンCの強さと最後の課題

コンディション調整不足で苦しんだ序盤戦

コンディション調整不足で苦しんだ序盤戦

10年間エースストライカーとしてチームを支えたアグエロ。今季は序盤から離脱が多く、世代交代の波を感じるシーズンだったが最終節での2得点で有終の美を飾った photo/Getty Images

 2020-21シーズンのプレミアリーグは、またもや、マンチェスター・シティが優勝を果たした。昨季こそリヴァプールに覇権を譲ったが、2017年以降4シーズンで3回目の優勝である。今季も最終的にはこれまでと同様に独走でリーグ王者に輝いたが、序盤戦は非常に苦しいスタートとなった。

 新型コロナウイルスの影響でシーズンスタートが遅れたことが思いのほか響き、プレミアの他クラブに比べるとコンディション調整不足が目立ってしまうことになる。そのため序盤戦のシティはチーム全体として運動量が少なく、攻撃面での迫力に欠けていた。セルヒオ・アグエロが膝の手術の影響で離脱し、加えてこれまで約10年もの間、攻撃の中心的存在だったダビド・シルバが退団したことも、攻撃面でどこかリズムが足りない要因となっていた。結果、組織としての連携に欠け、攻撃が単発かつやや個人に依存気味だった。第3節のレスター戦では開始4分で先制しながらも、結果的に2-5という衝撃的なスコアで敗れている。こうしてシティは珍しく首位とは遠い順位で序盤戦を過ごすことになった。

ポルトガル勢の台頭から見る新しいマンチェスター・シティ

ポルトガル勢の台頭から見る新しいマンチェスター・シティ

偽サイドバックの通称「カンセロ・ロール」を駆使し、攻撃的なサッカーの中心人物としてチームに貢献したカンセロ photo/Getty Images

 しかし、それでもシティは大崩れしなかった。そこは名将ジョゼップ・グアルディオラの面目躍如というべきか。そのときどきで最適な戦術をチームに落とし込み、調整を施していった。たとえば序盤戦では、開幕後12試合中7試合のゴール数が1点以下だったにも関わらず、普段とは違う[4-2-3-1]のシステムを中心に堅守を築きロースコアゲームを制することで、勝ち点を積み重ねたのだ。補強の成功もその堅守っぷりに拍車をかけた。新戦力のルベン・ディアスが即フィットし、対人戦、カバーリング、リーダーシップ、すべての面で高いパフォーマンスを発揮。2年前に退団したクラブの偉大なレジェンドであるヴァンサン・コンパニの穴を完璧に埋めた。またディアスの台頭と呼応するかのように、これまでは守備の軽さが目立ったジョン・ストーンズも粘り強い守備を見せ、ポルトガル代表DFと共に安定したパフォーマンスを披露した。

 最もインパクトが大きかったのはジョアン・カンセロの使い方だろうか。このポルトガル代表SBは従の「偽サイドバック」の枠組みを超えているように見えるほど、縦横無尽にピッチの様々なエリアに顔を出して攻撃に関与。しかも中盤顔負けのテクニックでチャンスメイクすることで、シルバの穴をSBながら徐々に埋めていった。さらにはトップ下のポジションに入ったケビン・デ・ブライネの存在感も光った。前線のあらゆる局面に顔をだし、得意の高速クロスや強烈なミドルなどで攻撃を牽引したのだ。

今季を象徴する偽9番とフォーデンの覚醒

今季を象徴する偽9番とフォーデンの覚醒

19-20シーズンから本格的にトップチームに帯同していたフォーデン。今季は退団したダビド・シルバの後釜として期待されており、それに応える大活躍を見せた。既に若手の枠組みではなく、中心人物になっており、今後の活躍に期待したい photo/Getty Images

 例年とはやや毛色の違う序盤戦を過ごしたシティだったが、転機となる試合が訪れる。それは2021年の年明け1発目に行われた17節チェルシー戦だ。この試合のシティは、デ・ブライネを偽9番の位置に配置した[4-3-3]のシステムで試合に臨むと、2020年中には見られなかったような攻撃的な姿勢を見せつけフランク・ランパード率いるチェルシーに3-1で勝利。攻撃的なシティの復活を印象付けた。

 この「偽9番」のトップは今季、多くの選手に託されており、ベルナルド・シウバ、フィル・フォーデン、ラヒーム・スターリングなどが入れ替わり立ち替わり務めてアグエロ不在の穴を埋めた。これもまたペップの采配が光った部分だ。

 前述のチェルシー戦では、もう1つトピックがある。1ゴールを決めたイルカイ・ギュンドアンがこの後、得点源として覚醒していくことになるのだ。これまでも低めの位置からリズムを作りつつ、抜群のタイミングでボックス内に飛び込んでいたドイツ代表MFだったが、ゴール前でのフィニッシュのクオリティが覚醒。最終的にリーグ戦で13ゴールを決めてクラブ内の得点王に輝いた。

 シティ産の若手MFフォーデンの活躍も後半戦は目立った。昨季から美しいトラップなど技術面でのうまさは目立っていたが、今季からは抜群のターンで相手DFを突破していき強烈なミドルを放つなど、個人で対戦相手の脅威になっていた。他にもカンセロの台頭でやや序列を落としたカイル・ウォーカーの起用が重要な試合を中心に増え、衰えぬワールドクラスのフィジカルを生かした対人戦でシティの鉄壁の守備をさらに強固なものとした。

悲願達成のラストピースはエースストライカーの確保だ

悲願達成のラストピースはエースストライカーの確保だ

さまざまな戦術でチームの穴を埋め、戦術家としての株をまた上げた感のあるペップ。来季も的確な戦力補強をしたうえで、また新たな顔をみせてくれるはずだ photo/Getty Images

 チェルシー戦を機に調子を上げたシティは、1月末に行われた第20節で首位に立つとそのまま独走。蓋を開ければ例年通りの圧倒的な強さでリーグ優勝を決めたのだ。なお、カラバオカップも決勝戦でスパーズを1-0で破り4連覇を決めている。こう振り返ると今季のシティはトゥヘル率いるチェルシーに、4月中旬に行われたFAカップ準決勝(0-1)、5月初旬に行われたリーグ戦第35節(1-2)、そして5月末のチャンピオンズリーグ決勝(0-1)の3戦すべてで敗戦を喫してしまいやや悪い印象を残したものの、全体としてみれば良いシーズンだったと言える。むしろ初のCLファイナリストになったという意味では、大きな前進だと言えるだろう。

 さてそんなシティにとっての来季の目標は、今度こそCLの優勝を成し遂げることだろうか。その上での課題は明らかだ。今季限りでセルヒオ・アグエロが退団するので、彼に代わる絶対的なエースストライカーを獲得しなければならない。ガブリエウ・ジェズスも技術があり複数ポジションをこなす器用な選手だが、元々はウイングの選手であり典型的なストライカータイプではない。CL決勝ではチェルシーの堅守を崩しきれなかったが、そういう苦しい展開でゴールを強引にでも決めるワールドクラスの点取り屋が今のシティには必要だ。

 今季は悲願のCL優勝にギリギリ手が届かなかった。ただし本当にあと一歩のところまで来ているのも間違いない。ワールドクラスのストライカーというラストピースは埋まるのか。若手の台頭やエースの退団などすでにペップ体制での新章は始まっており、ファンが心の底から歓喜するシーズンに来季こそ期待したい。


※電子マガジンtheWORLD258号、6月15日配信の記事より転載

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