[水沼貴史]退屈とは無縁のリーズ・Uを今すぐ観るべき 王者リヴァプールもタジタジの“マンツーマン守備集団”が凄い

水沼貴史の欧蹴爛漫047

水沼貴史の欧蹴爛漫047

タイトな守備と、前線への果敢な抜け出しが特長のクリヒ(43番)。リヴァプール戦では3-3の同点に追いつくゴールを挙げた photo/Getty Images

サイドの数的優位を活かした、迫力満点の攻撃も

水沼貴史です。あっという間に夏のオフが過ぎ去り、2020-21シーズンの欧州主要リーグが始まりましたね。早速プレミアリーグの解説を担当させて頂きましたが、第1節で昨シーズンのリーグ王者リヴァプールを相手に善戦したリーズ・ユナイテッドのサッカーには驚かされました。名将マルセロ・ビエルサのもとで昨シーズンのEFLチャンピオンシップを首位で終え、17年ぶりにプレミアの舞台に戻ってきた彼ら。一体、どのようなサッカーでリヴァプールを苦しめたのでしょうか。

この試合を観ていて、ビエルサ監督の真骨頂であるマンツーマンディフェンスや、ハイプレスがチーム全体に浸透しきっているなと感じました。リーズは[4-1-4-1]という布陣を敷いていて、守備時にはジャック・ハリソンとエルデル・コスタの両サイドハーフがリヴァプールの両サイドバック(T・A・アーノルド、A・ロバートソン)に、両サイドバックのルーク・アイリングとスチュアート・ダラスがリヴァプールの両ウイングFW(M・サラー、S・マネ)に、そしてインサイドハーフのマテウシュ・クリヒとパブロ・エルナンデス、アンカーのカルビン・フィリップスの3人がリヴァプールの3セントラルMF(N・ケイタ、J・ヘンダーソン、G・ワイナルドゥム)にそれぞれマンマークで付いていました。スピードやフィジカル自慢の選手たちが揃っているリヴァプールを相手に、リーズの面々が臆することなくマンツーマンディフェンスやハイプレスで挑んだことには好感を持てましたし、リヴァプールの選手たちもマークをかい潜るのに苦労していたと私は思います。

かつてチリ代表やA・ビルバオなどを率い、リーズにも攻撃的なサッカーを植え付けたビエルサ監督 photo/Getty Images

サイドを起点とした分厚い攻めも、リヴァプールを相手に通用していましたね。興味深かったのは、左サイドでボールを保持した時には右インサイドハーフのP・エルナンデス、右サイドからの攻撃では左インサイドハーフのクリヒというように、逆サイドのインサイドハーフまでもがボールサイドに寄り、ボールホルダーのサポートやフィニッシュワークに絡んでいたことです。このインサイドハーフの動きが実を結んだのがリヴァプール戦の3点目の場面で、ここでは左インサイドハーフのクリヒが右サイドへ走り、H・コスタからのパスをペナルティエリア内で受けて同点ゴールを挙げました。中央突破はあまりせず、攻撃の起点は徹底してサイド。そしてボールサイドに惜しみなく人を寄せ、サイドの数的優位を確保しながら相手を押し込む。3点目の場面一つをとってもこのビエルサ監督の狙いが体現されていましたし、昨シーズンの王者と互角の打ち合いを演じたことは、3-4で敗れたとはいえ、プレミアに昇格したばかりのリーズの選手たちにとって自信に繋がるのではないでしょうか。勇猛果敢なマンツーマンディフェンスに、迫力満点のサイド攻撃。退屈とは無縁のサッカーですので、皆さんにはぜひ1年を通じてリーズの試合を観続けてほしいですね。

攻守両面でハードワークを怠らないリーズの選手たちも素晴らしいのですが、チリ代表やアスレティック・ビルバオをはじめ、就任した先々に漏れなくエキサイティングなサッカーを植え付けているビエルサ監督の手腕にも、脱帽のひと言です。リヴァプール戦でもテクニカルエリアから大声で指示を送り続けていましたが、ピッチ上での僅かな綻びや気の緩みも許さない姿勢であったり、彼のようにサッカーに対する情熱が常にほとばしっている監督は私自身好きですね。彼の妥協のなさであったり、自分の信念を曲げようとしないスタンスは運営面に関してもそうで、ビルバオを率いていた頃には練習場の改修工事が遅れたことに怒ってフロントと対立したり、2016年には選手獲得の約束が守られなかったという理由で、就任から僅か2日でラツィオの監督を辞任してしまいました。また突然の辞任劇が起きないうちに、今すぐリーズのサッカーを観ておいたほうが良いかもしれませんね(笑)。世界屈指の名将のもとで力をつけているリーズが、今シーズンのプレミアリーグでサプライズを起こしてくれることを密かに期待しているのですが!

ではでは、また次回お会いしましょう!


水沼貴史(みずぬま たかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。

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