今回のロシアワールドカップでベスト16入りを果たした日本代表のプレイは、攻撃的で見る者を魅了するものがあった。0‐1で敗北したポーランド代表戦を除けば、日本のパフォーマンスは日本人のみならず世界のサッカーファンが楽しめるスペクタクルあふれるものだったはずだ。そうした美しいプレイの一方で、ダーティーな部分が欠けていたのは少し気にかかる。
注目すべきはファウル数だ。グループステージ最終節を終えた段階で、日本のファウル数は28。これは出場32チーム中最も少ない数字で、今大会で1番フェアなチームだったと言えよう。ポーランド戦の時間稼ぎは議論を呼んでしまったが、ファウル数だけで見れば日本は非常にクリーンだ。しかし、ファウルが少ないことを素直に喜んでいいものなのか。
今大会ではFIFAランク上位チームが格下に苦戦するサプライズが何度も起きているが、たいていの格下チームはファウル覚悟で必死の守備を見せている。例えばドイツ代表を1‐0で撃破したメキシコ代表は90分間で16のファウルを犯し、ブラジル代表と1‐1で引き分けたスイス代表は19回、アルゼンチン代表を3‐0で一蹴したクロアチア代表は22回もファウルを犯している。それだけ激しい守備をしなければ、リオネル・メッシやネイマールなど世界トップレベルのタレントを抑え込むのは難しいということなのだろう。
その点日本のファウル数は少ない。90分間でファウルの数が二桁に達したのは11回を記録したポーランド戦のみで、2-2で引き分けたセネガル戦は8回、2-3で敗れたベルギー戦は9回だった。クリーンな戦い方といえば聞こえはいいが、複数失点しているのだからもっと激しく相手を削るべきではないか。ファウルをするのは良いことではないが、相手に危ないエリアへの侵入を許さない戦略的なファウルやカウンターの芽を摘むファウルは時として必要だ。
ベルギー戦では後半ATに日本のコーナーキックをキャッチしたGKティボ・クルトワから走り出したケビン・デ・ブライネにボールが渡り、一気にカウンターで決められてしまう場面があった。クルトワがキャッチした瞬間に日本の選手たちの集中が少し切れたところもあったが、クルトワがすぐ投げられないようイエローカード覚悟で妨害したり、走り出したデ・ブライネを待ち構えていた山口蛍が強引に潰す手もあった。この失点シーンは世界的にも大きな話題を呼んでおり、日本のクリーンすぎる対応には疑問もある。
ポーランド戦を除けば日本の戦い方は攻撃的で美しかったが、もう少しダーティーなところがあればセネガルやベルギー戦を勝利で終えることも不可能ではなかったのかもしれない。特にベルギー戦は先に2点を先行したこともあり、史上初のベスト8進出のみを目標にするならカード覚悟のプレイで必死に守るべきだったのかもしれない。そうしたところは日本に明らかに欠けている部分だ。
データサイト『WhoScored』の数字によれば、グループステージで日本に次いでファウルが少なかったのは29回のブラジル代表、スペイン代表、ドイツ代表だという。いずれも優勝候補に挙げられていたチームで、彼らは相手からファウルされる側のチームだ。その彼らよりも少ないファウル数を格下組の日本が記録しているのは奇妙でもある。日本はグループHを格下らしからぬ戦い方で突破し、ベルギー相手にも真っ向勝負を挑んでいたのだ。姿勢は素晴らしいが、よりデュエルの部分で相手に激しくぶつかっていくことも時には必要となる。今大会で起きてきたサプライズを見ると、上位国を撃破するにはファウル覚悟の守備が不可欠で、常にフェアな戦い方でアップセットを起こすのは難しい。戦略的なファ ウルをどう使っていくのか、これも日本の課題の1つだ。