なぜハリルホジッチは山口、井手口の起用にこだわるのか 変化するサッカー界のトレンド

日本代表を率いるハリルホジッチ監督 photo/Getty Images

人材育成で遅れる日本にハリルホジッチも苦悩

日本にとって初のW杯ベスト8進出もあり得るのではないか。そんな期待もあった4年前のブラジル大会と違い、現在ヴァイッド・ハリルホジッチが指揮する日本代表には不安の声の方が多い。その大きな原因の1つに、退屈なゲームが多いことが挙げられる。攻撃的なサッカーでアジアの戦いを支配し、親善試合ながらオランダ代表やベルギー代表を驚かせたザックジャパンのスタイルは見ていて楽しいものだったが、それに比べてハリルジャパンのサッカーは攻撃的ではない。日本で開催されたEAFF E-1フットボールチャンピオンシップ(東アジアカップ)でも格下の北朝鮮代表や中国代表相手にパスが思うように繋がらず、終盤の得点で何とか勝利を収める内容だった。アジアの格下相手に苦戦していてW杯本番で結果が出せるのかとサポーターが不満に思うのも無理はない。

では、なぜハリルホジッチは中盤にもっとテクニックのある選手を起用しないのか。W杯の予選を通してハリルホジッチが好んで起用してきたのは山口蛍、井手口陽介といった運動量や対人戦の強さを特長とした選手で、4年前の遠藤保仁のような司令塔タイプの選手を配置しないケースが多かった。日本では遠藤ロスといった言葉もあるが、遠藤ほどではなくとも中盤で攻撃を組み立てられる選手はJリーグにもいる。E-1フットボールチャンピオンシップにも召集されていた川崎フロンターレの大島僚太、浦和レッズの柏木陽介もクラブでは司令塔だ。彼らをアジアの戦いで起用していれば、日本はもっと後方から正確に攻撃を組み立てて魅力的なサッカーができたかもしれない。しかしハリルホジッチはそのやり方を好まなかった。それはハリルホジッチがポゼッションサッカーを毛嫌いしているというわけではなく、世界のトレンドを見極めたうえでの判断をしているからだ。

スペイン代表やバルセロナがポゼッションサッカーを武器に世界を支配した際、それほど体格の変わらない日本人でも同じようなスタイルを目指せば世界と戦えるのではないかとの期待感が広がった。確かに当時は世界でもポゼッションに注目が集まり、メディアもポゼッション率に異常にこだわるようになった。しかし、現在はそれほどポゼッション率にこだわるチームは存在せず、それよりも攻守の切り替えを極限まで速くしたスタイルが主流となりつつある。ポゼッションサッカーに対抗するための1つの術とも言えるが、中盤でのボール奪取力を高めて素早く縦に展開していくやり方を好むチームが増えてきているのだ。

それこそ数年前はシャビ・エルナンデス、アンドレア・ピルロのように1本のパスで全てを変えられる選手が中盤の底にいることも多かったが、現代ではこうしたタイプの選手が求められなくなってきている。今世界がボランチ、あるいはインサイドハーフの選手に求めているのは豊富な運動量、スピード、1対1に負けない強さだ。これが最低限のベースとなり、そのうえでシンプルに味方へボールを繋げられる選手が好まれている。チェルシーのエンゴロ・カンテ、レアル・マドリードのカゼミロら守備的なMFにスポットが当たるようになったのもトレンドが関係している。

11月の欧州遠征で日本が対戦したブラジル代表も中盤にはカゼミロとマンチェスター・シティのフェルナンジーニョを起用していた。彼らは攻撃面に特別なビジョンは持っていないが、とにかくデュエルに強い。運動量もあり、なおかつ相手にプレスを受けてもシンプルにパスを繋ぐことくらいはできる。シャビやピルロ、日本でいうなら遠藤保仁のような選手は、パスこそ得意でもスピードや守備の1対1の強さ、パワーなど欠点を抱えていた。現代では一芸に秀でた選手より、欠点の少ない選手が好まれる傾向にあるわけだ。恐らくはハリルホジッチもこの流れを読み、日本がW杯で世界の強豪と互角の勝負に持ち込むためには攻守の切り替えの速度や中盤のデュエルで負けるわけにはいかないとの考えがあるのだろう。山口や井手口は日本人選手の中ではデュエルを得意としており、運動量も豊富だ。この点では世界が求める最低限の条件はクリアしている。しかし残念なのは、日本の選手には欠点があることだ。

山口、井手口はボール奪取こそ上手いが、トップレベルの相手にプレスをかけられると正確にパスを繋げなくなってしまう。そのため気付けば防戦一方になっているケースがあり、ハリルホジッチのサッカーが自陣に引きこもっての堅守速攻と捉えられる原因になっている。一方で柏木、大島はプレスをかわすだけの技術、パスセンスを持ち合わせているが、彼らは守備の1対1は専門外だ。少なくともW杯で強豪相手に渡り合えるデュエルの強さではない。これは欧州遠征に召集されなかった香川真司にも言えることだ。香川はより前で活きる選手だが、今の日本のシステムではインサイドハーフに入るしかない。そこでの攻守の切り替えの速度、守備のデュエルの強さには疑問があり、 防戦一方の展開となった場合香川の良さを100%引き出せなくなる。それでは香川を起用する意味がない。

ハリルホジッチが欲しいのは、バイエルンに所属するチリ代表MFアルトゥーロ・ビダルや、ローマ所属のベルギー代表MFラジャ・ナインゴランのような選手だろう。彼らは運動量が抜群でデュエルに負けることも滅多になく、足下の技術も正確だ。強烈なミドルシュートも持っており、目立った弱点が存在しない。まさに世界が求める理想的な選手だが、このような選手は日本に存在しない。そこにハリルホジッチの悩みがあり、起用する選手によって攻撃的か守備的かが極端に分かれてしまうのだ。恐らく今も日本がポゼッションサッカーを志向していれば、アジアでの戦いには楽に勝てるだろう。しかし世界の強豪国はすでにそうしたサッカーへの対策をおこなっており、中盤で的確に潰してくる。しかも攻守の切り替えが非常に速いため、日本がカウンターを喰らう姿は容易に想像できる。

「ボールを奪ったら素早く縦に」というハリルホジッチのキーワードが悪い方向に受け取られているが、これは世界から見れば当然のことだ。ポゼッションサッカーで世界に革命を起こした現マンチェスター・シティ指揮官ジョゼップ・グアルディオラも、現在は当時よりも縦に素早くボールを入れるケースを増やしている。ポゼッションの概念は大切にしつつ、攻守の切り替えの速度を極限まで高めるトレンドに合わせているのだ。縦に素早く展開するハリルホジッチの理想に問題があるのではなく、それに日本の選手が応えられないところに問題がある。つまり人材育成の面において日本は世界のトレンドから遅れてしまっているのだ。

日本人には向いてないの一言で片づけるのではなく、将来的に日本がW杯で上位を狙うなら球際の強さや守備力、速攻の精度は確実に上げなければならない。もしかするとロシアでは思うような結果が出ないかもしれないが、ハリルホジッチは日本サッカーのレベル向上のために必要な新たな概念を植え付けようとしてくれている。ポゼッションサッカーのみを正義と考えるのではなく、もう少し幅広い視点で捉える必要があるだろう。
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