【ハリルジャパンの此れまで・此れから #1】方向性の変化や世代交代を経て 選手層の厚さで6大会連続W杯へ

アンダー代表の活動もあり世代交代がスムーズに進まず

アンダー代表の活動もあり世代交代がスムーズに進まず

6大会連続W杯出場を決めた日本代表。予選突破への道のりは決して平坦ではなかった photo/Getty Images

6大会連続のW杯出場を決めた日本代表にとって、アジア最終予選は本当に厳しい戦いの連続だった。初戦のUAE(1-2/16年9月1日)とのホームゲームに敗れたことが尾を引き、チーム内に張りつめた雰囲気が漂うなか戦い続けた。

「最終予選は初戦のUAEに負けてから、ひとつも負けられない戦いが続いた。本当にヒリヒリするような戦いで、最後の最後に決勝点を取って勝った試合があれば(2-1イラク/16年10月6日)、アウェイのUAE戦(2-0/17年3月23日)は絶対に落とせない状況でした」(長谷部誠)

苦戦を強いられた要因は、いくつか挙げられる。サウジ、UAE、タイといったここ数年低迷していた国々の実力が向上し、それぞれ完成度の高いチームに仕上がっていた。対して、日本代表は4年前のブラジルW杯での敗戦を受けて新たな方向性を打ち出して強化を進めており、チーム作りで遅れを取っていた。

4年前の敗戦について詳細は記さないが、信念を持って己のスタイルを貫いて戦いを挑むもグループリーグ敗退という結果に終わっていた。というより、真の実力さえ発揮できずに大会を去っている。日本サッカー協会(JFA)はその後をハビエル・アギーレ監督に託すも、ブラジルW杯の中心メンバーで戦った15年1月のアジアカップでベスト4に入れず敗退した。そして、八百長疑惑もあってアギーレ監督は解任され、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が後を継ぐことになった。

ハリルホジッチ監督は当初、ブラジルW杯を戦った選手たち、海外でプレイする国際経験が豊富な選手たちに信頼を寄せていた。しかし、W杯アジア2次予選のシンガポール戦(15年6月16日)に0-0で引き分けたことで、いきなり躓いてしまった。

2次予選のシンガポール戦(写真)に0-0。最終予選ではUAEに1-2で敗れるなど苦戦の連続だった photo/Getty Images

「W杯予選に楽な試合はないが、多くの人が勝つと思っていただろう。少し分析しないといけない」

これは、シンガポール戦を終えたあとのハリルホジッチ監督の言葉である。海外でプレイする選手たちは、間違いなく質が高い。しかし、所属チームで試合に出ていなければコンディションに問題があるし、日本への長距離移動も負担となる。また、以前は正確にパスをつないで攻撃をビルドアップするポゼッションサッカーを指向し、継続的に強化することで一定の組織力が身についていた。チームとしての“カタチ”があることで短期間の準備でも完成度の高いサッカーが実現できていた。

対して、ハリルホジッチ監督は就任当初から「個」が強くなることを求めており、デュエルという言葉を使って各選手に競り合いに強くなること、メンタル的に強くなることを求めていた。また、ボールを奪ったら素早く縦につなぐことも要求しており、選手たちはこうした変化に対応しようとしたが、新たな戦術をピッチで体現するには準備時間が足りなかったし、対戦相手もそれを簡単には許してくれなかった。

海外組のコンディションが悪くチームとしてベストの力を発揮できないなら、Jリーグで良いパフォーマンスを見せている選手を呼べばいい。これは当然の考えで、ハリルホジッチ監督も15年5月に行なわれた代表合宿の際に「競争意識を高めるためにも、できるだけ多くの国内組にA代表に入ってほしい」と語っていた。しかし、同年8月の東アジア杯に国内組で臨み、北朝鮮、韓国、中国と対戦して2分け1敗に終わったことで選手の入れ替えがスムーズに進まなかった。

16年8月にはリオ五輪があり、出場資格を持つ選手はU-23代表の活動が優先されることもあった。現在のサッカー界はアンダー代表の大会も多く、日程がかなり過密で日本代表と活動時期が重なることもある。有能な選手は積極的に日本代表で経験を積ませるべきだが、一方ではアンダー代表での経験も大事という考え方もある。こうした事情もあり、日本代表は世代交代が遅れて16年9月からスタートした最終予選で苦戦することとなった。

「個」の力で「組織」を圧倒新たな選手の台頭が期待される

「個」の力で「組織」を圧倒新たな選手の台頭が期待される

日本代表をW杯に導いた立役者のひとりである久保。彼の加入で攻撃が活性化された photo/Getty Images

最終予選の戦いは多くの人の記憶に残っているだろう。選手たちが万全のコンディションではなく、チームとしても未成熟のまま戦ったUAEとの初戦に敗れ、過度のプレッシャーを背負ってその後の試合を戦うことになった。続くアウェイでのタイ戦(2-0/16年9月6日)では勝点3を得たが、チームとして機能したわけではなく、何度か危ない場面を迎える不安定な戦いのすえの勝利だった。

このタイ戦に限らず、最終予選中の日本代表は相手よりもチームの完成度、組織力では劣っていると感じる試合がいくつかあった。サウジ(2-1/16年11月15日)、タイ(4-0/17年3月28日)とのホームゲームはスコアとは裏腹に相手のチームとしてのまとまり、完成度の高さが伝わってくる一戦で、「組織」で挑んできた相手を「個」の力で強引にねじ伏せた勝利だった。

大迫勇也、原口元気、久保裕也、昌子源、井手口陽介......。ハリルホジッチ監督が彼らの起用に踏み切り、なおかつその期待に応える選手たちの活躍がなかったなら、日本代表のW杯出場は途絶えていただろう。大迫は前線で身体を張ってボールをキープし、カウンターの起点となった。原口のキレとスピードのあるパワフルな仕掛けはどの国のDFも止められなかったし、久保も積極的に勝負を挑み、自らフィニッシュするプレイが目立った。昌子、井手口も終盤のイラク戦(17年6月13日)、オーストラリア戦(17年8月31日 )というプレッシャーのかかる試合で起用され、落ち着いたプレイで勝利に貢献した。

チーム内に競争をもたらした乾と井手口。彼らのような新戦力の台頭が期待される photo/Getty Images

最終予選のなかばごろは、世代交代が間に合わないかもと考えられた。日本代表の長所だった組織力が低下し、経験ある選手たちもコンディションが整わずなかなか「個」の力を発揮できなかった。変わって日本代表を救ったのがここに名前を挙げた若い選手たち、さらには今野泰幸、乾貴士といったコンディションの良さを評価されて招集された選手たちで、その時々の「個」の力、選手層の厚さで勝ち抜いた最終予選だった。

選手層の厚さは、そのまま競争につながっている。「左サイドはすごくいい選手が多いので、激しい争いのなかで自分の良さを出していかないといけないです。危機感があるというか、自分が呼ばれなくても仕方ない選手が揃っています。全員のことを認めています。だからこそ、呼ばれたときにしっかりプレイしないといけないです」とは乾であり、「競争はすごくウェルカム。W杯に向けて新しい選手がいま出場している選手のポジションを奪うぐらいの争いがあれば、チームのプラスになります。ボク自身、サウサンプトンでそれを実感しています」と語るのは吉田麻也である。

本大会まではあと9か月で、ハリルホジッチ監督はチームの組織力を高めるというより、対戦相手に応じて戦術をチョイスし、状況に適したそのときのベストの選手を選ぶという方法で強化を進めているが、アジア最終予選で苦戦したいまの状況ではW杯本大会で勝利を望むのは難しいだろう。求められるのはさらなる「個」の成長で、選手一人一人のレベルアップがチームの完成度を高めることになる。あるいは、吉田が語るとおり、より良質な選手の出現によってチーム力がアップすることになる。

そう考えると、多くの選手に日本代表入りのチャンスがある。というより、間違いなくハリルホジッチ監督は求めている。戦術の幅を広げ、勝利の可能性を高めてくれる新たな選手の台頭を──。

文/飯塚 健司

サッカー専門誌記者を経て、2000年に独立。日本代表を追い続け、W杯は98年より5大会連続取材中。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。サンケイスポーツで「飯塚健司の儲カルチョ」を連載中。美術検定3級。

theWORLD190号 2017年9月23日配信の記事より転載

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