[PREMIER英雄列伝 #11]ジェラードが認めた男 X・アロンソは卓越した戦術眼と優美なパススキルでリヴァプールを支えた

GKの立ち位置を見極め、およそ70メートルの一撃

GKの立ち位置を見極め、およそ70メートルの一撃

戦いの場をイングランドへ移した当時はまだ22歳と若かったが、キックの精度や判断力はすでにリーグトップクラスだった photo/Getty Images

 歴代最強は人選が難しい。

 なぜなら、ジェネレーション・ギャップが障壁になるからだ。わたしと同世代はペレの全盛期を知らず、ヨハン・クライフに胸をときめかせる者が少なくなかった。

 しかし、いまやペレ、クライフ、ミシェル・プラティニは極薄のセピア色になり、ディエゴ・マラドーナでさえ「リオネル・メッシより凄かったなんて信じられない」といわれる時代だ。10年後、メッシも色褪せるのだとしたらゾッとする。

 また、マンチェスター・ユナイテッドの歴代最強GKとしてピーター・シュマイケルが多く支持されるが、個人的にはエトヴィン・ファン・デル・サールだ。安定感は雲泥の差といって差し支えない。

 さて、リヴァプールの人選も気絶するほど悩ましい。フィルジル・ファン・ダイク、モハメド・サラー、トレント・アレクサンダー・アーノルド、アンディ・ロバートソンといった現役を選ぶか、あるいはケニー・ダルグリッシュ、イアン・ラッシュ、アラン・ハンセンなどのレジェンドをリスペクトするのか。ディルク・カイトも決して忘れてはいけない。

 しかし、スティーブン・ジェラードだけは投票率100%だ。彼をしのぐ中盤センターは存在しない。そして、この男と阿吽の呼吸で中盤を支えたのが、シャビ・アロンソである。

 2004年夏、レアル・ソシエダからリヴァプールに移籍。卓越した戦術眼と優美なパススキルで、たちまちサポーターの心をつかんだ。ジェラードが攻撃参加したあとのスペースを素早く埋め、セカンドボールをダイレクトでさばく技術により、リヴァプールは断続的な攻撃が可能になった。

 X・アロンソ自身も印象的なゴールが多く、フラムでプレイしていた当時のファン・デル・サール(前出)が一歩も動けなかった直接FK、サンダーランドとのFAカップでは前に出すぎたGKの立ち位置を見極め、およそ70メートルにおよぶロングショット。精度の高いキックも魅力のひとつだった。

論破されたベニテスはあまりにも愚かだった

論破されたベニテスはあまりにも愚かだった

正確無比なキックで攻撃の起点となるだけでなく、卓越した危機察知能力で守備面でも貢献 photo/Getty Images

 転機が訪れたのは08年のことだった、ラファエル・ベニテス監督(当時)が、なぜかガレス・バリーの獲得に動いたのである。X・アロンソとジェラードに加え、ハビエル・マスチェラーノとルーカス・レイバまで擁していた中盤に、もうひとり加える必要性はまったくなかったのだが……。

 一説によると、ベニテスはX・アロンソが疎ましかったという。決して従順ではなく、戦略・戦術に関する質問を次々にぶつけてくるため、厄介な選手との印象を抱いたそうだ。しかもX・アロンソは、自他ともに認める理論派である。ベニテスは何回か論破された、と後に伝えられるほどだった。

 ちなみにジェラードは自叙伝の中で、「俺のベストパートナーはシャビ以外にない。彼を手放したベニテスはあまりにも愚かだった」と記している。

 翌年、X・アロンソはレアル・マドリードに去っていった。中盤の要を失ったリヴァプールは、前年の2位から7位に後退している。ベニテスのミスは明らかだ。

ジェラード体制発足時にアシスタントコーチへ!?

ジェラード体制発足時にアシスタントコーチへ!?

加入1年目の2004-05シーズンには欧州制覇を成し遂げた photo/Getty Images

 ユルゲン・クロップ監督就任から8年、リヴァプールは素晴らしい時間を過ごしている。2021-22シーズンはFAカップとリーグカップの二冠に終わったものの、最終盤までCLとプレミアリーグを含めた四冠の可能性を残していたのだから、クラブ史上最強の呼び声が非常に高いのは当然だ。

 だが、永遠の時間は存在しない。クロップも現行の契約が切れる26年6月でリヴァプールを離れるだろう。当然、後任を選ぶことになり、クロップは「ジェラードがベスト」と明言している。

 サポーター間でも異論はないはずだ。現役時代の実績にこだわるごく一部のOBも、ジェラード監督なら快哉を叫ぶに違いない。

 そのとき、アシスタントとしてX・アロンソを招聘できないだろうか。彼の理論とジェラードの情熱がミックスすれば鬼に金棒だ。ともにリスペクトする間柄であるため、不毛な権力争いが引き起こされる危険はほとんどない。

 17年に引退した後、レアル・マドリードU-14の監督を経て、19年から指揮するR・ソシエダのBチームを3部から2部に引き上げた。現役時代の経験を軸とする懇切丁寧な指導は各方面で高く評価され、引く手数多だという。古巣レアルやバイエルンの次期監督候補に挙げられ、ボルシア・メンヘングラードバッハと交渉成立なる情報が飛び交ったこともあった。カタール・ワールドカップ終了後、スペイン代表のコーチングスタッフに、ともいわれるほどだ。

 これほどの男を放っておくわけにはいかない。ジェラードみずから出馬し、X・アロンソを口説き落とす。これがアフター・クロップの最善策だ。

 2000年代中期、アンフィールドを興奮のるつぼに巻き込んだ名コンビが、監督、コーチとして帰ってくる。

 素敵なシナリオじゃないか。

文/粕谷 秀樹

※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)271号、7月15日配信の記事より転載

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