鎌田なら何かやってくれる フランクフルトがバルサから大金星を奪うためには[水沼貴史]

水沼貴史の欧蹴爛漫065

水沼貴史の欧蹴爛漫065

バルセロナへの移籍で調子を上げているオバメヤン photo/Getty Images

粘り強い守備とハードワークを

水沼貴史です。早いもので、2021-22シーズンもさまざまな欧州のコンペティションが佳境に入ろうとしていますね。見逃せない試合が多い中で、私が注目しているのはヨーロッパリーグ準々決勝で対戦することとなったフランクフルトとバルセロナの一戦です。日本人選手がプレイしていることもありますし、今回はせっかくですからフランクフルト目線でこの注目の一戦に関して少しお話ししたいと思います。

まずは両チームの現状ですが、フランクフルトはちょっと連敗があった中で、3月に入って持ち直しつつあります。完全な持ち直しではないかもしれませんが、だいぶ良くなってきていて、今は公式戦5試合負けなしです。得点こそできませんでしたが、先日行われたブンデスリーガ第27節では、ライプツィヒを相手に久しぶりのクリーンシート。現状を見るに、ポジティブな要素は多い印象です。

一方のバルセロナですが、ここにきてだいぶ整理されてきて、チームとして本当に良くなっているんじゃないでしょうか。昨夏にチームの大黒柱であったリオネル・メッシとの予想だにしない別れがあり、シーズンのスタートこそ苦しい試合が多くありました。しかし、昨年11月にシャビが指揮官に就任すると、一気に調子を上げていき、ここ最近は10試合以上負けなし。3月22日に行われたレアル・マドリードとのエル・クラシコでも、アウェイながら4-0の大勝をおさめています。
中でも、FWピエール・エメリク・オバメヤンが素晴らしい。アーセナルではやや苦戦を強いられた彼ですが、今冬の移籍を機に心機一転。得点を取り始めていますし、彼の本来の良さが出てきているように思います。ドルトムント時代に同僚であっただけあって、FWウスマン・デンベレとの相性も良いですしね。オバメヤン自身にとっても、バルセロナにとっても、良い移籍だったと思います。

ブンデスリーガ第27節のライプツィヒ戦ではこれまでと違った形を見せたフランクフルト photo/Getty Images

では本題に入りましょう。この好調なバルセロナから大金星を手にするために、フランクフルトはEL準々決勝でどうするべきか。やはり一番は守備を考えなければならないと思います。普段はMF鎌田大地とMFイェスパー・リンドストロムが2シャドーに入る[3-4-2-1]のような形のフランクフルトですが、この間のライプツィヒ戦では、うしろ重心の[3-5-2]のような形。鎌田のポジションを少し下げ、MFクリスティアン・ヤキッチ、MFセバスティアン・ローデ、鎌田で中盤の中央に逆三角形を作る3ボランチのような形でプレイさせていました。鎌田は守備のタスクを多く課され、前に出ていく時間をなかなか作れなかったかもしれませんが、チームの守備面の強度はアップ。個人的には少し面白いなと思って見ていました。強豪クラブを相手にこのような布陣を敷くのもありだと思いますし、もしかしたらバルセロナ戦も同じような戦いをするかもしれません。

ベティスとのベスト16では、2戦目の終了間際の失点で延長戦へもつれ込むこととなりましたが、延長後半ATに相手のオウンゴールを誘発し、執念の勝利。フランクフルトはここまで粘り強い戦いを披露してきていますし、ヨーロッパリーグに対しての勢いも持っていると思います。対戦カード的に「バルセロナにあたってしまった」と思うか、「バルセロナとやれる」と思うかでは全然違います。ただ、フランクフルトはグラスナー監督のもとで強豪相手にも臆さず、ハードワークも惜しまないチームになっており、走行距離はなんとブンデスリーガで2位。その結果、先日のライプツィヒ戦以外にも、今季はバイエルンから白星を奪ったり、ドルトムントと接戦を繰り広げたりしています。粘り強い守備とハードワークで、バルセロナ相手にも波乱を起こす、面白い試合をする可能性は十分にあるのではないですかね。

今冬にドルトムントからレンタルで加入し、存在感を発揮するクナウフ photo/Getty Images

攻撃のキーは右サイドと鎌田を含めた中央の3枚

ただ、ノックアウトステージということもあり、どこかでせめて1点が欲しいのも事実。では、フランクフルトは攻撃面においてはどうすべきなのか。キーマンは何名かいると思いますが、ひとりは今冬にドルトムントからレンタルで加入した現在20歳のMFアンスガー・クナウフ。このドイツの各年代代表でプレイしてきた若き逸材が右ウイングバックに入ることで右サイドが非常に安定し、ここ最近調子を上げているチームの戦績に直結していると思います。これまでは左サイドのMFフィリップ・コスティッチばかりに目が行きがちのフランクフルトでしたが、今は左サイドを抑えられても右サイドから仕掛けられる。MFティモシー・チャンドラーやDFダニー・ダ・コスタを右サイドに入れて守備的にいくだけでなく、クナウフを入れて攻撃的にいくこともできる。これは一つ大きなポイントで、両ワイドはチームのストロングポイントになるのではないでしょうか。

あとは中盤の真ん中にいる鎌田、リンドストロム、前線にいるラファエル・ボレの3枚。彼らが相手に捕まらない立ち位置をどんどん取っていき、相手を掻き回して困惑させる。そうやって流動的に動くことができれば、バルセロナが嫌がることができると思います。相手にボールを握られる時間帯が多いことが予想され、バルセロナを相手に中央のラインでバトルをするのは大変だと思いますが、頑張ってもらいたいです。

ベティス戦の1stレグを含めて、ここまでELで4ゴールを記録している鎌田 photo/Getty Images

鎌田に関しては、リンドストロムとの関係性も良くなってきていますし、確実に調子が上がってきているのが見て取れます。特にELではここまで4ゴールを挙げ、得点ランクで4位タイ。19-20シーズンのELでアーセナルを相手に2ゴールを挙げたり、ザルツブルク戦でハットトリックを達成したり、欧州舞台を得意とする印象があります。さらに、ブンデスリーガを見てもビッグクラブを相手に数字を残すなど、大一番に強い印象もあるだけに期待は大きいです。バルセロナ戦ではチャンスは決して多くないかもしれませんが、少ないチャンスをモノにしてもらいたい。前線の選手たちが流動的に動くことで多少なりともスペースは生まれると思いますし、鎌田はちょっとしたスペースを突くのが上手い選手ですので、そういったプレイで見てる人をワクワクさせてもらいたいです。近年はステップアップも期待されてきた鎌田だけに、このバルセロナ戦は本人にとっても未来を切り開く大きなチャンスなのではないでしょうか。

また、長谷部に関しては、直近の試合を見てみると出場はやや厳しいかもしれません。ただ、こういった大舞台では長谷部の豊富な経験はピッチ内外で重要になるはずです。そして、もしピッチに立つことになったとしても、スピードのある選手が多いバルセロナを相手に確かに身体的な面は少しハンデになるかもしれませんが、長谷部の周りを動かす能力はチームにとって大きなアドバンテージになると思います。バルセロナから大金星を奪うために、彼の力が必要となる時が来るかもしれませんね。

18-19シーズンにベスト4でチェルシーと激闘を繰り広げるなど、近年のヨーロッパリーグで力を発揮してきたこともあり、今季こそ是が非でもほしいタイトルだと思っているでしょう。ホームで戦ってからアウェイのカンプ・ノウへ乗り込むという、日程的には難しいところもあります。しかし、ここまでのELでの戦いや最近のリーグ戦を見ていると、フランクフルトは粘り強い戦いができていますし、何かやってくれそうな気がします。

それでは、また次回お会いしましょう!

※日程(日本時間)

EL準々決勝・1stレグ 4月7日 28:00 フランクフルト×バルセロナ
EL準々決勝・2ndレグ 4月14日 28:00 バルセロナ×フランクフルト

水沼貴史(みずぬま たかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。YouTubeチャンネル『蹴球メガネーズ』などを通じ、幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている

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