4名もの日本人選手が同じ海外クラブでプレイするなんて セルティックで輝くサムライ・カルテット[水沼貴史]

水沼貴史の欧蹴爛漫063

水沼貴史の欧蹴爛漫063

スコットランドで存在感を発揮する古橋 photo/Getty Images

前半戦で抜群のインパクトを残した古橋

水沼貴史です。今年も冬の移籍市場で、さまざまな日本人選手が戦いの場を欧州へと移しています。その中で前田大然、井手口陽介、旗手怜央の3名が一挙にセルティックへ移籍しました。昨夏に加入していた古橋亨梧を含めると、4名もの選手がスコットランドの名門クラブでプレイすることとなったのです。これは本当に凄いことだと思います。そこで今回は、セルティックでプレイするこの4名の選手にフォーカスしたいと思います。

もちろん、4名もの日本人選手がセルティックでプレイすることとなった背景には、昨年6月まで横浜F・マリノスで指揮を執っていたアンジェ・ポステコグルー(現セルティック監督)の存在があるでしょう。彼は日本人のことをよく理解していますし、獲得した日本人選手がチームにどのような影響をもたらすのか計算できていたはずです。ただ、彼が指揮官になるだけではこのような状況にはなり得ない。セルティックでは「中村俊輔がプレイしていた」という大前提もありますが、日本人のポテンシャルというものが欧州で認められてきた、それだけの選手が育ってきたという証拠でもあるでしょう。

そのような中で、一足先に加入していた古橋が今季前半戦で素晴らしい結果を残しました。また、冬の「一挙3選手獲得」に対して議論はあったかもしれませんが、彼らもデビューからわずか数試合のプレイでその不安を払拭して見せた。ポステコグルーは、周りの選手やセルティックサポーター、スコットランドリーグに関わる人たちに「ほらね!」「日本人選手はこれだけできるんだよ」と思っていたかもしれませんね。
ここからは個々の選手に触れていきたいと思います。まずは古橋ですが、ここまで公式戦26試合に出場し、16ゴール5アシストの大活躍。現在は負傷離脱していますが、抜群のインパクトを残しました。ポステコグルーのサッカーがスピードタイプを重宝することもありますが、それにしても素晴らしい活躍と思います。そして、古橋は得意のスピードを活かしたプレイだけでなく、ボールの受け方やボールを受けるまでの駆け引きにも磨きをかけており、全ての面に大きな成長を感じられます。フィニッシュワークを含めて、さまざまな能力がスコットランドで証明できていますね。

ただ、古橋のここまでの道のりは決して順風満帆ではなかったかもしれません。高校卒業後は中央大学へ進学し、プロ生活が始まったもの日本のトップリーグではなく、J2のFC岐阜でした。そこからヴィッセル神戸へ移籍し、日本代表にも選ばれ、どんどんステップアップしている過程を見ると、彼の努力による伸びしろが凄まじい。古橋の吸収力や成長スピードの凄さは、あちらこちらで耳にしますし、上のステップへ行ってもしっかりと順応して、それをさらに超えてやろうという気持ちも感じられます。岐阜時代の恩師である大木武(現ロアッソ熊本監督)、ヴィッセル時代には世界的プレイヤーでもあるアンドレス・イニエスタやダビド・ビジャ……。さまざまな人と出会い、影響を受け、それらをしっかり吸収することで、今へと繋がっているのだと思います。まずは怪我をしっかり治すことが大事ではありますが、今後はさらに結果を残し、まだまだステップアップしていってほしいですね。

デビュー戦で早速結果を残した前田 photo/Getty Images

2度目の海外挑戦となる前田と井手口

次に大然に関してですが、彼も古橋と同じくスピードタイプの選手です。ポステコグルーとは横浜FMで一緒に仕事をしていますし、監督のことは一番よくわかっている選手かもしれません。実際にデビュー戦では、わずか4分でゴールを決め、すぐさま指揮官の期待に応えて見せました。

移籍後初ゴールやカップ戦で見せたダイビングヘッドもそうでしたが、今は縦へのスピードだけでなく、横からのボールに対してのプレイが一段と上手くなっている印象があります。今まで以上に予測してポジションを取れるようになってきていて、密集したゴール前でも一瞬のスピードでフリーとなり、クロスに合わせる。横浜FM時代も進化していっているのが見てとれましたが、より一層「ポイント」を見つけるのが上手くなっているように思います。横浜FMで大然と同僚であった息子の宏太も、以前から「大然はクロスに対しての練習をものすごく頑張っている」と言っていましたよ。日ごろの努力が結果に結びつき、自信にもなってきているんじゃないですかね。

また、大然は今回の移籍が自身にとって2度目の海外挑戦です。1度目のポルトガルとは言葉も違い、環境が大きく異なるのではっきりとしたことは言えませんが、「海外挑戦」といった大きな括りで考えると、海外に対する拒否反応的なものはなかったのではないでしょうか。前回との大きな違いは、しっかり日本国内で結果・実績を残して海外へチャレンジしていること。昨年のJ1得点王に輝いたことで、大きく自信をつけたと思いますし、若さと勢いで海外へ行った前回とは全然違うメンタリティだと思います。スコットランドでさらに進化していくことを期待しています。

2度目の海外挑戦で飛躍が期待される井手口 photo/Getty Images

そして、大然と同様に井手口も2度目の海外挑戦となります。2018年から約1年半の1度目の海外挑戦では、怪我にも泣かされ、思うような結果を残せませんでした。その後、ガンバ大阪への復帰を果たしましたが、日本へ戻ってきてからすごく良かったかと言われれば、まだまだそうではないかもしれません。昨年は苦しいチーム状況などもあり、山本悠樹など若手にポジションを奪われることもありましたからね。もしかしたら、完全に復調して海外に再チャレンジという形ではないかもしれません。ただ、1度目の海外挑戦のときもそうだったと思いますが、彼はチャレンジすることが好きなんだと思います。宇佐美貴史らを見てもわかるとおり、ガンバ育ちの選手たちはチャレンジ精神が旺盛ですし、今回もそういった思いで海外へ行っているんじゃないですかね。

それに、自分プレイを評価してくれている、理解してくれている監督がいる。これも大きいと思います。ポステコグルーから見て、いろんなところに顔を出す井手口の献身性や豊富な運動量、プレイスタイルは、横浜FM時代の喜田拓也あたりと姿が重なり、もしかしたらイメージしやすかったのではないかと思いました。一方の井手口も、ポステコグルーがもしマリノスで行っていたようなスタイルをセルティックでも行うのであれば、自分はこういったプレイができるというイメージを持って今回の移籍を決断したはずです。ポステコグルーのもとでプレイしやすいのではないでしょうか。

デビュー戦でMOM、2戦目で初得点と素晴らしいスタートを切った旗手 photo/Getty Images

最高のデビューを飾った旗手

最後に旗手です。デビュー戦は「最高」の一言に尽きると思います。あれだけボールに絡んで、あれだけパスが出せて、守備面でも必死に走って戻って奮闘して……。普通、デビュー戦であれほどのプレイはできないと思います。本当にすごかったです。旗手の特長といえば、サイドバックからウイングまでどんなポジションもこなせること。しかし、セルティックにおいてはデビュー戦でプレイしたインサイドハーフがものすごく合っていると思います。前にも後ろにも絡むことができますからね。

そして、彼は技術的なところとか、元々前線の選手なのでフィニッシュのところとか、アタッキングサードでのクオリティとか、当然素晴らしいものを持っていると思っています。ただ、私が以前から旗手のプレイで一番評価しているのは、目の前の選手にうまく繋げていく役割ができること。これが最高に素晴らしいんです。サポートを決してサボらないし、目の前の選手を助けるプレイや生かすためのポジションも取れます。守備になったときには周りの選手がチャレンジできるように横でカバーしたり、一緒に相手を挟み込んだり、本当に人のためにプレイできる素晴らしい選手なのです。まるでマンチェスター・シティのベルナルド・シウバ、パリ・サンジェルマンのマルコ・ヴェッラッティのよう。簡単に言ってしまいたくないほどの献身性だと思います。現在のセルティックにはこれが欠けていたのではかと思えるほど、デビュー戦の彼の存在は大きかったです。なので、周りからの信頼はすぐに掴めると思います。いや、もう掴んでいるのではないですかね。

フロンターレでは、田中碧や三笘薫といった同世代の仲間たちが海外挑戦を決断する中でチームに残ったり、チームを想って試合後に涙を流したり、責任感の強さや背中でチームを引っ張っていく姿なども見られました。その気持ちが早くもスコットランドでもプレイにあらわれていますし、もしかしたらサポーターたちも「コイツすげえな!」「こんだけチームのためにやってくれる選手なんだ」って思ったかもしれません。みんなの心を掴む選手だと思います。

さらに、デビュー2戦目のハーツ戦では、目の覚めるような豪快なシュートで移籍後初ゴールも記録し、勝利に貢献しました。Jリーグでのプレイを見ていれば分かるとおり、旗手は数字にもこだわる選手だと思います。今後も数字を残していくことができれば、さらにビッグな選手になるのではないでしょうか。

スコットランドリーグはすでに3分の2を消化しており、セルティックは現在、首位レンジャーズと勝ち点差「2」の2位です。そんな中で、2月2日にはレンジャーズとの直接対決も控えています。代表活動や怪我の影響により、この頂上決戦は旗手のみの出場になるかもしれませんが、今季終盤戦のこの2強争いにおいて、彼ら日本人選手たちにはチームに勢いをもたらすようなプレイを見せてもらいたいです。チームを逆転優勝へ導くような活躍を見せてもらいたいです。

それでは、また次回お会いしましょう!


水沼貴史(みずぬま たかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。YouTubeチャンネル『蹴球メガネーズ』などを通じ、幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。

記事一覧(新着順)

電子マガジン「ザ・ワールド」No.292 最強ボランチは誰だ

雑誌の詳細を見る

注目キーワード

CATEGORY:連載

注目タグ一覧

人気記事ランキング

LIFESTYLE

INFORMATION

記事アーカイブ