[特集/EURO2020大会レビュー 03]爪痕残したデンマーク・スイス、チェコ! ジャイキリこそEUROの醍醐味だ

 前回大会では初出場であったウェールズがベスト4、アイスランドがベスト8入りを果たすなど、近年のEUROは小国たちのジャイキリや中堅国の躍進も醍醐味のひとつとなっている。そして、1年遅れでの分散開催となったが、今大会もそういった国々が大会を大いに盛り上げた。

 死の組を突破したポルトガル、ドイツ、フランスの3つの王者たちがベスト8を前に揃って姿を消す大波乱。加えて、オランダやクロアチアといった近年調子を上げていた強豪もラウンド16で敗退することになったが、そんな中で見事に躍進してみせたのがデンマーク、スイス、チェコの3カ国だ。開幕前の評価は決して高くなかったこの3つの中堅国が、いかにして飛躍を遂げることとなったのか。EURO2020を盛り上げた彼らの強さに迫る。

デンマークの土台にあった戦術眼の確かさ

デンマークの土台にあった戦術眼の確かさ

エリクセンのアクシデントや連敗から始まったデンマーク。厳しい状況下でも一致団結してチームはベスト4という好成績を残した photo/Getty Images

 準決勝でイングランドに敗れたものの、デンマークのベスト4は予想外の躍進だった。

 緒戦のフィンランド戦、攻撃の柱だったクリスティアン・エリクセンが前半途中に突然昏倒するアクシデントに見舞われる。シモン・ケアー主将の応急処置やエリクセンを囲んでテレビカメラから守ったチームメイトたちの行動が絶賛されたが、試合はピエール・エミール・ホイビュルクのPK失敗もあって0-1で落としてしまう。

 続くベルギー戦も1-2。ホームのパルケン・スタジアムでの連敗でグループステージ敗退が濃厚となった。ところが、ロシアを4-1で撃破して2位でグループBを突破する。ラウンド16でウェールズを4-0、準々決勝ではチェコに2-1。イングランドにも延長まで食い下がり(1-2)、デンマーク旋風を巻き起こした。

 巻き返しの立役者となったのは新鋭のミッケル・ダムスゴー。開幕時点ではレギュラーではなかったが、左ウイングで登場するとキレのあるドリブルと鋭いシュートで大活躍。ロシア戦で反撃の狼煙となった先制点をゲットし、イングランド戦でも壁を越えてドライブする見事なFKで先制ゴールを叩き込んだ。今大会、最大の発見だったかもしれない。

 ただ、躍進の原動力は個人ではなくチーム力だ。

 ラウンド16のウェールズ戦ではシステムが噛み合わず序盤に苦戦していたが、10分ほどで修正して立て直している。3バックの右で先発したアンドレアス・クリステンセンをMF(アンカー)に上げて[4-3-3]とし、中盤中央の数的不利を解消した。修正自体は単純だ。[4-2-3-1]のウェールズに対して、[3-4-3]から[4-3-3]、いや[4-1-2-3]というべきか。この形に変えてマッチアップさせただけなのだが、それをごく短い時間にスムーズに修正できた戦術眼と冷静さが素晴らしい。

 クリステンセンにアンカー役は少々不慣れだったはずだが無難にこなした。2-0とリードした終盤には[5-3-2]に再びシステムを変えて守備を固め、カウンターからヨアキム・メーレがトドメの3点目を決めている。

 2010年のワールドカップ南アフリカ大会で、日本はデンマークと対戦して3-1で勝っているのだが、この試合の序盤は完全にデンマークのペースだった。デンマークのポジショナルプレイに翻弄されていたのだ。当時はまだポジショナルプレイという言葉もなかったが、確かにそれを実行していた。遠藤保仁の機転でシステムを修正して形勢を立て直したのだが、デンマークは戦術面で世界の先端を走る存在だったのだ。

 10年以上前から戦術的な賢さがウリだったデンマークにとって、マッチアップの修正など造作もなかったに違いない。

頑固なポゼッションでフランスを喰らったスイス

頑固なポゼッションでフランスを喰らったスイス

PK戦までもつれたフランスとのラウンド16。全員成功したスイスに対して最後のムバッペのキックを守護神ヤン・ゾマーが止め、優勝候補を相手に番狂わせを起こした photo/Getty Images

 今大会、自国リーグの選手だけでほぼ代表を編成できるのはイタリア、イングランド、スペインぐらいで他は所属クラブもリーグもバラバラだった。多くの代表チームが拠り所にするのは母国の伝統的なスタイルになる。

 さらに強豪国でないなら、5バックで守備を固めるのが定石。そんな中、一線を画していたのがスイスである。システムは[3-4-1-2]、引いたときはご多分に漏れず5バックなのだが、ボールを奪ったときにロングボールで逃げないのが特徴だった。意地でも蹴らない。そんな感じ。

 1930年代の「ボルト・システム」(イタリアのカテナチオの原形)以来、堅守が取り柄だったが、2000年代から育成に力を入れてポゼッション指向に転換していたのだ。ラウンド16ではフランスとの乱戦を3-3で引き分け、PK戦で勝利する大金星をあげた。スイスの3点目は終了寸前の90分、マリオ・ガブラノビッチのゴールだったが、そこに至るまでスイスはむやみにハイクロスを放り込んでいない。ぎりぎりの同点弾もポール・ポグバからスチールしたボールをグラニト・ジャカがつないでのパスから生まれた。

 優勝候補筆頭だったフランスに対して、スイスは自ら引くことはなかった。ボールを持てば愚直につないで攻め、キリアン・ムバッペらのカウンターアタックにさらされながら耐えていた。

 ビルドアップは丁寧で上手い。ただし、相手にも引かれるので崩すためには相手MFとDFの中間地点でパスを受けられる選手が必要になる。このライン間担当は瞬間的なボールコントロールの上手さ、アイデア、俊敏性が必須であり、強豪国でも適任者はそれほどいない。2人いればいいほうだった。スイスはトップ下のジェルダン・シャキリがほぼ一手に引き受ける形だったが、FWのブレール・エンボロも適宜に下りていて何とか2人揃えていた。

 シャキリは若いころからスイスのスターだ。しかしバイエルン・ミュンヘン、インテル、リヴァプールとビッグクラブに所属したためにかえって出番を減らしてしまっていた。だが、母国にはちゃんと居場所が用意されている。愚直なまでにパスをつなぐスイスにとって、シャキリなしでは画竜点睛を欠くことになるからだ。いかにもストライカーらしいハリス・セフェロビッチとともに攻撃を牽引していった。

 豊富なタレントゆえに最適解を見いだせずに漂流してしまったフランスとは対照的に、スイスは自分たちのスタイルを守り抜いて世界王者を倒して見せた。

オランダをも苦しめたチェコのマンマーク

オランダをも苦しめたチェコのマンマーク

今大会ではマンマークの戦術で快進撃を見せたチェコ。オランダ戦でソウチェクは司令塔であるデ・ヨングを徹底マークすることで仕事をさせなかった photo/Getty Images

 準々決勝でデンマークとの躍進中堅国対決に敗れたものの、ラウンド16でオランダを破ったチェコもサプライズだった。

 強豪国以外では少数派の4バック。ただ、チェコにフォーメーションはあまり関係がない。基本的にマンツーマンで守っているからだ。オランダ戦ではキープレイヤーのジョルジニオ・ワイナルドゥムにトマシュ・ホレシュ、フレンキー・デ・ヨングにはトマシュ・ソウチェクがマークするなど、10個のカップルを作る形で守っている。CBの2人は左右の棲み分けが決まっているが、あとは基本的につかまえた相手についていく。

 マンツーマンといえば2004年大会で優勝したギリシャが思い浮かぶが、チェコのやり方はギリシャとは少し違っている。ギリシャのような明確なリベロは置いていないし、人を決めてマークしているわけでもない。相手との相性は関係なく、自分のポジションとマッチアップする相手をマークしていた。

 自陣からビルドアップしていくオランダは早い段階からプレッシャーをかけられてリズムをつかめていない。オランダにすればFWのところで1対1なのだから、ロングボールを蹴るのが定石のはずなのだが、2トップのメンフィス・デパイとドニエル・マレンは高さがない。打開できないままマタイス・デ・リフトが53分に退場に。そこからチェコが2ゴールを奪って勝利した。パトリック・シックがエースだが、攻撃力よりも守備力を攻撃に結びつけて効果をあげていたチームといえる。

 ヨーロッパの強豪国と中堅国にはもともと大きな差はない。イタリア、イングランド、フランス、ベルギーなど強豪には実績と才能のある選手が多く、戦術的にもより洗練されている。しかし、それが必ずしも勝敗に直結しない。中堅国もかつては強豪国だった時期があり、それぞれのスタイルを持っていて、試合運びの上手さもある。どの国も一発勝負でジャイアントキリングを起こす力がある。それは今大会でも証明された。


文/西部 謙司

※電子マガジンtheWORLD259号、7月15日配信の記事より転載

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