「颯太、8番見ろ!」
ピッチ上で怒鳴り声が響いた。声の主が誰だったかは確認できなかったが、颯太とは京都のボランチ川崎のこと。相手の8番は磐田のMF大森である。19歳ながら今季ずっと先発出場を続けている川崎だが、既にチームの大黒柱と呼べる存在。彼の言葉を借りてこの試合を振り返ると「試合前から、相手が短いパスを巧みに使ってくることは分かっていたので、全員でプレッシャーをかけてボールを奪いに行くというのが狙いだった」。
その言葉通り京都は磐田のパス回しを分断すべく、前線のプレッシャーからショートカウンターを徹底。ゲームを支配することに成功した。ただその一方で磐田の分厚い守りに阻まれ、ゴールをこじ開けることができなかった。30分には怒涛の攻めで磐田ゴールに迫ったものの得点できず、チョウ・キジェ監督が被っていた帽子を宙に放り上げて悔しがるシーンも見られた。
「前半は激しくいけてチャンスもつくれたが、相手のワンプレイでやられてしまう部分があった。少しの甘さやコミュニケーション不足を改善していかなければならない」(川崎)
42分に一瞬の守備の綻びを突かれて、磐田のMF山田に先制ゴールを許してしまった。試合を通じてこういうシーンは京都に散見され、GK若原が相手にプレゼントパスをしてしまうこともあり、押している展開の中で僅かなミスが結果を左右しかねない状態でもあった。先制点の場面もそのひとつだった。
ただミスはあっても試合を通じて両チームが非常に高いインテンシティを保ち続け、ピッチのいたるところでクリーンでありながら激しいバトルが繰り広げられた。これはスタンドのサポーターにも伝わったようで、8000人を超える観衆が大きく湧くシーンも多かった。声をあげての応援はできないものの、自然発生的に出てしまう声や、拍手のボルテージで観客がピッチに引き込まれているのが良く分かった。
前半をアウェイの磐田が1点リードして折り返したが、ここからは互いに激しいゴールの奪い合いになった。47分京都、52分磐田、再び55分に京都がFWウタカのこの日2点目のゴールで追いつき、2-2となる。このウタカの2点目のゴールは磐田の繋ぎのミスによるもの。激しいプレイゆえともいえるが、磐田からすればもう少し丁寧に繋いでおけば、防げた失点だった。
磐田の鈴木監督も「守備に関しては2失点目も含めて後ろ向きの判断の無いままバックパスはやめようといっていたが、判断のミスが絡んでの失点なので、次に向けてもう1回全体で共有をしながら改善をしていきたい」と振り返った。
その後、59分に磐田が高い京都のDFラインの裏を突くカウンターでWBの小川のゴールを決め、再びリード。83分には京都のGK若原からの繋ぎのミスに乗じた磐田が追加点を奪い、結果的にこれが決勝点となった。
「きちっとプレイしないといけないところで少し集中力が足りなかったり、個人の判断に頼ったものになってしまう。奪われ方が悪い時に相手の出足が速いことは分かっていたのに。状況判断はまだまだ我々のチームに欠けていると思う」とチョウ監督は反省点を挙げた。一方で「今日観てもらったファン・サポーターには、我々の今年のサッカーがどういうふうに展開されるかということは示せた。僕の中では今日の試合は今シーズンの中で非常に大きな価値のあるものだと思う」とチームの基本姿勢が示せた試合だとも話した。
後半アディショナルタイムでも何とか点を取ろうと相手ゴールに迫り、実際に1点差に迫るなど、確かにチームとしての気持ちを示すことはできたし、試合後のあいさつでもサポーターは大きな拍手を送っていた。
ただ敢えて両チームに苦言を呈すなら、インテンシティが上がるとミスをするという今の状態を打破できなければ、その上のレベルはない。J1云々というよりも、世界のサッカーを見れば、これくらいのインテンシティでもまったく苦にせず局面を打開できるチームは沢山ある。ここでミスをするのは日本のサッカーの限界ともいえる。J2のクラブだから仕方ないで片づけず、もっともっと高みを目指して欲しいと切に願う。
文/吉村 憲文