昨シーズンのCL決勝トーナメントでは、バイエルンに2-8とまさかの惨敗。あろうことか、絶対的エースであるリオネル・メッシの移籍話が飛び出し、会長との軋轢まで公になってしまう始末。今季開幕前のバルセロナ周辺は、これまでになく騒がしいものだった。今季は正念場のシーズンであり、クラブの行く末を不安視する声もそこかしこから聞こえてきた。だがロナルド・クーマン新監督が見せたバルセロナの変化は、見た目にはそう大きなものではなかった。
システムは[4-2-3-1]に固定、注目のメッシはCFに起用し、トップ下にコウチーニョを置いた。サイドハーフには右にアントワーヌ・グリーズマン、左にアンス・ファティというアタックラインである。
バルセロナ歴代監督にとって、常に課題となるのがメッシ・システムの構築だ。
メッシの起用方法自体は難しくない。主に右のハーフスペースを起点としたプレイができるようにすること。守備負担を軽減すること。この2点だけだ。
ジョゼップ・グアルディオラ監督は「偽9番」で起用した。[4-3-3]の両ウイングを高い位置に張らせて相手DFをそこに固定し、メッシが少し下がることでDFとMFの間のバイタルエリアに潜り込ませた。CFなので守備負担は最も軽い。
ルイス・エンリケ監督は、メッシのもともとのポジションである右ウイングに起用。CFにルイス・スアレス、左にネイマールのMSNを形成する。こちらは「偽7番」だ。メッシは右サイドから右のハーフスペースへ移動する。そのときに幅をとる役割は右サイドバックになり、縦の上下動はかなり大きくなった。一方、右のインサイドハーフはメッシとサイドに高く張り出すサイドバックのカバーに回ることが多くなる。また、メッシはスアレスとともに攻め残ることで守備負担を軽減し、そのぶんネイマールが引いて4-4の守備ブロックに組み入れられていた。
エルネスト・バルベルデ監督は最もシンプルに、メッシとスアレスの2トップによる[4-4-2]だった。
しかし、いずれも2シーズン以上続けていくと、どこかに無理が出てくる。「偽9番」ではウイングが形骸化し、「偽7番」だと右サイドバックが疲弊、右インサイドハーフと左ウイングへの負担も出てくる。[4-4-2]は4-4の守備ブロックがバルサの伝統と合っておらず、相手に攻め込まれたときの強度があまりない。
それでもメッシを生かすことは勝利への近道なので、形を変えながら歴代監督はその都度メッシ・システムを探ってきたわけだ。
クーマン監督は「偽9番」に戻している。ただし、[4-3-3]ではなくボランチにセルヒオ・ブスケッツとフレンキー・デ・ヨングを配した。
メッシはCFなので守備負担の軽減はできる。チーム全体に守備でのハードワークを要求しているので、従来よりもメッシは守備もしているが、それでもフィールドプレイヤーの中では最も負担は軽い。
ここでピンポイントになるが、今季のバルサらしいビルドアップを紹介したい。
ゴールキックからつないでいくのは従来と同じだが、全体に扇形に広がって空白地帯となっている中央にメッシかコウチーニョが下りて、そこへスパッと縦パスを入れていく形が見られる。メッシとコウチーニョでなければ危険だが、彼らの個人能力で成立させている。相手を開かせておいて、ど真ん中をついていくので、一気にカウンターになるケースもあり、他チームは真似しにくいが新しい形のビルドアップになっている。