[水沼貴史の欧蹴爛漫021]べティスで苦境の乾貴士 うまくいかないのは何故?

チーム内での序列が低い乾。限られた出番の中でアピールできるか photo/Getty Images

昨季までとは異なるポジション

水沼貴史です。今季も数多くの日本人選手が欧州でプレイしていますが、今回はべティスに在籍中のFW乾貴士についてお話しします。ロシアW杯のベルギー代表戦で鮮烈なゴールを挙げたこともあり、鳴り物入りでべティスに加入した彼ですが、直近のリーガ・エスパニョーラ5試合で出場時間が3分に留まるなど、苦しい状況が続いています。エイバルではレギュラーに登りつめた彼が、新天地でなぜ躓いているのでしょうか。

エイバルにいた昨季までは主に[4-4-2]のサイドハーフを務め、サイドからのカットインでチャンスを作っていた乾ですが、べティスのキケ・セティエン監督より今季は違うポジションや役割を与えられています。セティエン監督が乾にどんなプレイを求めているのか。べティスの基本戦術や布陣をふまえながらご説明しましょう。

セティエン監督が率いるべティスは、「攻撃は最大の防御」という言葉を体現しているチームです。今季のリーグ戦でバルセロナに次ぐ2番目に高いボール支配率(61.0%)を記録していることからも分かる通り、極力ボールを保持し、相手の攻撃機会を奪うことを信条としています。

布陣は[3-4-2-1]もしくは[3-4-1-2]で、最終ラインから丁寧にショートパスを繋ぐことを選手たちに徹底させています。シャドーやトップの選手には相手最終ラインと中盤の間でボールを受けることを求めていますし、両ポジションのプレイヤーが相手の最終ラインや中盤を引きつけ、この動きによって生まれるサイドのスペースに素早くパスを散らすというのが、セティエン監督の狙いです。

乾が得意としているサイド突破は、べティスではウイングバックのジュニオル・フィルポやフランシス・ゲレーロらの役目となっています。2シャドーや2トップの一角として起用されることが多い乾には、常に相手のボランチとセンターバックの間にポジションをとり、相手を引きつけたうえでスペースにパスを送り込むことが求められています。

べティスにポゼッションサッカーを植えつけたセティエン監督 photo/Getty Images

攻守両面で献身性をアピールしているが......

このようなサッカーを掲げるチームでは最前線で確実にボールをキープすること、相手のカウンターに繋がるようなボールロストをしないことが特に求められるのですが、乾はこの点で監督やチームメイトからの信頼を勝ち取れていないように見受けられます。主にサイドでパスを受けていた昨季までとは異なり、多くの選手が集まる中央でボールを受けなければならないという難しさを乾自身も感じていると思いますが、密集地帯でのプレイが増えたことでミスもかさみ、それが監督やチームメイトによる低評価に繋がってしまったのではないかと、私は感じています。

「乾にボールを預ければ大丈夫」という確信がまだチームメイトの中で芽生えていないのか、彼がフリーであるのにも関わらず味方がそこへパスを出さないというシーンが、今季の公式戦で何度かありました。べティスに移籍してからも彼は守備を怠っていませんし、パスを呼び込もうという姿勢も窺えるだけに私自身歯がゆく感じていますが、チーム内での序列を高めるためにはもう少しアバウトなパスであったり、6日の国王杯(ラシン・サンタンデール戦)で見られたような決定機逸をなくす必要があるでしょう。

また、サイドへパスを散らした直後にもう一度動き直すことを、より意識したほうが良いと思います。シャドープレイヤーとしてセティエン監督に重宝されているセルヒオ・カナレス、ジオヴァニ・ロ・チェルソらのプレイを見ていると、彼らはパスを出し終えた後もすかさず中盤の密集地帯を掻い潜り、相手ゴール前に侵入してフィニッシュワークに絡むという気概を示しています。パサーとフィニッシャーの両方の側面をシャドーの選手に求めるセティエン監督のコンセプトを理解し、乾自身が指揮官の起用法にアジャストできるか。これが現在彼に課せられているハードルだと、私は思います。

リーグ戦では出場機会に恵まれていないものの、幸いなことに国王杯やヨーロッパリーグでは出番を与えられており、今のところべティスは両大会で勝ち残っています。彼自身が一つひとつのプレイの判断を速めることを日頃のトレーニングで意識し、限られた出番の中で結果を残せば、今の状況を変えられるはずです。厳しい競争に身を置くことを決断した乾の奮闘ぶりを、私はこれからも見守り続けたいと思います。

ではでは、また次回お会いしましょう!


水沼貴史(みずぬまたかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。

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