【特集/フットボールを進化させる監督 6】ラツィオを団結させ、評価急上昇! 若き錬金術師シモーネ・インザーギ

トップチーム指導経験なし持っていたのはクラブ愛のみ

トップチーム指導経験なし持っていたのはクラブ愛のみ

引退後は同クラブの下部組織で指導者となったインザーギ photo/Getty Images

ラツィオはセリエA第24節終了時点で6位。もともと上位を狙える力のあるクラブだが、シーズン前のゴタゴタを考えれば、できすぎといっても過言ではない。その理由はさまざまあるが、新米監督シモーネ・インザーギが大きな理由の一つであることに疑いの余地はないだろう。

フィリッポ・インザーギの弟であるシモーネ・インザーギ監督は、現在40歳の若手指揮官だ。今シーズンの働きを考えれば意外かもしれないが、トップチームを率いるのは初めてである。2010年にラツィオで引退した後、同クラブの下部組織で指導者としてのキャリアをスタート。徐々に担当する年代を上げていくと、昨シーズン終盤にステファノ・ピオリ現インテル監督の解任に伴い、トップチームを担当することになった。

当時はシーズンが終了するまでの“つなぎ”でしかなかったが、夏にマルセロ・ビエルサの監督就任&即辞任という予期せぬ事態が起こり、急きょインザーギの“ラツィオ愛”に頼ることになったというわけだ。

周囲を驚かせた序盤戦のキーワードは“錬金術師”だ。選手としてイタリア代表も経験したインザーギは十分に有名人だが、監督としては表舞台に出ることがほとんどなく、どのような戦い方をするかは多くの人にとってナゾだった。イタリアではさまざまなシ中盤の大黒柱として攻守に奮闘するパローロステムを使いこなしたり策略をめぐらせる監督を“錬金術師”と表現することがある。インザーギのラツィオはまさにこれで、特に序盤戦は毎試合のようにシステムを変えた。

もちろん、細かなシステム変更の裏には緻密な計算がある。しかし、こういった戦い方をする指揮官は大抵同じことを言う。インザーギも「大事なのはシステムではない。チームが根本の戦い方を理解していることだ」と、例に漏れなかった。

4バックも3バックも使うが、例えばサイドバックに攻撃が得意なルリッチを起用した場合、実際には3バックとなっていることはよくある。後方からつないでいくというのが彼の目指すスタイルとのことだが、特に奇抜だったりというエピソードは目にしない。実際、データサイトによると、ボール支配率はリーグで10位と平凡だ。中央からの攻撃の比率がかなり低いところは特徴的で、サイドで1対1で仕掛けさせてチャンスを拡大させたいという意識はどのシステムを使っても同じ印象だ。となれば、交代枠は当然そういった個の力で仕掛けられる選手で使うことが多い。ビハインドを背負っているときは中盤の守備を締めるビリアを犠牲にすることが多いが、それは当然冒すべきリスクだ。

崩壊寸前のクラブを救ったレジェンドならではの人間力

崩壊寸前のクラブを救ったレジェンドならではの人間力

インザーギのもとで見事復活したインモービレ photo/Getty Images

“錬金術”と同様に話題となるのが、監督と選手の距離感だ。インザーギは特に選手との“対話”を大事にするという。前述のとおり、インザーギ監督は40歳。ベテラン選手との年齢はそれほど変わらない。選手時代の仲間もいる。ラツィオは若手を多く抱えるが、長く下部組織を担当していたため、“少年たち”の扱いは慣れたものだ。

ビエルサ騒動でファンはクラブへの怒りを露わにした。選手間もバラバラだったと聞く。そんな状況下で監督に就任して即座に結果を出せたのは、選手たちの信頼をつかむことで、短時間で自身の意図を植えつけられたからに他ならない。

昨年10月のトリノ戦で、あるメディアがインザーギの交代を称えていた。1-1に追いついた後で指揮官は、20歳のMFムルジャを投入し、この若手が逆転弾を記録したのだ。最終的には追いつかれてしまったが、「夏の市場で高値を投じた外国人選手や、リスクを冒さずベテランを使うのが普通という場面で勝負に出た」ことをクローズアップした。

ムルジャは下部組織からインザーギが指導してきた選手。若手の父であり、ベテランの兄のような立ち位置が、バラバラだったラツィオを一つの戦えるチームに変貌させたように感じる。前線から最後尾までハードワークを惜しまない集団にしたことは最も大きな功績だ。

長く所属したラツィオだからこその活躍ともいえるインザーギにとって、これから先のキャリアは未知数だ。それでも、柔軟に練習スタイルを変えるなど日々トップの指導者としてアップデートしている模様。今後の進化に注目したい監督であることは間違いない。

文/伊藤 敬佑

イタリア・セリエAの熱に吸いよせられ、2007年、大学卒業と同時にイタリアへ渡る。以後、現地在住のフットボールライターとして、イタリアサッカーを追い続ける。ミラノを拠点に、インテルやミランを中心に取材活動を展開し、現地からの情報を提供している。

theWORLD183号 2017年2月22日配信の記事より転載

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