[特集/3人のサムライアタッカー 01]ドリブル、アシスト、シュート! 最高峰プレミアだからこそ一層輝く三笘薫の個の力

 FIFAワールドカップ・カタール大会でスペインを撃破した日本代表。決勝ゴールを創出した三笘薫が見せた意地のアシストは「三笘の1ミリ」として世界に感動を与えた。そんなドリブラーは今、英国の舞台で大きく躍動している。今季前半からドリブル突破で大器の片鱗を見せつけてはいたが、W杯明けからはアシストやゴールでもチームに貢献。世界最高峰のプレミアリーグは、いまや三笘フィーバーに沸いている。

転機となった指揮官交代 結果で信頼をつかむ

転機となった指揮官交代 結果で信頼をつかむ

今季ブライトンで公式戦21試合7ゴールを記録する三笘。1年目から主力として活躍する日本代表MFがプレミアリーグを席巻している photo/Getty Images

 レンタル先のユニオン・サン・ジロワーズでしっかりと結果を残し、ブライトンに復帰して今シーズンを迎えた三笘。このころはグレアム・ポッター前監督のもと[3-4-2-1]で戦っており、左サイドアタッカーはベルギー代表のレアンドロ・トロサールが務めて指揮官の信頼を得ていた。開幕5試合を終えて先発出場はゼロ。4試合に交代出場したのみで、もっとも長くて第5節フラム戦の27分間の出場だった。

 しかし、三笘薫は短い時間でも十分にインパクトを残せる選手である。第2節ニューカッスル戦では15分の出場ながら、イングランド代表のキーラン・トリッピアーを1対1の攻防で翻ろうするシーンがあった。第4節リーズ戦では11分間の出場でデンマーク代表のラスムス・クリステンセンからボールを奪ってゴールライン深くをえぐり、アメックス・スタジアムを沸かせた。いまにつながる“被害者の会”のメンバーを着々と増やしつつ、実力で自らの力を示していったのである。

 ポッター監督がチェルシーに引き抜かれ、ロベルト・デ・ゼルビ監督が後任となったのも奏功した。ちょうど第7節ボーンマス戦、第8節クリスタル・パレス戦が延期となり、新監督のもと新たなスタートを切る時間が取れた。デ・ゼルビ監督も当初は左サイドにトロサールを起用していたが、2分け3敗というスタートになっていた。こうした状態で迎えたのが第14節チェルシー戦で、デ・ゼルビ監督はトロサールを前線に配置し、[4-2-3-1]の左サイドアタッカーで三笘を初先発させた。
 すると、開始5分で結果を出した。こぼれ球を拾ってPA内へ進入し、相手2人を引き付けてラストパスを出し、トロサールのゴールにつなげた。三笘にとって、これがプレミア初アシストとなった。この辺りからの活躍は、プレミアを定期的に見ていないサッカーファンでもよく知っているはずである。

 続く第15節ウォルバーハンプトン戦ではドリブルでチャンスを作るだけでなく、高い決定力を持つことを示した。右サイドからアダム・ララーナが上げたクロスに打点の高いヘディングで合わせ、初アシストに続いて初ゴールをマークした。サイドに張ってチャンスメイクするだけでなく、柔軟な判断でゴール近くにポジションを取り、決めきる決定力もあると証明してみせた。やみくもには飛び込まず、相手の背後に位置を取りながら、クロスボールのタイミングに合わせる。ゴールへのセンスを感じさせる初ゴールを決め、三笘の快進撃は勢いを上げていく。

 プレミアの舞台で各国の代表選手を相手にしても、我々が目撃してきたJリーグ時代と変わらない活躍をしていることは特大のインパクトがあった。この「プレミアでどれだけ通用するか」という部分については、カタールW杯を経て迎えたその後の試合でさらに答えが出ることとなる。

ボールの置き方、オフザボール…… サッカーIQの高さがゴールを生み出す

ボールの置き方、オフザボール…… サッカーIQの高さがゴールを生み出す

今季3度対戦したトレント・アレクサンダー・アーノルドには、何度もドリブル突破を仕掛けてチャンスを創出 photo/Getty Images

 瞬発力があり、トップスピードに到達するのが早い。なおかつ、長い距離をトップスピードで運べて、ストップ&ゴーを使って緩急もつけられる。切り返しは深く、さらに早い。おそらく、多くの方が三笘にボールが渡るとその後の展開を楽しみにしていると思う。スペースがあり、1対1の状況であればなおさらで、胸がワクワクしてくるのではないだろうか。一言でいえば、見ていて楽しい選手である。不思議なもので、三笘のような選手のプレイはこうして書いていても楽しいものだ。

「三笘を止めることができる右SBを見たことがない」と現地メディアで語ったのはGKロベルト・サンチェスだ。カタールW杯の三笘はプレミアを席巻している。

 三笘のドリブルが厄介なのは、対峙する選手の反応を観察し、瞬時の判断で裏を突けるからだ。右足でボールを持ちながら相手の対応によって能動的にも受動的にも仕掛けることができて、縦にいけるし、中央にカットインもできる。ヘタに足など出そうものなら、一瞬で相手をかわしてしまう。また、たとえ中へのカットインを抑えられても、縦に突破してから右足のアウトでクロスを上げることもでき、実際にFA杯リヴァプール戦ではソリー・マーチにドンピシャのクロスを送っている。

 こうした選択肢の多さで、名だたるプレミアのDFたちをキリキリ舞いさせているのが今の三笘だ。第20節リヴァプール戦ではイングランド代表のトレント・アレクサンダー・アーノルドを相手に完全に主導権を握り、3-0の快勝に貢献している。

 加えて、イングランドのファンを驚かせているのはその得点力だ。得点シーンにはシュートのうまさだけでなく、三笘のサッカーIQの高さが凝縮されている。

 第18節アーセナル戦では0-3の状況から反撃の狼煙を上げる1点を決めた。三笘自身が冨安健洋にプレスをかけ、奪ったボールをゴールにつなげたこともポイントが高いが、その後のフィニッシュシーンではDFの視界に入らないようギャップを突いた動きが実に巧みだった。三笘はPA内でフリーとなり、冷静に右隅へ流し込んでいる。

 第19節エヴァートン戦では左サイドから巧みなトラップでゴール前に進入し、2戦連発となるゴールを決めた。このときのトラップはワンタッチで完全にDFの裏をとって、人のいないスペースにうまく置いており、これで勝負は決まったようなものだった。慌てて飛び込んできたDFをチョイとかわし、GKピックフォードのタイミングも外した落ち着いたフィニッシュは見事というほかない。

 とくに衝撃だったのが第21節レスター戦で決めたゴールである。左サイドでスペースがある1対1という“いつもの状況”を作り出し、複数の選択肢のなかから中央へのカットインを選択する。左SBのペルビス・エストゥピニャンが大外に回ったことでDFが一瞬つられ、空いたスペースを見逃さなかったのだ。相手のDFが三笘のキレと判断のスピードに後れを取ると、簡単にシュートコースを見つけ、右足を振り抜いてゴールネットを揺らした。これも三笘の特長のひとつだが、フィニッシュの場面で妙な落ち着きがあり、やみくもにシュートを打たない。このときもしっかりと右足インフロントでコースを狙ったシュートを放ち、ファーサイドのゴールネットを揺らしている。次の瞬間、観衆と同じように興奮を覚えたチームメイトのヤン・ポール・ファン・ヘッケが思わず頭を抱えるほどの美しいゴールだった。

 プレイの幅という意味で、底知れないポテンシャルを見せたのがFA杯4回戦のリヴァプール戦でのゴールだ。FKの流れからファーサイドでボールを受け、難易度マックスの空中ダブルタッチでジョー・ゴメスに背中を向かせ、チームに勝利をもたらす決勝ゴールを叩き込んだ。優れたフィジカル、巧みなテクニック、さらに魅惑のイマジネーションまで持つことを披露したのである。この2つのゴールをまだ見届けていない方は、YouTubeに公式映像があるのでぜひ一度確認してみてほしい。モヤモヤしているとき、気分が滅入っているときに見るとスカッとするはずだ。

ラフプレイにもゴールでやり返す メンタルも並外れた強さ

ラフプレイにもゴールでやり返す メンタルも並外れた強さ

第18節では首位のアーセナル相手にもゴールを奪う。3点差を付けられながらも意地を見せたphoto/Getty Images

 無論、百戦錬磨の各国代表選手がこのままやられているはずがなく、今後はより厳しくマークされることになる。ファウル覚悟の激しいタックルで挑んでくる相手もいるだろう。自陣に守備のブロックを作り、スペースを埋めてくる相手も出てくるはずだ。FA杯のリヴァプール戦ではフランス代表のイブラヒマ・コナテが厳しいマークで三笘を封じ込めようとした。コナテの手が三笘の顔面を直撃してしまうアクシデントにも遭ったが、怒りを露わにせず痛みをこらえてプレイを続行。衝撃的な決勝ゴールへとつなげ、結果でやり返す形となった。

 三笘はこの試合後、クラブ公式サイトのインタビューで「プレッシャーを楽しんでいます。毎試合ゴールやアシストをできたらいいし、うまくいっています」とコメントしている。世界最高峰のピッチにあって、精神面でも強さを見せているのだ。

 市場価値はすでに3500万ポンド(およそ56億円)にまで高騰しているという。アーセナルなどビッグクラブからの興味も報じられたが、まずは今季、プレミア初挑戦でどこまでこの数字を伸ばせるか、ブライトンの順位をどこまで引き上げることができるか。さらには、FA杯でどこまで勝ち上がるかだ。ブライトンの左サイドで輝きを放つ三笘のワンプレイ、ワンプレイが、シーズン後半戦の見どころのひとつになる。


文/飯塚 健司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)278号、2月15日配信の記事より転載

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