ただ、バイエルンは経験値が非常に高い。ノイアー、ミュラー、レヴァンドフスキ、ダビド・アラバなど、チャンピオンズリーグの〈痛み〉を知る選手を何人も擁しているが、この感覚をチェルシーで体験しているのはウィリアンとセサル・アスピリクエタだけだ。売り出し中のタミー・エイブラハム、メイソン・マウント、フィカヨ・トモリは、今シーズンがチャンピオンズリーグ・デビューである。
また、昨年11月24日のマンチェスター・シティ戦に敗れた後、プレミアリーグでは3勝1分4敗。ウェストハム、サウサンプトン、ボーンマス、エヴァートンと、苦戦に喘ぐクラブに足をすくわれ続けている。一時の勢いかすっかり失われた。やはり、経験不足によるものだろうか。しかし、
アシスタントコーチのジョン・モリスは手厳しかった。
「経験がどうのこうのの問題ではない。すべきことをしていないから、ミスが雪だるま式に増えているから、負けたり引き分けたりしているだけだ」。
まだ若いから、は言い訳にもならない。チェルシーでプレイする以上、高いレベルが求められる。要するに自分に打ち勝たなくては、相手がバイエルンだろうが名もないクラブだろうが、「恥をかくのはおまえたちなんだぞ」とモリスはいいたいのだろう。彼の指摘を借りるまでもなく、近ごろのチェルシーは攻守ともチグハグしている。とくにカラム・ハドソン・オドイは、1対1で勝てなくなってきた。また、クリスティアン・プリシッチも好不調の波が激しく、ウィリアンとアスピリクエタに次ぐ経験値を持つペドロは、フランク・ランパード監督の構想から完全に外れている。
さらに2月の日程も厄介だ。
●1日:レスター戦(プレミアリーグ)
●18日:マンチェスター・ユナイテッド戦(プレミアリーグ)
●22日:トッテナム戦(プレミアリーグ)
25日のバイエルン戦を迎えるまでの3連戦は強敵ばかりだ。来シーズンのチャンピオンズリーグ出場権を巡る〈トップ4チャレンジ〉が続く。3連勝で波に乗る可能性があれば、1つも勝てずに2月を終えるリスクも十分すぎるほど漂っている。しかもバイエルンとのセカンドレグが3月18日に開催予定で、3日後のプレミアリーグはマンチェスター・シティ戦だ。若いチェルシーに本当の試練が訪れる。一方、バイエルンはチェルシー戦前後の対戦相手がケルン、パーダーボルン、ホッフェンハイム……いやいや、プレミアリーグとブンデスリーガでは競争力が違うのだから、もはや比較のしようがない。
体力的にもバイエルンにアドバンテージがある。プレミアリーグは休みがない。ブンデスリーガは年末年始に3週間のブレイクが設けられている。シティのジョゼップ・グアルディオラ監督、リヴァプールのユルゲン・クロップ監督などが口を酸っぱくして「選手第一の日程調整」を訴えても、プレミアリーグは聞く耳を持たない。
両クラブは04-05シーズンのチャンピオンズリーグ準々決勝で対戦し1勝1敗。2試合合計6-5でチェルシーがベスト4に進出している。11-12シーズンは決勝で激突。PK戦4-3でウェストロンドンの強豪がヨーロッパを制した。13-14シーズンはスーパーカップで相まみえ、またしてもPK戦。今度はバイエルンが5-4でリベンジしている。過去4戦、決着はついていない。当然、お互いに意識しているだろう。
チェルシーでは、ランパード監督だけが11-12シーズンと13-14シーズンの対戦を知っている。バイエルンはノイアー、アラバ、J・マルティネス、ボアテンクが激闘を肌で味わっている。サイクルの終焉を迎えたとはいえ、ヨーロッパの舞台では経験値がモノをいう。この勝負、バイエルンがやや有利とみた。ただし、気になる発言があった。
「 油断ならない相手だけれど、抽選結果には満足している」(ミュラー)。
チェルシーを見下しているようにも受け取れる。心の隙の表れでなければいいのだが……。
文/粕谷 秀樹
※電子マガジンtheWORLD241号、1月15日配信の記事より転載
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