[ロシアW杯#03]イラン、モロッコのサイド攻撃に手を焼くも…… 徹底した人海戦術でW杯20年ぶりの勝利

守護神ベイラバンドのファインセーブも光る

守護神ベイラバンドのファインセーブも光る

ファインセーブで勝利に貢献したベイラバンド(写真手前)photo/Getty Images

アフリカ最終予選の6試合で無失点だったモロッコと、アジア最終予選の10試合中9試合でクリーンシートを記録したイラン。鉄壁のディフェンスが売りで、どちらも[4-1-4-1]の布陣で臨んだ“似た者同士”のバトルは、1点を争う文字通りの接戦となった。
 
立ち上がりから攻勢に出たのはモロッコだった。ベナティアとサイスの両CBが繰り出す対角線上のロングフィードを起点に、敵陣のサイドを攻略にかかる。とりわけ効果的だったのが、本職のウイングではなく右SBとして先発したN・アムラバトのオーバーラップだ。4分、その31歳のベテランが好機を演出する。敵陣の深い位置でハジサフィをかわし、きわどいクロスを供給。ベルアンダのヘディングシュートは枠を捉えなかったものの、イランにとってはヒヤリとするシーンを作り出した。

モロッコの勢いに押されるイランは、アジア予選で活用したハイプレスを封印し、全員がボールラインより後ろに下がるリトリートで対抗。コンパクトな陣形を保ち、集中した守りを見せる。しかし、ボールを奪ってもなかなか前に運べない。14分には中盤でプレスの網にかかり、ショートカウンターからまたしてもN・アムラバトに左サイドを崩される。幸い、クロスの精度不足で難を逃れたものの、どこまで耐えられるのか。失点は時間の問題のように思われた。

実際、19分にはこの日最大のピンチを迎える。セットプレイの流れから、自陣ボックス内で立て続けに3本のシュートを浴びたのだ。ただ、この危機をGKベイラバンドの好守で切り抜けると、試合の潮目が変わった。序盤からエンジン全開で臨んでいたモロッコがややペースダウンした隙を見逃さずに、イランが反撃開始。20分にはショートカウンターから、25分にはハジサフィのロングスローから敵のエリア内へと侵入し、いずれも精度に欠けたとはいえ、フィニッシュまで持ち込んだ。

両軍のアンカーが守備で奮闘 幕切れは意外な展開に

両軍のアンカーが守備で奮闘 幕切れは意外な展開に

モロッコは試合終盤に痛恨の失点 photo/Getty Images

その後は両軍ともに攻め手を欠いたが、43分、イランが決定機を迎える。DFラインの裏に飛び出したアズムンが相手GKと1対1に。しかし、23歳の若きエースが放った一撃はモロッコのネットを揺らすには至らず、スコアレスのまま前半終了の笛が吹かれることとなった。

ハーフタイムを挟んでも、両チームの守備時における集中力は切れない。特に素晴らしかったのが攻撃から守備への素早い切り替えだ。モロッコはエル・アフマディ、イランはエブラヒミというアンカーの奮闘も際立った。結局、観る者をアッと言わせたゴール前の攻防は、モロッコのツィエクが放ったボレーをベイラバンドが弾き出した80分の場面くらいで、ドロー決着の気配が漂い始めた。
 
その空気が一変したのが後半アディショナルタイム。左サイドから放たれたイランのFKがブハドゥズのオウンゴールを誘い、ついに試合の均衡が破れた。最終的にモロッコが3本、イランが2本しか枠内シュートを放てなかった“堅いゲーム”は、こうして幕切れ。エブラヒミやジャハンバフシュらの怪我人を出しながらも最後まで堅守を保ったイランが、W杯ではフランス大会(1998年)以来となる、20年ぶりの勝利を掴んだ。


[スコア]
モロッコ代表 0-1 イラン代表

[得点者]
イラン代表:オウンゴール(90+5)


文/遠藤 孝輔


theWORLD200号 2018年6月16日配信の記事より転載

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