[特集/新生日本代表へ3つの提言 01]彼が本格覚醒すればチーム全体も活性化 新10番の堂安律よB・シウバとなれ

 日本代表の背番号10。これはやはり、特別である。ウルグアイ、コロンビアと連戦した3月のシリーズでは該当者がなく空白となっていたが、エルサルバドル、ペルーと戦った6月の強化試合では堂安律がこの背番号を背負った。

 エルサルバドル戦では三笘薫のシュートを相手GKが弾いたところに走り込んで1得点。さらに、ペルー戦では81分からキャプテンマークを巻いた。日本代表のなかで、堂安の存在感がより一層増している。

 左利き。簡単にボールを奪われないキープ力とフィジカル。90分間チームのために走り続ける献身性。これら堂安の特長を考えたとき、ロールモデルとするべき選手の姿が浮かび上がってくる。欧州王者マンチェスター・シティに所属するMF、ベルナルド・シウバである。

マンCにB・シウバがいれば、日本代表には堂安がいる

マンCにB・シウバがいれば、日本代表には堂安がいる

新たに10番を背負うことになった堂安には特大の期待がかかる photo/Getty Images

 森保一監督のもと現在の日本代表が採用するのは、おもに2つのシステムだ。[4-2-3-1]と[4-1-4-1]で、3月の2試合はどちらも前者でスタートし、6月の2試合はどちらも後者でスタートしている。

 2つのシステムは中盤の立ち位置に違いがあり、[4-2-3-1]であればボランチ(2名)、ウイング(2名)、トップ下(1名)で構成され、[4-1-4-1]であればボランチ(アンカー1名)、インサイドハーフ(2名)、ウイング(2名)となる。

 選手はそれぞれ特徴を持ち、周囲との連携、組み合わせなどが監督によって判断され、試合ごと展開ごとに適正ポジションに送り出される。一人の選手が複数のポジションをできれば監督の選択肢が広がるわけで、だからこそ選手には複数のポジションをこなすことが普通に求められている。
 プレミアリーグを3連覇し、ついにCLも制覇したマンチェスター・シティを見ると、ベルナルド・シウバといういくつものタスクを高いレベルでこなす左利きのマルチプレイヤーがいる。左右のウイング、インサイドハーフ、ときにゼロトップを務め、俊敏な動き、正確なボールコントロールで相手をかわし、ゴールチャンスを作る。

 加えて、自分でゴールする能力も高い。強烈なミドルシュートがあるし、ゴール前へ走り込むタイミングが絶妙で、“ここ”というポジションを取るのがうまい。B・シウバがいることで、前線からリズムを作ることができ、主導権を相手に渡すこともない。マンCに数々のタイトルをもたらしたことで、その評価額は高騰。現在はバルセロナへの移籍話があるが、マンCが設定する移籍金は7500万ポンド(約136億1000万円)だとされている。

 日本代表にも同じタイプの選手がいる。というか、B・シウバと同じような活躍が期待される選手がいる。エルサルバドル戦では[4-1-4-1]の右インサイドハーフで先発し、ペルー戦では試合途中から[4-2-3-1]にシステムが変わったなか、途中出場で右ウイングに入った堂安である。

 エルサルバドル戦ではチームメイトの動きを見ながら幅広く動き、積極的にゴール前へ。44分には三笘薫のシュートを相手GKが弾いたところに走り込み、チーム4点目となるゴールを叩き込んだ。「ボールがこぼれて来るのは意識していましたし、なかに入っていくことでああいうゴールが生まれます。決して、ラッキーというだけではありません」(堂安)というしっかりした判断があったうえでのゴールだった。

 続くペルー戦では伊東純也に代わって右ウイングに入り、75分にタッチライン付近で相手ボールに久保建英との連携でプレスをかけ、前田大然のゴールに繋がったバックパスを誘発している。こうした労を惜しまないアグレッシブな守備も堂安の魅力のひとつである。

 このペルー戦では81分に遠藤航がピッチを退くときに、キャプテンマークを託されている。かつてプレイしたG大阪のホームスタジアムであるパナスタでの試合だったことで「森保監督の粋なはからいだったと思います」(堂安)という引き継ぎだったが、凱旋を飾るとともに、今後の日本代表のなかでの堂安の役割が示された瞬間でもあった。

オランダとドイツで経験を積み屈強な身体を手に入れた

オランダとドイツで経験を積み屈強な身体を手に入れた

バイエルンのA・デイビスと競り合う堂安。ブンデスリーガへと渡り、球際の強さは一層磨かれた photo/Getty Images

 16歳だった高校2年生のときにG大阪のトップチームに登録され、2017年6月に19歳でフローニンヘンへローンされた。いまの堂安は右ウイングの印象が強いが、フローニンヘンでのエールディヴィジ初先発は左ウイングであり、その後も前半戦はトップ下や左サイドでのプレイが多かった。

 右ウイングを任されはじめたのはシーズン中盤から終盤にかけてだったが、このポジションに入ることで中央へのカットインをチラつかせながら縦へ突破する動き、そのまま中央へ仕掛ける動き、さらには精度の高いクロス、迷いのないミドルシュートで存在感を増していった。1年目の成績は29試合に出場して9得点。シーズン終盤にフローニンへンが買い取りオプションを行使し、実力で完全移籍を勝ち取っている。

 フローニンヘンで2シーズンを過ごし、2019-20にPSVアイントホーフェンへステップアップした。この歩みはアリエン・ロッベンのデビュー当時と同じで、左利きでポジションが重なることでロッベンと比較されることもあった。サイドに配置され、抜群のキープ力を誇り、縦への突破力とカットインがあるという意味で共通点があった。

 ただ、個人的な印象としてロッベンの動きは直線的で、力づくかつスピード任せだった。ケガも多かった記憶が残る。一方、堂安はどうだろうか? 相手の動きを見て裏を突くイマジネーションがあり、なおかつアジリティに優れ、一瞬の動きで相手をかわす。中央へのカットインもただ内側に切れ込むだけでなく、相手がもっとも嫌がる人と人との間、ハーフスペースへ効果的に仕掛ける。いわば、動き、判断力ともに柔軟性や発想力があると言えばいいだろうか。さらには、質の高いアシスト&フィニッシュでゴールに絡む能力があり、このあたりを考えるとB・シウバと重なるところがある。

 加えて、もともと体幹が強く球際の競り合いで負けないタイプだったが、現在はフィジカルの強さがよりパワーアップしている。フローニンヘン、PSVを経て戦いの場をブンデスリーガに移し、ビーレフェルト、フライブルクでプレイするうちに“本場”で戦い続ける身体になっていったのだろう。ロッベンのように一瞬のゴールを演出するのではなく、90分間全力でプレイでき、前線からの守備もいとわない。相手のもっとも嫌がる選手になれるのが堂安だ。

 とくに、新シーズンで監督就任13年目となるクリスティアン・シュトライヒが率いるフライブルクは、守備のタスクが重要なコレクティブなサッカーを志向する。各選手が切り替えの早さ、マイボールを素早くフィニッシュに繋げることを意識するなか、堂安は右ウイングで出場を重ねることでスキルアップし、チームのEL出場権獲得(5位)に貢献した。カタールW杯での2得点、ドイツ戦、スペイン戦でのいずれも同点に追いつくゴールを覚えている人は多いはずだ。ピッチに立ち、ボールを持つと“何か”が起こる予感がする。現在の堂安は、そんな雰囲気を漂わせている。

周囲を生かし自分も生きる 堂安の存在が日本の武器に

周囲を生かし自分も生きる 堂安の存在が日本の武器に

ドリブル、キープ力、スタミナ、献身性と、堂安と似た特長を多くもつベルナルド・シウバ photo/Getty Images

 堂安だけでなく、日本代表にはそれぞれ特長を持った選手が集まる。そして、お互いがその特徴を理解し、試合のなかで生かそうとしている。「チームプレイに迫力が出てきたなと思います。今日のゴールはほとんどショートカウンターでしたが、いまは欧州でもきれいに崩してゴールというのはほとんどない。そう考えると、チームプレイに迫力が出てきたのはいいことだと思います」(ペルー戦後の堂安)

 良い守備からの良い攻撃。これが日本代表にある変わらないコンセプトのひとつだが、堂安はウイングでもインサイドハーフでもまずは守備のタスクをこなし、マイボールになったときには素早く周囲を生かすことができるし、生かしてもらうポジションを取ることができている。いわば、人を使えるし、自分が生きるポジションを取れている。ゆえに、どのポジションでプレイしても機能している。

「三笘、久保、堂安など突破力があってボールを持てる選手が多いので、自分が時間を作ってカウンターに繋げるのも効果的です。そこは自分にしかできない部分でもあるので、挑戦していきたいと思っています」(エルサルバドル戦後の上田綺世)

 選手間の連携を深めることで、今後により多くの攻撃のカタチが見られるかもしれない。伊東や三笘の突破力に、久保の俊敏でトリッキーな動き。さらには、上田のシュート力。これらすべてを生かすことができて、なおかつ自分の特長もいかんなく発揮できるのが堂安だ。

 卓越した技術も持ちながら泥臭いプレイをいとわず、チームのリズムを刻み続ける新10番の覚醒は、日本代表に追い風をもたらしている。「日本のB・シウバ」の誕生は、日本代表のサッカーをもう一段レベルアップさせてくれるはずだ。


文/飯塚 健司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)283号、7月15日配信の記事より転載

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